第21話◇花畑班長はシャララ、トイレ班長はネオール


 街づくり、拠点づくり。言ってはみたものの、やったことも無いし建築とかもさっぱりだ。どこから手をつけるか。


「花畑をつくろうよ!」


 シャララが元気に言う。


「なんで花畑なんだ?」

「小妖精の加護のためだよ!」


 えっへんと胸を張る蝶妖精フェアリー


小人ハーフリング人馬セントールは草原でしょ。これはおっけーで、エルフは森。これは遠いけれど33層からの大森林まで行けばなんとかなるのかな? ドワーフと蟲人バグディスは洞窟で、今から掘るから問題ないし。狼面ウルフフェイス猫尾キャットテイル、あと大鬼オーガは狩猟の獲物を捧げるんだっけ? これも大森林かなぁ。なので、小妖精ピクシーが加護を得られるように花壇かお花畑がほしいでーす」

「なるほど。作った花壇でもいいのか?」

「できれば自然のものがいいんだけどね。探索者の小妖精ピクシーを味方につけて食糧確保するなら、お花畑あったほうがいいよ」

「地上で花の種とか買うなりして持ってくればいいのか?」

「そこまで行かなくても、地下迷宮の大森林で見かけたのを持ってくればいいんじゃないかな」

「わかった。シャララにお花畑班長やってもらっていいか? シノスハーティルに使ってもいい場所を聞いてからだけど」

「ん、わかった! 猫娘衆で大森林まで行ってとってくるね!」


 シャララもそうだけど、小妖精ピクシーはけっこう頭がいい。感情丸出しの子供のような言動とノクラーソンは言ってたけれど。

 小妖精ピクシーも俺のような小人ハーフリングも非力な種族だ。戦闘向きじゃ無い。過去には異種族喰いの種族にはいい獲物だった。それで小人ハーフリングは北方種が甘くてスウィーティーと呼ばれ、南方種の肌の色の濃い方はスパイシーなんて呼ばれた。

 なので非力な種族は力のある種族に気に入られて守ってもらえるようにと、可愛い子供のような言動が癖になっている。ときにはそれを利用したりと、なかなかにしたたかなところもある。

 別に演技してるわけじゃなくて、単にそういう種族ということ。これも種族の生存戦略だ。

 過去の先祖達の苦労と苦難があって、今のやり方に受け継がれている。だから小妖精ピクシー小人ハーフリングは、わりと他の種族に受け入れられやすくて仲良くしやすい。小妖精ピクシーは種族間の橋渡しなんて呼ばれたりも。

 で、戦闘種の方はと。


「俺達は魔晶石を集めて黒浮種フロートに渡せばいいのか?」

「カゲン達には他にも頼みたいことがある。白蛇女メリュジン達の戦闘訓練だ」

「俺達が?」


 カゲンとヤーゲンは狼の頭を傾げるが、


「なるほどねぇ」


 グランシアは腕を組んで納得している。


「あたしら猫尾キャットテイルは個人の武勇優先で集団戦闘は狼面ウルフフェイスが上手いからね。集団での戦闘とか群れで獲物を追い詰めたりとかは、カゲンとヤーゲンが指導するのがいいんじゃないかな」

「そういうことだ。で、スーノサッド」


 灰剣狼の魔術師のダークエルフを呼ぶ。


「スーノサッドは部隊パーティ灰剣狼での戦闘における魔術の使い方を白蛇女メリュジンに教えてやってくれ。白蛇女メリュジンには闇系統の攻撃魔術とか、治癒と支援を使えるのがいるからな」

「わかった、ドリン師匠」

「おい、俺は弟子をとるつもりは無いからな」

「俺にも練精魔術と大魔法を教えてくれ! 頼むから!」

「俺もまだ修行中なんだよ。まぁ、練精魔術については少しくらいなら教えてもいいけど」

「ほんとか?」

「今回のことが上手く片がついたら、な」

「誰かに教えるなんてのは苦手だけど、やってみる。だからあとで練精魔術教えてくれ」

「わかった、わかった」


 灰剣狼には戦闘訓練を頼む。これで白蛇女メリュジン達の自衛を強化だ。


「で、私らはどうしようか?」


 グランシアが聞いてくるので、


「グランシアは、そろそろ服を着たらどうだ?」


 グランシアはまだ、全裸だった。獅子の尻尾がふわりと揺れる。


「ここ、暖かいし雨も降らない。異性がいない白蛇女メリュジンが服を着ないのも納得だね。服を着ないなら服を作ることも洗うことも無いし、楽なんだ」


 なにか納得している。そりゃエロイ目で見る男がいなかったわけだし。ここには雨も嵐も無い。だからってグランシアまで裸でうろつくとは。


「私としては、ドリンにもっとドギマギして欲しかったんだけどね」

「残念ながら、それほどウブじゃない」


 白蛇女メリュジンで見慣れたのもあるが、エロスってのは恥じらいとか色気とかが重要で、裸が見れたら嬉しいってのはまだまだ浅いエロスだろう。大人のエロスは一味違うもんだ。

 鷹人イーグルスのネオールが羽ばたいて上から降りてくる。空を飛べるネオールに天井近くまで上がってもらっていた。


「どうだった?」

「天井まではかなり高い。地下迷宮の28層くらいまであるんじゃないのか?」


 ネオールが紙を広げてそこに楕円を描く。チョイチョイと上から見た簡易な地図を描く。


「上から見たところ丸に近い楕円の大草原だ。東の岩壁の穴が地下迷宮に通じてる。この穴以外には見える穴も通路も無さそうだ。西の岩壁は黒浮種フロートの住み処とトンネル予定地。黒浮種フロートの住み処から北にかけては少し木が多いか。林というところ。水源はふたつ。紫じいさんの泉と白蛇女メリュジンが暮らしてるところ。その他にはとくに目立つものはなかった」

「まぁ、地下迷宮に繋がる道がいくつもあったら、とっくに見つかってるか。東の岩壁の地下迷宮に繋がる穴だけが外界に繋がるところ、と。そこさえ守れば誰も入ってはこれないか」


 ここに防御用の砦でもつくるか?


「で、ドリンよ。提案なんだけど」

「なんだ? ネオール」

「トイレを造ろう」

「あん?」

白蛇女メリュジン達のトイレって三方を布で覆ってるだけじゃないか」

「なんか不都合あったか?」

「俺が空飛んでたら見えちゃうんだよ! さっきも白蛇女メリュジンのひとりが用を足してるところを上から見てしまってな……」

「あー……」


 白蛇女メリュジンのトイレは集落から少し離れたところで、三方を衝立に布をかけて隠してあるが、天井は無い。それで下半身蛇体だからか、けっこう広くて解放感がある。

 裸が当たり前の白蛇女メリュジン達も用を足してるときを見られるのは恥ずかしいらしい。

 鷹人イーグルスだけじゃなくて空の飛べる小妖精ピクシー、あと背の高い大鬼オーガからも見えてしまうか?


「その白蛇女メリュジンには謝って許してもらったけどな。俺は鷹人イーグルスで1日1回は空を飛ばないと調子が出ないんだよ。マルーンの街でも空飛んでたら、2階の窓開けて着替えてるドワーフの女と目があって、スケベ、チカン、覗き魔とか言われて……」


 ネオールは思い出したのか、片手で顔を覆って俯いた。泣いてるのかな?

 空が飛べるなんて便利そうだと思ってたが、飛べるなりの苦労もそれはそれであるらしい。


「だからなドリン! 天井のあるトイレを造ろう! ついでに男用もだ! このさき探索者がここに増えるならこの問題は重要だ。身体のサイズが違う種族のものも必要になるだろう」

「なるほど。じゃ、ネオールに任せてもいいか? トイレ班長で」

「あぁ、ガディルンノに聞いてなんかいいのを作ってみよう。空を飛ぶ種族が覗き魔呼ばわりされないためにも早急に!」


 気合い入ってるなネオール。

 そして古代種エンシェントのドラゴン。紫じいさんにはちょっと注意される。


「ドリンよ、あの大魔法なんじゃがな」


 やっぱりか。なんか言われるだろうなーとは予想はしてた。

 古代種エンシェントは世界を見守ると伝承では語られたりするけど、その紫じいさんから見てあの大魔法は危険に見えるか。


「これはお前の祖父グリンにも言うたことじゃが、あの大魔法はみだりに使ったり見せたりしてはならんぞ」

「わかってる。神の加護や神への祈りをおもちゃにするつもりは無い」

「まだ、友人達に旨いものを食わせたい、というぐらいなら神々も笑って許してくれるじゃろうが。邪心を持って世界の法そのものをなんとかしようなどとすれば、どのようなしっぺ返しがあるかわからんぞ」

「そこは神様達に怒られないようにしたいな。しかしあの大魔法はいろいろと研究したいところではある」

「魔術師として、か。しかし誰かに見せれば真似をする者も出るだろう。その者が身の程をわきまえておれば良いんじゃがの」

「なので、みんなには大魔法のことは秘密にしといてもらう」

「あと、もうひとつ。食糧とは生命力でもある。食事の加護に介入して豪華にすれば、その代償はドリン、お前の生命力じゃぞ。やたらと量を多くすればお前の寿命が縮むことになる」

「そこはもちろん覚悟の上だ。大魔法がそれだけの危険をはらんでいることは知っている。知っててやるのはバカだと思うか?」

「知的好奇心に勝てぬか? 無駄に生命を縮めてはいかんぞ。これは古代種エンシェントの忠告では無く、戦盤の相手がいなくなるのがさみしい年寄りのおせっかいじゃ」

「いや、心配してもらえるのはありがたいよ。むやみやたらと大魔法を使うのは慎むようにする」


 俺もじーちゃんも大魔法で世界を変えようとか考えてない。ただそんな奴に使われたら危険、というのもわかる。

 やってみたら、できちゃった。あとで解ったことが、どうも使い方によってはたいへんなことになるらしい、ということ。

 今後はちょっと自重しよう。信頼出来ない奴の目に触れないように。

 じーちゃんの盟友、遊者の集いが大魔法のことをぼかしてその中身を誰にも教えなかったのも、そういうことなんだろう。


 草原の一角では猫娘衆の猫尾キャットテイルのネスファが料理に挑戦している。

 黒浮種フロート合成工場プラントから試作品ができたからだ。

 黒浮種フロートのトリオナインが持ってきたものは、


「培養獣肉と培養魚肉の試作第1号デス」


 30センチくらいの真四角直方体の赤い固まりと白い固まり。これが肉か。

 ネスファが包丁を片手に赤い固まりを切る。

 ネスファは猫娘衆の良識派、今もしっかりと服を着てて裸では無い。その上にエプロンも着けている。

 グランシアとゼラファとは幼馴染みで、あのふたりに振り回されてる苦労人でもある。

 銀と黒の縞模様の長い髪から猫耳がピンと出ている。獅子種と豹種が猫尾キャットテイルの中では耳が小さいのは戦闘特化種と速度特化種だからなんだろうか? ネスファの猫耳は大きい。


「ドリン、なにか気になることでも? このお肉になにかあるの?」


 じろじろ見てたらネスファに聞かれた。


「ネスファの髪って豪華だよな。銀と黒の綺麗な縞模様で。つい見とれてた」

「え? いきなり口説かれてる?」

「そんなつもりじゃ無かったんだが。グランシアとゼラファの裸を見て、猫尾キャットテイルの希少種の違いに興味が出た」

「そういうこと。グランシアもゼラファも、恥じらいが無いというかフリーダムというか」

「苦労してるな猫娘衆のおねえさんは」

「その代わり二人とも頼もしいのよね。猫尾キャットテイルはね、派手な毛並みが多いよ。ぶちもようとか三毛とかシマシマとか。私は黒と銀のキジトラで」

「それでも黒が入ってるからかな、派手すぎないでいて落ち着いた気品がある豪華さだと思う」

「やっぱり口説かれてる? ドリン?」

「ところで、白蛇女メリュジンに服を着せようとしてるって? カームとふたりで」


 今もネスファの手伝いをしようとしてる3人の白蛇女メリュジンもエプロンを着けている。

 この裸にエプロンに目隠しという姿が1部男性陣の心理を揺さぶったとか。ディグンとバングラゥの穴掘り作業速度が2倍になった要因とかいう話だ。マニアックではある。


「んー、種族の習慣に文句つける気は無いんだけどね。このままだとあたしとカームも脱がされそうで……」

「いいんじゃないかな、無理強いしなければ。白蛇女メリュジン達もこの先に他種族と交流するなら服も必要になるかもしれないしな」

「でも、何千年と鎧と飾り布以外身に付けたこと無いのに、こっちの都合を押し付けるのもどうかなーとは思うのよ。種族の文化? そういうのにケチをつける気は無くて」

「それが白蛇女メリュジンにとって新しいおしゃれを楽しむようなものであればいいんじゃないかな。無理矢理は良くないが彼女達の選択の幅を広げて、彼女達に選ばせれば問題ないだろ」


 白蛇女メリュジンのエプロンにはさっそく彼女達の得意な刺繍が入っている。今の人気の絵柄はパリオーとシャララのようだ。妖精の刺繍入りの裸エプロン。こっちの方がマッよりエロス。


「で、肉のほうは?」

「んー、赤身だけで脂身がぜんぜん無い。作ったお肉ってこうなるのね。焼くには油がいるし、調味料も欲しいところ」

黒浮種フロートの調味料は辛いのばっかりだからなぁ」

「地上から持って来るしか無いわね。取り合えず炭火で串焼きにしてみるね。あとは白蛇女メリュジンの薬草畑からハーブをもらっていろいろと試してみる」

「頼む。必要なのは塩とか油かー」


 油に関しては黒浮種フロートの工作研究室にあったな。スピンドルオイルとか切削油とか言ってたのが。

 しかし、サーラントとふたりで話してたときには気がつかなかったことが次から次へと出てくる。そこに知恵を出してくれる奴らが集まった。

 不安もあるが、楽しくなってきたぞ。


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