第25話◇酒のツマミは世界の神話
「ところで、なんでノクラーソンが踊る子馬亭で飲んでいるんだ?」
かなり酒精のまわったノクラーソンに聞いてみる。
「あー、探索者になろうかな、と」
「本気か?」
「一応、解析以外にも防御と支援の魔術が使える。あと治癒も少しならできる。それで
治癒の魔術が使えるなら
「ノクラーソン、職を失ったとはいえ、いきなり探索者は難しくはないか? 家族はなんと言っている」
「妻はとうに死んだ。ひとり娘も嫁いでいる。我がキスハルト家は私ひとりで後継ぎもいないし、財産も取られる前にほとんどを娘の旦那の所有にした。なので私が探索者になってもいいだろう。娘には止められたが」
俺は揚げた芋をつまみながら、
「ノクラーソン、
カゲンも頷く。
「もともと探索者向きでは無い種族だろう
サーラントが続けて、
「どうしても探索者をすると言うのなら、
ノクラーソンがワインを飲み、ため息をつく。
「昔は
「その昔の
「いや、結構だ。昔から
「昔には
俺はサーラントを見る。サーラントは魚の骨を取るのをシャララに手伝ってもらいながら言う。
「俺の祖国、ドルフ帝国が異種族連合の要となり、テクノロジスの
ファーブロンがチーズをもぐもぐしながら、聞いてくる。
「
「あ、それシャララも不思議だった。ねぇノクラーソンなんで?」
「なんでと言われても。単純に領土と食料の問題だ。アルマルンガ王国の西に広がる大草原を開拓して農地にしたいのだろう」
サーラントが呆れたように、
「大草原は
「
俺は骨付き肉の骨の軟骨のところをかじりながら。ここが旨いんだよな。
「
このマルーン街も食料の値段は上がった。今、食ってるものだって俺がここに来た2年前から比べて1.5倍くらいになってる。
シャララが可愛らしく首を傾げる。
「ねえ、ノクラーソン。なんで
「それは私の方が聞きたい。他の種族はそのあたりどうやっているんだ?」
ノクラーソンが全員を見渡すが、
「
「
「シャララはそんなこと、考えたことも無い」
「エルフはなかなか子供が産まれないですね。他の種族のこと詳しく無いので、比べてどうかがよくわかんないです」
「
皆が順にノクラーソンに応える。
「加護神のいる種族はそんなもんだ。むやみやたらと数が増えて同族同士で争うことの無いように神が守ってくれている。加護神のいない
「そうだな、俺の祖国ドルフ帝国にはそうやって捨てられた
「「えー?」」
シャララとファーブロンが声を揃える。じったりとした目でノクラーソンを見る。
「い、いや、私はちゃんと娘を育てた……、仕事ばかりで家庭を疎かにしてたことはあるが、乳母任せにしてた部分もあるが、親としての責任ははたした、はずだ」
「ノクラーソンの家庭ひとつの問題じゃ無いだろ」
俺は再びノクラーソンのグラスに酒を注ぐ。今度は俺の好きな林檎酒を。
さっきからノクラーソンはワイン以外も飲んでいる。他の種族の好みとか聞きながら。
で、飲むペースが早いような。大丈夫か? 今も林檎酒をグイグイ飲んで、
「加護神、か、
シャララがサーラントの皿の魚を手で食べながら言う。
「加護も無いのにどうして信仰できるかわかんない。神様は困ったときには助けてくれるものだと思うのだけど? そして、いつも見てる神様に楽しんでもらうために、シャララは、私達は、おもしろ楽しく生きていくのよ」
加護神のいない
在母神アルムと時父神スオンがこの世界を創り、この2柱から様々な種族の神々が産まれた。
それがこの世界、アルムスオンの神話。
俺の考えでは、ユクロス教は加護神のいない
もともと加護が無い種族、
ノクラーソンがため息をつく。
「ユクロス神は加護も無く、代わりに試練を与えると教会の奴等が言っていた。試練を乗り越え神に近づくのだと。そして
「ノクラーソン、酔っぱらっても西区でそれは口にしない方がいい」
「そうだな、すまん。だが、他の種族を知れば知るほど、
ノクラーソンはテーブルの上に突っ伏した。
「……私は、お前達が、羨ましい……」
そして動かなくなった。飲ませ過ぎたか。
シャララがテーブルに頬をつけるノクラーソンの鼻の頭をペチペチと叩く。
「寝ちゃったね」
クビになってのヤケ酒とはいえ、ずいぶんと溜め込んでいたようだな、ノクラーソン、
カゲンがジョッキのエールを飲み干す。
「酒のせいとは言えなぜ俺達に愚痴るのか。まったく、
ネオールが焼き鳥片手に呆れたように、
「だから
ファーブロンがおずおずと、
「あの、ノクラーソンさんのこと、どうにかなりませんか?」
「同情か?」
問うてみると、ファーブロンは少し考えて、
「同情もあるんですけど、僕はノクラーソンさんに助けてもらったことがあるので」
「ノクラーソンが? 初耳だ」
「僕が前にいた
シャララがファーブロンの肩の上まで飛んで、ファーブロンの頬をスリスリと撫でる。
「けっこう苦労してたんだ、ファーブロンてば」
「僕がドジなだけなんですけどね。そんなときにノクラーソンさんがお金を貸してくれたんです。そして、魔術師が引退してメンバーを探してる
ノクラーソン、そんなことしてたんだ。
「ノクラーソンさんは、『探索者が万全の状態で探索できるようにサポートするのも、大迷宮監理局の仕事だ』と言ってましたけど、ノクラーソンさん以外の監理局でそんなことするひといませんよね?」
まったく、どこまで仕事にマジメなんだか、このカイゼル髭は。マジメに仕事をしすぎた結果に職場を追われることになると、そのときは知らなかったのかもしれないが。
このとき、踊る子馬亭の扉が開いて
「ドリン、サーラント、ちょっといいだろうか」
「少し待ってくれ、カーム。えーと、ファーブロンはノクラーソンのことを頼めるか? それとノクラーソンに伝えてくれ。探索者の
「いいですね、それ。ノクラーソンさんがそれを続けて探索者から信用されれば、ノクラーソンさんをメンバーにっていう
「一応言っておくが、白角にノクラーソンを入れることには」
「解ってます。いまの状況ではまだ
「そういうことだ。で、カゲンは」
「俺はこのまま、踊る子馬亭の店長と話をする。まぁ、乗ってくれるだろうがな」
「頼む。ネオールとシャララは少し休んでてくれ」
「わかった。少し寝ることにするよ」
「シャララはカゲンといっしょに店長とお話するね。シャララはネオールのバッグの中で寝るから」
「では、行くかドリン」
「待て待て、サーラントはミトルと話をつけてこい。ついでにドルフ帝国と周りの様子も聞いてこい。状況しだいでは、俺がサーラントの背中に乗ってドワーフ王国とエルフ同盟の森に行くのを急がないとならないからな」
「ではドリンひとりで行くのか?」
「カームが一緒だ。問題無いだろ」
「それなら、先にノクラーソンを宿まで運ぶとするか」
「そうしてくれ。待たせたなカーム。行くとするか」
「案内する。ついて来てくれ」
カームの後に続いて西区の夜の街に出る。店舗と契約した魔術師の明かりの魔術が街灯に灯り、マルーン西区の夜を照らす。
地上は日が落ちると少し肌寒い。
カームの後ろ姿を追いかける。何やらカームは少し緊張しているみたいだ。
「カーム、どこまで行くんだ?」
「そんなに遠くない」
「なんか、固くなってるぞ?」
「……私の一存で、
「俺達は信頼できる人材が欲しい。カームの紹介なら安心できる」
「ドリンの信頼にどこまで応えられるかも不安なんだ。私達に大したことはできないから」
「弱気だな」
「戦闘は
カームも含めて
妙に気を使うというか、自己評価が低いのか。
「カームは自信持っていいぞ。探索者でトップクラスの猫娘衆の一員だろ」
「あれはグランシアのおかげだから」
「その言い方はカームのことを認めて仲間にしてるグランシアをバカにしてるから、気を付けた方がいい」
「!……わかった。気を付ける。ありがとうドリン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます