第28話◇白蛇女の戦闘訓練
地上と地下迷宮の隠しエリアを往復して、アルマルンガ王国貨幣を金銀宝石に換えて持ち運ぶ。
地下迷宮から出るときはやたらと細かく調べられるが、地下迷宮に持ち込むときには検査は無い。
ノクラーソンが居なくなった監理局の奴らはたるみきっていて、地下迷宮に入る探索者の顔すらチェックしない。出るときのお宝検査だけだ。おかげでやりやすい。
踊る子馬亭の店長とか、宿屋の
監理局にとっては地下迷宮のお宝の持ち逃げを防ぐのが仕事なんだろうが、探索者の
ノクラーソンは俺達になにを見ていたんだろうか。酔った勢いで出た、羨ましいという言葉。異種族の探索者を相手にむすっとした顔で仕事をしていたあいつが、腹のなかに溜め込んでいた思い。
それがノクラーソンの仕事に対する原動力になっていたのか?
そのノクラーソンが大迷宮監理局からいなくなったことで、百層大迷宮の出入り口で探索者そのものへのチェックが甘くなったのは幸運だが。
それでも、探索者の持ってくる財宝に魔晶石が少なくなってきたのをそろそろ怪しまれる頃だろう。
20層級と10層級の探索者は変わりないが、30層級の探索者は
そんな探索者達は地下の隠しエリアのことを、『魅惑の花園』『古代の息吹』『ドラゴンランド』『おっぱいパラダイス』『目隠しの村』『地下の月光』とか好き勝手に呼んでる。今のところはこれといった呼び名は決まって無いが、そのうちどれかに落ち着くだろう。
「なかなか様になってきたんじゃないか?」
地下迷宮の通路から
この洞穴はふたり並んで通れるぐらいの幅しかない。
その洞穴を離れて囲むように、高さ1メートルちょいの防壁が造られている。これを作るのを手伝ったディグンが言うには。
「この防壁の材料はトンネル工事に出てくる岩盤を
とのこと。これで唯一の出入り口を出てくる者を迎え打つ防壁に。
「じゃ、練習してみようか。敵が来たぞー!」
防壁の後ろに隠れていた
そして一斉に洞穴に向けて矢を放つ。ついでに攻撃魔術の闇刃、火弾、風刃、水弾の乱れ撃ち。
なかなか凄い。投射攻撃魔術の使い手が多いからできる戦法、といったところか。
「こんな感じでどう?」
と聞いてくる。
「いいんじゃないか。洞穴から出てきたところを叩くには。でも強引に魔術防壁で突っ込んで来たときにはどうする?」
「それには近接戦しか無いんじゃない?」
シュドバイルが指差す方を見ると、5人の
ひとりの
その
「素早く囲め。そして背後を取ったからと油断するな」
サーラントの背後から襲おうとした
一見蹴り飛ばしているように見えるが、そこはフェミニストのサーラント。足に乗っけて持ち上げて放り投げるという動作を繋げて、
いつものフレイルでは無く長い木の棒で
足技が多いのは
それを見ながらヤーゲンが感心したように言う。
「サーラントは突進以外でもやるもんだな。背が高いから
「いや、ちょっと困ってるみたいだぞ。まぁ、
「ドルフ帝国の
「敏捷性なら
サーラントを囲んだ
「
「よし、それまで。休憩にしよう。目の前の敵だけに集中しないで、味方の動きもよくみるんだ。そして味方の欠けた穴を塞ぐように位置取りすることを、心掛けてくれ」
カゲンが
この丁寧な指導で
「サーラント、
「これほどのものとは思わなかった。下半身蛇体の特徴なんだろうが、
戦闘練習の相手に立候補したディグンとバングラゥは、あっさり
カゲンとヤーゲンとスーノサッドは指導ということで
ディグンとバングラゥもモテたい動機で参加したものの、なにせ視線を合わせる前から
視線の
シュドバイルが不安そうにサーラントに尋ねる。
「私達は
シノスハーティルも不安そうに、
「弓矢も使うのは初めてですし」
「
「弓ですか? まぁまぁといったところです。ただ今回は狩猟とは違って洞穴から出てきたところをみんなで射るのだから、熟練は必要ないでしょう。その点では十分ですよ」
ファーブロンも指導する立場と役目ができてからは
いや、単に可愛いとおもちゃにされることに慣れただけかもしれないが。
カゲンとヤーゲンにも聞いてみる。
「どんな感じだ?」
カゲンは、
「基本的なところは教えた。あとは経験か」
ヤーゲンが、
「なので、猫娘衆が
それで練習相手には向かないんだよなぁ。
カゲンが狼の顔を険しくする。
「
「
地下迷宮から出る
使うのに魔晶石が必要だが、身体能力強化の常時発動、魔術防壁の自動発動と過去の
ドルフ帝国のテクノロジス、
「
東の
ヤーゲンがサーラントに尋ねる。
「サーラント、ドルフ帝国から
「無茶を言うな。
カゲンが狼の顔の眉間に皺を寄せて、
「
「一応あるけどな、
俺はポケットから札を取り出す。銀線で作った魔術回路を布で挟んだもの。
「あるならさっさと出してくれよ」
言ったヤーゲンに渡しながら応える。
「魔術に介入する錬精魔術のもので、これを
「頼りない言い方だな」
「俺自身が
何枚かカゲンにも渡しておくが、他にも対策が必要だ。
「えい、えい、えーい!」
元気な掛け声がするので見てみると、ミュクレイルがパリオー相手に訓練をしていた。穂先の無い木の短槍で身長50センチの
「甘い! 甘いぜミュクレイル! それではこの褐色の閃光を捕まえられないぜ!」
「待てー!」
訓練じゃなくて鬼ごっこかもしれない。
「パリオー、エルカポラとガディルンノを呼んで
以前に考えたことのある
ここでなら作れるかもしれない。いろいろ知ってる奴が増えたからな。
「と、いうわけでこの戦法なら
ここまで言って回りを見ると、パリオーとガディルンノが青い顔をしていた。エルカポラと
パリオーが、うえー、という顔をする。
「ドリン、よくそんなえげつないこと思いつくな」
ガディルンノも顔をしかめる。
「効果あるとは思うが、なんと言うか、ひどいな」
「ひどいのは
エルカポラが少し考えて、大きなアリの顔は表情が読みにくいな。
「問題は味方を巻き込まないようにする使い方でありますな」
「俺とサーラントが地上に出て、エルフ同盟の森に行ってる間に作ってみてくれないか? 秘密兵器として」
パリオーが手を上げて、
「俺はいいけど、エルカポラとガディルンノが忙しくないか? エルカポラはトンネル工事、ガディルンノは
「エルカポラとガディルンノには知識を借りたい。俺の知らない分野でふたりなら知ってるんじゃないかな、と」
エルカポラが頭の触覚をピコピコさせて、
「ワタシは興味があるのでやってみたいですぞ」
ガディルンノは、うむ、と頷く。
「ワシは張り切っとる者のサポートしておるだけでな。横から口とか手を出しておる。これもそのひとつなのだろ」
セプーテンはぷるぷる震えて、
「私は感激していマス」
は? なんで?
「戦う方法にはこんな思考方もあるのでスネ。殴り会うだけが戦闘では無いのでスネ」
「おいこらドリン! 純粋な
「イエ、協力しマス。是非、我々に作らせてくだサイ。コレは我々
「セプーテン、俺達はもう友達だろ? もう対等につきあってんじゃないか?」
「パリオーサン、ありがとうございマス。ですがどうやら
「まぁ、そうなんだけどさ」
「
パリオーとガディルンノがじったりした目で俺を見る。なんでだ。なんでどいつもこいつも自分のことを棚に上げて、俺のこと頭おかしい子扱いするんだ?
理屈も理論も俺の方が正しくまともなはずだろうに。納得いかん。
「セプーテン、頼む。これができれば
ガディルンノが重々しく言う。
「ワシらは触るな凸凹の発言や考え方が、
「そうだなー。
「ワタシも他の
「それだ。
「なんか、ひどい言われようだな。しかし他に
みんな黙って考え込むが、それが簡単に見つからないからこのアイディアなんだ。
「
「我々、盗まれちゃいまスカ?」
改めて
パリオーがウンウンと、
「
「そうなんでスカ? シャララさんがいつもグランシアさんの肩にいるのはそんな意味があったんでスネ」
俺はガディルンノに頼む。
「探索者が増えたから
「
「じゃ、パリオーには」
「
「皆サン、ありがとうございマス」
いろいろ不安はあるが、これでひととおり対策はできただろうか。
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