第42話◇ディレンドン王女が、燃エテキマシタワー


「サーラント王子! わたくしのこと憶えていらっしゃいますか?」


 サーラントに駆け寄ったドワーフのお嬢様。赤いドレスの豪華な金髪に金色の口髭のディープドワーフの女の子は、目をキラッキラと輝かせている。王子?

 相手をするサーラントはかしこまって、


「憶えておりますとも、ディレンドン王女」

「「王子ー!?」」


 小妖精ピクシーコンビ、シャララとリックルが揃って叫んでサーラントの顔の前にパタパタと翔んでくる。


「え? サーラントって王子なの? ウソ?」」

「えー? ぜんぜん王子に見えないのにー? ウソだあ」

「だよね? リックルもそう思う? そうよね、王子様ってもっとこう、キラキラッ、しゃらーんてしてないと!」

「そうよそうよサーラント! 乙女の夢を返してよ!」


 サーラントは憮然として、


「悪かったな、キラキラしゃらーんじゃなくて」


 ディレンドン王女と呼ばれた赤いドレスのドワーフのお嬢様は、ブンブンと首を振る。


「いいえ! サーラント王子は私の憧れです!」


 ぷぷっ、サーラントが憧れの王子様? 思わず吹き出しそうになるのを手で口を押さえてなんとかこらえる。

 サーラントが、憧れの王子様? うくく。いかん、鼻からなんか出そう。サーラントが王子、ぷはははは。

 メッソが俺に小声で、


「お、おい。ドリンは知ってたのか?」

「いや、初耳だ。だけどサーラントの物腰とか行動からドルフ帝国の貴族か王族かと推測はしてたが」


 ドルフ帝国の機密のカノンに触れられる辺り、上層部関係者だろうというのは解っている。しかしそれが王子、くくく。サーラントには似合わない称号だ。


「おいドリン、なんで教えてくれなかったんだよ?」

「サーラントが黙っていたからな。それに王族だろうが貴族だろうが、サーラントはサーラントだろ」


 それでもサーラント王子様、か、微妙だなおい。ぷぷっ。

 あ、サーラントに睨まれた。

 興奮したディレンドン王女は続ける。


「ドルフ帝国の3人の王子。歴代でも優秀との評判で3人がそれぞれ、知恵と力と勇気の象徴とも呼ばれていますわ」


 サーラントの担当は知恵じゃ無いな。あと怖いもの知らずの特攻野郎を勇気というのは、勇気に失礼じゃないか?


「なかでも第三王子、サーラント=ドルフィッヘ=エクゼスタン様は、子供の頃から身分を隠しながら街に出ても、その人望から集まった人馬セントール達のリーダーに」


 あ、ミトルから聞いた激駆隊のことかな? ローゼットが副官してたという。いやサーラントの後始末係り?


「その隊を率いて、魔獣退治や山賊退治。異種族喰いの巨人ジャイアント亜種青巨人トロールから村を守るために戦ったり、常に先頭に立ち皆のために奮戦していたと。故郷の森を焼かれた女蜘蛛アラクネの一族を助けて、ドルフ帝国へと連れ帰った物語に私は胸を熱くしましたわ!」


 目をキラキラ輝かせてサーラントの武勇伝を語るドワーフのお嬢様。

 サーラント、昔っからそんなことしてたのか。そりゃミトルもセルバンもローゼットも苦労するなあ。


「サーラント様が今も名も身分も隠し武者修行の旅をしていると聞いております。なんとかそれを知ることはできないか、と調べさせたりしてますのよ。最近では人間ヒューマンレッド種の方と知己を得て、サーラント様がマルーン西区の百層大迷宮に挑んでいると聞いたところなんですの」


 サーラントが珍しく敬う態度になる。


「よくご存知で。さすがは白銀しろがねの激流姫、ディレンドン王女」


 王女? この金髪の赤いドレスのドワーフが王女? 


「姉がおしとやかで、私がおてんばだから静流姫に激流姫とか呼ばれたりしますが、サーラント王子には遠く及びません。なんでも人間ヒューマンの誘拐組織を壊滅させたというではありませんか?」

「あれについては、そこの魔性小人ブラウニーと共にしたことです」

「私もサーラント王子の真似をして、名を隠してドワーフ王国内をあっちに行ったりこっちに行ったりしてますが、サーラント王子のように事件に邂逅して解決するような事態に出会えませんの」


 何やらちょっと変わった王女様のようだ。サーラントが恭しい態度なんて珍しいと思ったら、王子と王女として昔に顔を合わせたことがあるようだ。


「なにかひとつでも功績を上げて、きたるべき人間ヒューマンとの戦争には、ディープドワーフの戦士を率いて戦場に出るのが夢ですのに。激流姫と呼ばれるに相応しくなろうとがんばっているのですが。サーラント王子はどうやって揉め事とか事件を見つけてますの?」


 訂正、かなりのおてんば姫のようだった。

 憧れの英雄を見るような目で、ディレンドン王女はサーラントに話かけている。このサーラントに憧れる辺りで、こちらもマトモな王女なのか怪しいが。

 サーラントもいつもとは違い敬語で話している。王子として話しているサーラントは初めて見るな。なんだか妙な感じ。

 護衛の方のドワーフの女を見ると、少し疲れたような顔でため息をついていた。

 うちのサーラントがそちらのお嬢様の勢いに油を注いでいたら申し訳無い。心の中で頭を下げておく。


 ディレンドン王女が落ち着いたところで皆で席につく。ドワーフの足の長さに合わせた椅子なので、人馬セントールのサーラントは床に敷物を用意してもらった。小妖精ピクシーコンビ、シャララとリックルはテーブルの上の小妖精ピクシーサイズのソファに座ってるのだが、なんだこりゃ。

 シャララとリックルの座るソファの前にも小さなテーブル。テーブルの上にソファとミニテーブル。そこにミニマムサイズのティーポットやらティーカップ。そしてふたりのまわりのテーブルの上は、クッキーにケーキにパイにプリンと甘いお菓子が包囲している。


「やーん。どれから食べようか迷っちゃう」


 シャララとリックルは肩を寄せ会ってにっこにこだ。

 白い立派な髭を青いリボンでまとめたこの屋敷の主、ディープドワーフ貴族が改めて名乗る。


「私がレジオンス=くろがね=バルトマー。そして妻のニルジーナ。あー、ここに王女が来ていることは、内密ということでひとつ頼む。ディレンドン姫も自分から偽名とか考えていたのにあっさりばらしましたな」

「ごめんなさいね。改めまして、ドワーフ王国第二王女、ディレンドン=白銀しろがね=マークディファトと申します。どうかお見知りおきを。先ほどは浮かれてはしゃぎすぎてしまいましたわ」


 金の髪に金の口髭が可愛らしいディープドワーフの王女様。その後ろに立つ護衛の女ドワーフを掌で示し、


「彼女がシュディナ。私の護衛などをしてもらっています。シュディナが探索者をしていたときの部隊仲間パーティメンバーにガディルンノさんがいらしたのですよ。リックルさんから話を聞いて、王都白銀しろがねケイラインから来て頂きました」

「シュディナです。ガディルンノが元気にやっていると聞けて、私も嬉しいです」


 そのわりにはなんだか不機嫌なような。手紙ひとつの件で呼び出されて困ってるのかな?

 ディレンドン王女が頬に手をあてて、


「シュディナとガディルンノの探索者時代の甘いロマンス、シュディナに聞いて、私も1度ガディルンノさんには会ってみたかったのです」

「お嬢に話すんじゃなかった……。あー、そのガディルンノの手紙、拝見させて頂いてよろしいか?」


 メッソが懐から取り出したガディルンノの手紙を護衛のシュディナに渡す。

 読んでる間にこちらも挨拶、敬語不要と言うことなので、サクサク行こうか。


「俺はドリン。小人ハーフリング希少種魔性小人ブラウニー。サーラントとはコンビで探索者をやっている」

「ドルフ帝国第三王子、サーラント=ドルフィッヘ=エクゼスタン。だが今回は王族としてでは無く、いち探索者のサーラントとしてお願いする。今回の件ではドルフ帝国とは関係無く、俺の一存であることを理解して欲しい」

「探索者、部隊パーティ白髭団のリーダー、メッソです」

「同じく白髭団所属の小妖精ピクシー、リックルよ」

「マルーン西区、百層大迷宮に挑む部隊パーティの中ではトップクラス。猫娘衆の一員、蝶妖精フェアリーのシャララでーす」

「百層大迷宮の中で5千年隠れて暮らしてきまシタ。黒浮種フロートの長、ノスフィールゼロと申しまスノ」


 ………………………………、


 流れにのる感じでリュックの中から取り出したノスフィールゼロをテーブルの上に置いて挨拶させてみた。

 するとディレンドン王女もレジオンス=くろがねもその奥方も、ピシッと固まってしまった。

 今まで見たことも無い種族に初めて会ったらこんなものかな。

 テーブルの上に立つノスフィールゼロはその黄色い瞳で並ぶドワーフ達を見る。

 ディレンドン王女がおそるおそるテーブルの上の、全長40センチの黒いてるてる坊主に話しかける。


「えっと、ノスフィールゼロ、さん? もしかして5千歳を越えてらっしゃるの?」

「説明不足でしタノ、黒浮種フロートという種族が5千年地下迷宮の1角に隠れて住んでまスノ。黒浮種フロート個体の寿命は約5百年くらいでスノ」


 ノスフィールゼロは白い3本角のような豪華な帽子をかぶっている。この日のために帽子の飾り石は昨日磨いておいたからキラキラしてる。

 緊張せずに種族代表として堂々としているようで、俺も一安心だ。


「さて、どこから説明したものかな」


 口を開こうとしたら王女の後ろ、護衛役のシュディナが言う。


「このガディルンノの手紙に書いてあります。ちょっと信じがたい内容ですが、お嬢、先にこれを読んでください」

「私が読んでもいいんですの?」

「この1枚は私個人宛てなのでダメです。こちらを」

「わかりました。その1枚はあとで読ませて頂きますね」


 シュディナがダメって言ったでしょ、とかブツブツ口にしてるがディレンドン王女は聞いちゃいない。ガディルンノの手紙を開いて食い入るように目を通す。


 じゃ、その間に紅茶とケーキをいただこうかな。目の前のチーズケーキをひとつもらう。手にしたフォークには花と鳥の絵が彫り込まれてるあたりはさすがドワーフ貴族。細工が細かい。チーズケーキを一口、おぉ、チーズが濃厚でふわふわした食感。

 ドワーフは歯応えのあるのが好きなのか、お菓子も固いせんべいとかビスケットとか多いのに、ここのお菓子は小妖精ピクシー向けに柔らかく作ってあるみたいだ。

 メッソが緊張した様子で、


「ドリンはこういうの慣れてるのか? なんか余裕を感じるんだが」

「メッソは緊張してるのか? とりあえず紅茶でも飲んだらどうだ。俺は慣れてるというよりは、一応白蛇女メリュジンの種族代表代理のつもりだからな。だから相手が誰であれ対等の気分でいかないと白蛇女メリュジンが安く見られる。あれこれとかしこまりすぎても話にならないし。このケーキも美味しいぞ」


 メッソは紅茶に口をつけて、ふーと一息ついて、


「そうだな。お前らの計画にのるならここでおたつくような奴じゃ役に立たんか。よし、俺も気を入れ直した」

「とは言ってもここで俺達ができるのはノスフィールゼロのサポートぐらいだ。気楽にいこうか」


 手紙を読み終えたディレンドン王女はプルプルと震え、


「ずるいですわ、ずるいですわ、サーラント王子はいつも素敵でおもしろそうなことを。白蛇女メリュジン? 黒浮種フロート? その上ドラゴンですって? 決めましたわ。私も探索者になります」

「お嬢、国王に叱られます。やめてください」


 サーラントも王子としてどうかと思うが、そのサーラントに憧れると言うだけあってこの王女様もどうかしてる。そのどうかしてるところが実にいい。

 あっちこっちに行ってなにかおもしろいこと無いかと探す気質は、ドワーフよりも小人ハーフリングに近いところがあるような。一緒にイタズラとかしたくなるタイプ。

 ガディルンノの手紙はレジオンス=くろがねと奥方に回ってから俺にも回ってくる。

 書かれてあることをザッと確認してから、ノスフィールゼロ主体で、俺とサーラントがフォローしつつ説明をする。


 百層大迷宮、その隠しエリア。

 未発見の種族、白蛇女メリュジン黒浮種フロートのこと。

 古代種エンシェントドラゴンのこと。

 そしてトンネル計画について。


「これをドウゾ」


 ノスフィールゼロからディレンドン王女に渡されたのは、紫色の手のひらサイズの巨大な鱗。

 光の反射が虹色に煌めく、古代種エンシェントドラゴン実在の証。

 鱗1枚で全体像の想像は無理だろうが、これまでこの大きさの鱗を見たことのある者はいない。

 ディレンドン王女はうっとりとその手にする虹色に輝く鱗を見つめながら、


「お話はわかりました。そのトンネル計画にドワーフの力が必要ということですね。ですが疑問があります。サーラント王子はなぜドルフ帝国へとトンネルを掘ろうとしませんの? ドルフ帝国にはシャロウドワーフもいますのに」

「ドルフ帝国には既に国内に百層大迷宮がひとつある。多種族国家とはいえひとつの国が大迷宮をふたつ抱え込むのは、ドワーフ王国もエルフ同盟も気に食わないのではないか?」


 サーラントが言ったことは俺とサーラントであーだこーだ話しあって考えた。トンネル計画の初期段階の時点で。なので俺も補足して、


「他には距離の問題だ。単純にエルフ同盟の森が直線距離で1番近い」


 ディレンドン王女は薄く笑う。


「ドワーフ王国のことを考えますと、その大迷宮の横道トンネル。このドワーフ王国内に繋げるのが私達にとっては良いですね」


 お、ただのおてんば姫ってだけじゃ無いな、この王女様は。


「ゆくゆくはそれもありだろうな。だけど今回は時間が惜しい。人間ヒューマンが気づいて手出しする前に、まずは1本トンネルを開通させたい」

「エルフ同盟が人間ヒューマンから百層大迷宮をひとつ手に入れることには賛成です。ただ、それにドワーフ王国が手を貸してどのような利があると?」

「ドワーフで無ければ速やかにトンネル開通できないし、そのことがエルフ同盟に恩を売ることにもなるだろ? それにドワーフが作ったものをドワーフが使うことはおかしなことでもない。ちょっとエルフの森に寄り道する必要はあるが、ドワーフ王国も百層大迷宮に探索者を送ればいい」

「なるほどですね。それにドワーフ王国が百層大迷宮から恩恵を得るには、まずは地下の白蛇女メリュジン黒浮種フロートの安全を確保して、人間ヒューマンの手が出ないようにする必要がある、ということですね」


 聞いていたレジオンス=くろがねが、むむう、と、


古代種エンシェントドラゴンという守護者がいれば、その地の安全は守られているのでは?」

「ドラゴンが本気を出せば、あの百層大迷宮は上の街ごと崩壊して無くなってしまう。それに古代種エンシェントは今の世界に手出し口出ししたくないらしい」


 俺はみんなを見渡して、


「俺が聞いても紫じいさん、古代種エンシェントドラゴンのことだが、その紫じいさんは言葉を濁して教えてくれなかった。だが、俺の推測では紫じいさんは自分からその身を百層大迷宮に閉じ込めたんじゃないかな。巨体と強大過ぎる力で地上の種族に迷惑をかけないように、と」


 ディレンドン王女はほう、と息をついて、


古代種エンシェントは世界の片隅で、ひっそりと我等を見守る。伝承のとおりですわね」

「悪魔に関わるような事件か、世界の崩壊に繋がる事態でも無ければ、古代種エンシェントは出てこない。そして古代種エンシェントは今の時代にあまり関わりたく無いらしい」


 レジオンス=くろがねが、ふう、と息を吐く。


「話が壮大すぎてついて行けんが、ようするにトンネル計画に地下都市設計や採掘に慣れたドワーフの職人が必要、なのだな」

「その通り。そしてドワーフ王国の利はこのノスフィールゼロ、黒浮種フロートが用意する」

 

 ノスフィールゼロは昨日作ったものをディレンドン王女に進呈する。


「これは黒浮種フロートからの贈り物でスノ。友好を願ッテ」

「これは?」

「このように変形させて使いまスノ。折り畳み式ミニハサミでスノ」


 預かり所のシャロウドワーフの一言から作られた、持ち運びに便利なオシャレ用のハサミ。


「そのハサミは髭の手入れに便利で簡単にしまえると、ドワーフに好評だ」

「こちらの筒は?」

「照明でスノ。スイッチを押せば明かりが点きまスノ。動力はゼンマイでこの取手を回してゼンマイを巻きまスノ」


 俺とサーラントが初めて白蛇女メリュジンの里を訪れたとき、歓迎の宴で夜を照らしていたテクノロジスの照明。

 あれがゼンマイで光っていたと知ったときは驚いた。手動とゼンマイだけでは寂しいとか言ってたけど、テクノロジスやっぱり凄い。ゼンマイ式の投光器なんて初めて見た。


くろがねセンドーの街で照明が必要かという話を聞いて作ってみましタノ」

「照明もハサミもテクノロジスの産物だ。黒浮種フロートと仲良くなれば、ディープドワーフにとって新たな加工技術が開発できるんじゃないか?」


 趣味とはいえ小妖精ピクシー用のフォークとかティーカップとか手作りしてたというレジオンス=くろがねの奥様が、手にした小さな折り畳み式ハサミを真剣な目で見る。


「これがテクノロジス……」


 ノスフィールゼロは胸を張って嬉しそうだ。テクノロジス! と声を出したいところを我慢している。

 ディレンドン王女は、ふむふむと、


「テクノロジスはドルフ帝国が管理して秘匿している技術なのでは?」


 今のところテクノロジスはドルフ帝国にしか無いからな、


黒浮種フロートもテクノロジスを使える。ただ、ドルフ帝国のテクノロジスと黒浮種フロートのテクノロジスは少し違うようだ」


 サーラントが続けて、


「ドルフ帝国が秘匿するのは、カノンのように広まれば危険な技術だけだ。ドルフ帝国のテクノロジスの産物、工具や着火器などはドワーフ王国でも使われているし、彫刻刀や木工用の工具はエルフの森でも人気がある。それと、カノンの秘密を探ろうとドワーフ王国が調べていることも知っている。テクノロジスという名の技術に興味があるのだろう?」


 サーラントは持ってきた手甲ガントレットをディレンドン王女に渡す。


「一見金属に見えるように塗装されているが、これも黒浮種フロートのテクノロジスの品、セラミクス製だ」


 ディレンドン王女は手にしたことでその手甲ガントレットの重量、見た目よりも軽いことと金属では無い未知の素材でできていることに気がついたようだ。驚きで目を見開く。

 ノスフィールゼロがふわりと浮き上がりディレンドン王女と目の高さを合わせる。


「ドワーフがトンネル工事に手を貸して頂けるなラバ、我々にはセラミクスの素材と加工技術を提供する準備がありまスノ。ご一考頂けまスカ?」


 ディレンドン王女はノスフィールゼロをじっと見る。その頭の中ではいろいろと考えて計算しているようだ。トンネルができたとしてもそのトンネルの利用とかでエルフ同盟と揉めないようにとかあるだろうけどな。

 ディレンドン王女、はっちゃけているようで、王族としてドワーフ王国のことをちゃんと考えているようだ。あと一押し。

 俺はポツリと口にする。


古代種エンシェントドラゴンに見守られながら、未知の種族を助ける物語。さて、未来ではどのように伝わるのかな?」


 ディレンドン王女がキラリと光り、勢いよくバッと立ち上がり、


「シュディナ、レジオンス、すぐに技術者を集めなさい。王都の地下都市建設職人からも元気な者を引き抜いて、王国採掘集団『穴堀一徹』にも連絡を、資金は私が出しますわ。ディープドワーフが誇る技術集団、いえ、最高の職人軍団を組織してエルフの森へと向かわせるのです!」

「お嬢、エルフの森でのトンネル工事をエルフ同盟がなんと言うでしょうか」

「私がこれから直接エルフ同盟に行き話をつけます。そのままトンネル工事の陣頭指揮をとりますわ」

「1度国王にお話を」

「そんな暇はありませんわ。そうですね、そこはレジオンスにお願いしますわ。父上の方は任せます。私はエルフ同盟へ出立準備を、先に親書を手配しないと」


 よし、いい感じだ。どうせやるならちょっと手を貸すとかじゃ無くて、がっちり食い込んできてくれるらしい。

 その方が後でドワーフ王国のお手柄とか言いやすいしな。


「この街の採掘技術者については、このメッソがすでにあたりをつけている」

「え? あぁ、俺と姉さんと兄貴で話をつけてます。資金があれば、エルフの森に連れてく人数とか増やせそうです」


 ディレンドン王女はメッソをビッと指差して、


「では、メッソさん。今日から貴方に私の副官を勤めていただきます」

「ふ、副官?」

「うふ、前代未聞の百層大迷宮への横入り、うふふ、伝説の古代種エンシェントドラゴンとの邂逅、うふふふふ、未知の種族に未知の技術、テクノロジスをドワーフ王国に、そして伝説級の物語に関わる栄誉をこのわたくしに、うふふふふふふふふ」


 その背中に炎が見えるような、風も無いのに金髪と赤いドレスがはためくような。

 ディレンドン王女は満面の笑顔で、両手の拳を握りしめて肩の高さに、足を肩幅ほどに開いて踏みしめて、天を見上げて、


「燃エテキマシタワー!!」


 咆哮した。


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