第23話◇ちょっと地上に、ファーブロンはお年頃?
「宿屋、というよりは簡易宿泊所か?」
サーラントが見たままの感想を呟く。俺は白い立方体の建物を見ながら返す。
「ぶっちゃけ、雨も降らないここなら寝るだけなら
探索者にとって宿屋で重要なのは、安心して荷物や予備の装備品に金目のものを保管してくれるところだ。
俺達が使ってた地上の宿屋でも、もと探索者の
「
「これまで貨幣と縁の無いと暮らしをしてた
「そのあたりは俺達で教えていくしか無いな。ただし、アルマルンガ王国貨幣で取引は無しだ」
「どういうことだ?」
「この場所が探索者の拠点として活動が始まれば、地上の
「なるほど。それにアルマルンガ王国貨幣を集めたときに地上で戦争が始まり、
「
「魔晶石はわかるが、金と銀は必要か?」
「金と銀は魔力の伝導体として優秀なんだよ。俺の持ってる簡易魔術回路も銀製だし。洞窟で使ってる削岩機にトンネルメーカー、どちらも魔晶石から繋がってるコードは銀線の表面をコーティングしたもの、と
「
「それに金と銀と宝石は取り引きにも使えるからな」
ふとキッタンキッタンと音のする方を見ると、
今は敷物と寝具用を作っている。ここに探索者が増えることに備えて。ついでに
「さて、俺達は一旦地上に行くか」
「そうだな。宿屋の
「なんとか引っ張りこみたい。それに地上で預けてある赤線蜘蛛の稼ぎがまだ残っているから、これも貨幣から現物に替えてここに持ち込みたいしな」
「ところで、ドリン。
「なんだ? まだなにか心配か?」
「彼らの言う侵略用の兵器についてだが」
「テクノロジスがこの地で完全再現できないのなら、
「そこじゃ無い。道具と兵器の線引きの話だ」
「そりゃ、難しいな。包丁で料理もできるが誰かを殺すこともできる。昔からの命題のひとつだな」
「茶化すな。確かに戦闘の達人ともなれば鍋の蓋で相手を殺すことも可能だ。だが戦争用の兵器ともなれば話は違う。しかし、侵略用の兵器と防衛用の武装、どこで区切るんだ?」
「
「彼らがどこまで理解できるか。命のやり取りをする戦いそのものが原始的で、知恵のあるものの問題の解決方法にふさわしくありません。非論理的デス。とか言われたぞ」
「それならもっと解りやすく例を出すんだな。
「それなら1度、
「それはいいな。ついでに魔晶石も集めて見せてやるといい」
サーラントとお喋りしながら待っていると、目的の相手が来た。
「おまたせー」
「準備できたぞ」
「あれ、カゲンも行くことにしたのか?」
「あぁ。地上の預かり所に預けてある貨幣を持ち込みたいからな。数回に分けて宝石や調味料、生活用品に替えてここに持ってくる算段だ」
「灰剣狼なら、相当溜め込んでるだろ?」
「それなりには、な。43層からの雪原用の防寒装備品にかなり注ぎ込んではいるが」
「ファーブロンは?」
俺は金髪の少年エルフを見る。ファーブロンは元気よく、
「白角の荷物を取りに行きます。
「そうなのか? ファーブロンにもいろいろと」
ここまで言ったところでカゲンが俺の肩を掴んでしゃがむ。指先をチョイチョイと動かして呼ばれたサーラントも屈んで顔を近づける。なんだ?
「ファーブロンはな、ここで
こそこそと小声で。サーラントがなるほどと、
「早く一人前になりたい少年には、子供扱いはカンに触るか」
「
カゲンとサーラントがしばし見つめ合って、カゲンが言う。
「
「ふむ、背の高い種族の成長期の悩みのようだな。同族に一人前扱いされなくて、イラつくのと同じようなものか?」
ふたたびカゲンとサーラントが見つめ合う。俺、なんかおかしなこと言ったか?
ふたりは声を揃えて、
「だいたい合ってる」
と言う。そういうものか。俺はファーブロンに近づいて、
「ファーブロン、
「そうだな。大人になるとできないことだから、そこはドリンとパリオーを見習うといい」
「おい、俺がパリオーと同じ扱いか? 俺は奴ほど突き抜けてない」
「え? ある意味でパリオー以上だと思うけど?
「それは俺が
試しに何人かで
これにモテたい三傑衆が、『モテる奴は血液から違うんだ』とガックリうなだれていた。サーラントがフォローする。なんでお前が?
「祖父の威光があるとはいえ、彼女達はドリンに期待している。それにドリンは、シュドバイルとミュクレイルのものだそうだ」
「なんだそりゃ。まぁ、あのふたりは家族みたいなもんか?」
ミュクレイルは俺の叔母さんで、シュドバイルはじーちゃんの恋人。ま、俺ともちょっと遊んだ仲だし。……あ、俺とじーちゃんが兄弟になっちまったのか?
シャララが割って入ってくる。
「それでグラ
「流石はドリンさんですね!」
ファーブロンが目をキラキラさせて言うが、いったいこれのどこが流石なんだか。俺はオモチャか。
俺とサーラント、カゲン、シャララ、ネオール、ファーブロンの6人で30層の転送陣から地上へと。雑魚のネズミや大カマキリに骸骨兵を倒して、魔晶石とお宝を怪しまれない程度の量を持って行く。
地上の大迷宮監理局の徴税所をいつもの査定、いつもの検査で通りすぎる。なんだか監理局の職員がいつもより弛んでいた。
ノクラーソンを見かけなかったから、あのカイゼル髭、休暇でもとったのか? 厳しい上司がいなくなってだらけていたのだろうか。
久しぶりの地上、マルーン街の西区、みんなで大衆浴場に行く。
隠しエリアにも水浴びできるところは作ったが、風呂はまだ無い。暖かいところだから今のところは不都合は無いし。でもそのうち隠れ里にも大衆浴場は欲しいところだ。
その後、カゲンとファーブロンはそれぞれの
なじみの宿屋、いつもの
「サーラントさん、ドリンさん。やっと会えましたー!」
「ずっと地下迷宮に潜っていたんですか? 西区中探しましたよー」
肌の色の濃い
「ミトルか。いったいなんの用だ?」
「あたしが来たからには、サーラントさんに用があるに決まってるでしょ? あ、こちら今の
シャララとネオールにペコリと挨拶する。シャララとネオールも挨拶を返して自己紹介などするが、サーラントが割って入る。
「ミトル、俺達は忙しいんだ。要件はあとで聴く」
「分かりました。あたしもこの宿に泊まることにするので。そーですねー、夜にでもまた。……もー、露骨に鬱陶しいって顔をしてもダメですよ。ではまたのちほどー」
さーっと言うだけ言ってすぐにちょこまかと出て行った。久しぶりに会ったというのにミトルも忙しいのだろうか。彼女が来たということは、
「サーラント」
「言うな。解っている」
「なにが解っているんだか。サーラントは今回荷物持ちだ。必要なときには呼ぶからそれまでにミトルとの話を終わらしとけ」
宿を出ていったミトルを見てたシャララが振り返る。
「ねーねー。あのミトルって昔の
シャララが聞いてくるのにサーラントがため息混じりに応える。
「俺の実家の関係者だ。あー、あまり聞かないでくれるとありがたい」
「あ、そうなんだ。ん、わかった。でも家族になんかあったのなら、早く話を聞いてあげたほうがいいよ」
話が後回しでもいいというあたり、緊急では無いみたいだが。サーラントの実家、ねぇ。
前にも
だけど本人が語りたがら無いので突っ込まないでいるが、サーラントに実家からの話をミトルが持ってきた。
ふむ、ドルフ帝国とアルマルンガ王国の間でまたなんかあったのか?
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