第21話◇花畑班長はシャララ、トイレ班長はネオール
街づくり、拠点づくり。言ってはみたものの、やったことも無いし建築とかもさっぱりだ。どこから手をつけるか。
「花畑をつくろうよ!」
シャララが元気に言う。
「なんで花畑なんだ?」
「小妖精の加護のためだよ!」
えっへんと胸を張る
「
「なるほど。作った花壇でもいいのか?」
「できれば自然のものがいいんだけどね。探索者の
「地上で花の種とか買うなりして持ってくればいいのか?」
「そこまで行かなくても、地下迷宮の大森林で見かけたのを持ってくればいいんじゃないかな」
「わかった。シャララにお花畑班長やってもらっていいか? シノスハーティルに使ってもいい場所を聞いてからだけど」
「ん、わかった! 猫娘衆で大森林まで行ってとってくるね!」
シャララもそうだけど、
なので非力な種族は力のある種族に気に入られて守ってもらえるようにと、可愛い子供のような言動が癖になっている。ときにはそれを利用したりと、なかなかにしたたかなところもある。
別に演技してるわけじゃなくて、単にそういう種族ということ。これも種族の生存戦略だ。
過去の先祖達の苦労と苦難があって、今のやり方に受け継がれている。だから
で、戦闘種の方はと。
「俺達は魔晶石を集めて
「カゲン達には他にも頼みたいことがある。
「俺達が?」
カゲンとヤーゲンは狼の頭を傾げるが、
「なるほどねぇ」
グランシアは腕を組んで納得している。
「あたしら
「そういうことだ。で、スーノサッド」
灰剣狼の魔術師の
「スーノサッドは
「わかった、ドリン師匠」
「おい、俺は弟子をとるつもりは無いからな」
「俺にも練精魔術と大魔法を教えてくれ! 頼むから!」
「俺もまだ修行中なんだよ。まぁ、練精魔術については少しくらいなら教えてもいいけど」
「ほんとか?」
「今回のことが上手く片がついたら、な」
「誰かに教えるなんてのは苦手だけど、やってみる。だからあとで練精魔術教えてくれ」
「わかった、わかった」
灰剣狼には戦闘訓練を頼む。これで
「で、私らはどうしようか?」
グランシアが聞いてくるので、
「グランシアは、そろそろ服を着たらどうだ?」
グランシアはまだ、全裸だった。獅子の尻尾がふわりと揺れる。
「ここ、暖かいし雨も降らない。異性がいない
なにか納得している。そりゃエロイ目で見る男がいなかったわけだし。ここには雨も嵐も無い。だからってグランシアまで裸でうろつくとは。
「私としては、ドリンにもっとドギマギして欲しかったんだけどね」
「残念ながら、それほどウブじゃない」
「どうだった?」
「天井まではかなり高い。地下迷宮の28層くらいまであるんじゃないのか?」
ネオールが紙を広げてそこに楕円を描く。チョイチョイと上から見た簡易な地図を描く。
「上から見たところ丸に近い楕円の大草原だ。東の岩壁の穴が地下迷宮に通じてる。この穴以外には見える穴も通路も無さそうだ。西の岩壁は
「まぁ、地下迷宮に繋がる道がいくつもあったら、とっくに見つかってるか。東の岩壁の地下迷宮に繋がる穴だけが外界に繋がるところ、と。そこさえ守れば誰も入ってはこれないか」
ここに防御用の砦でもつくるか?
「で、ドリンよ。提案なんだけど」
「なんだ? ネオール」
「トイレを造ろう」
「あん?」
「
「なんか不都合あったか?」
「俺が空飛んでたら見えちゃうんだよ! さっきも
「あー……」
裸が当たり前の
「その
ネオールは思い出したのか、片手で顔を覆って俯いた。泣いてるのかな?
空が飛べるなんて便利そうだと思ってたが、飛べるなりの苦労もそれはそれであるらしい。
「だからなドリン! 天井のあるトイレを造ろう! ついでに男用もだ! このさき探索者がここに増えるならこの問題は重要だ。身体のサイズが違う種族のものも必要になるだろう」
「なるほど。じゃ、ネオールに任せてもいいか? トイレ班長で」
「あぁ、ガディルンノに聞いてなんかいいのを作ってみよう。空を飛ぶ種族が覗き魔呼ばわりされないためにも早急に!」
気合い入ってるなネオール。
そして
「ドリンよ、あの大魔法なんじゃがな」
やっぱりか。なんか言われるだろうなーとは予想はしてた。
「これはお前の祖父グリンにも言うたことじゃが、あの大魔法はみだりに使ったり見せたりしてはならんぞ」
「わかってる。神の加護や神への祈りをおもちゃにするつもりは無い」
「まだ、友人達に旨いものを食わせたい、というぐらいなら神々も笑って許してくれるじゃろうが。邪心を持って世界の法そのものをなんとかしようなどとすれば、どのようなしっぺ返しがあるかわからんぞ」
「そこは神様達に怒られないようにしたいな。しかしあの大魔法はいろいろと研究したいところではある」
「魔術師として、か。しかし誰かに見せれば真似をする者も出るだろう。その者が身の程をわきまえておれば良いんじゃがの」
「なので、みんなには大魔法のことは秘密にしといてもらう」
「あと、もうひとつ。食糧とは生命力でもある。食事の加護に介入して豪華にすれば、その代償はドリン、お前の生命力じゃぞ。やたらと量を多くすればお前の寿命が縮むことになる」
「そこはもちろん覚悟の上だ。大魔法がそれだけの危険をはらんでいることは知っている。知っててやるのはバカだと思うか?」
「知的好奇心に勝てぬか? 無駄に生命を縮めてはいかんぞ。これは
「いや、心配してもらえるのはありがたいよ。むやみやたらと大魔法を使うのは慎むようにする」
俺もじーちゃんも大魔法で世界を変えようとか考えてない。ただそんな奴に使われたら危険、というのもわかる。
やってみたら、できちゃった。あとで解ったことが、どうも使い方によってはたいへんなことになるらしい、ということ。
今後はちょっと自重しよう。信頼出来ない奴の目に触れないように。
じーちゃんの盟友、遊者の集いが大魔法のことをぼかしてその中身を誰にも教えなかったのも、そういうことなんだろう。
草原の一角では猫娘衆の
「培養獣肉と培養魚肉の試作第1号デス」
30センチくらいの真四角直方体の赤い固まりと白い固まり。これが肉か。
ネスファが包丁を片手に赤い固まりを切る。
ネスファは猫娘衆の良識派、今もしっかりと服を着てて裸では無い。その上にエプロンも着けている。
グランシアとゼラファとは幼馴染みで、あのふたりに振り回されてる苦労人でもある。
銀と黒の縞模様の長い髪から猫耳がピンと出ている。獅子種と豹種が
「ドリン、なにか気になることでも? このお肉になにかあるの?」
じろじろ見てたらネスファに聞かれた。
「ネスファの髪って豪華だよな。銀と黒の綺麗な縞模様で。つい見とれてた」
「え? いきなり口説かれてる?」
「そんなつもりじゃ無かったんだが。グランシアとゼラファの裸を見て、
「そういうこと。グランシアもゼラファも、恥じらいが無いというかフリーダムというか」
「苦労してるな猫娘衆のおねえさんは」
「その代わり二人とも頼もしいのよね。
「それでも黒が入ってるからかな、派手すぎないでいて落ち着いた気品がある豪華さだと思う」
「やっぱり口説かれてる? ドリン?」
「ところで、
今もネスファの手伝いをしようとしてる3人の
この裸にエプロンに目隠しという姿が1部男性陣の心理を揺さぶったとか。ディグンとバングラゥの穴掘り作業速度が2倍になった要因とかいう話だ。マニアックではある。
「んー、種族の習慣に文句つける気は無いんだけどね。このままだとあたしとカームも脱がされそうで……」
「いいんじゃないかな、無理強いしなければ。
「でも、何千年と鎧と飾り布以外身に付けたこと無いのに、こっちの都合を押し付けるのもどうかなーとは思うのよ。種族の文化? そういうのにケチをつける気は無くて」
「それが
「で、肉のほうは?」
「んー、赤身だけで脂身がぜんぜん無い。作ったお肉ってこうなるのね。焼くには油がいるし、調味料も欲しいところ」
「
「地上から持って来るしか無いわね。取り合えず炭火で串焼きにしてみるね。あとは
「頼む。必要なのは塩とか油かー」
油に関しては
しかし、サーラントとふたりで話してたときには気がつかなかったことが次から次へと出てくる。そこに知恵を出してくれる奴らが集まった。
不安もあるが、楽しくなってきたぞ。
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