第20話◇計画説明、拠点を作ってトンネルを掘ろう


 泉のそば、ドラゴンの紫じいさんのところで集合。

 灰剣狼、猫娘衆、白角、白蛇女メリュジン黒浮種フロートと、全員揃ったところで昨日の続きと行こう。


「俺がぶっ倒れてる間にみんな白蛇女メリュジン黒浮種フロートと紫じいさんから話は聞いてるだろう?」


 それが皆に解っていれば話は早い。カゲンが、


「ひととおりは長のシノスハーティルから聞いている。ただ、ここを秘密にしたいなら何故、俺達をここまで呼んだのかを聞きたい」

「俺とサーラントが秘密にしたところで、また赤線蜘蛛を討伐に来たらここを知る可能性があるだろう。それは俺達以外の探索者も同じだ。お前らも他の探索者や人間ヒューマンから50センチ魔晶石のこと聞かれなかったか? どうやら人間ヒューマンの魔術研究局も探しているらしい」


 思いあたることがあるのか灰剣狼と猫娘衆は頷いている。


「それに、ここのことを黙ってたら俺がグランシアに殺されるからな。それならいっそのこと、ここを人間ヒューマンが入れないようにしてしまえばいい」

「どうやって?」


 心配性のディグンが聞いてくるので説明。


「やることは単純明快。この百層大迷宮の地下30層から下を俺達で乗っ取るんだよ」


 白角のメンバーは絶句してるが、灰剣狼と猫娘衆のみんなはなんか納得してる。

 グランシアがニンマリとして、


「この面子を集めたんだから、それぐらいやるだろうなとは思ってたけど、問題は方法だね」


 カゲンが、あぁ、と相槌打って、


「ここで人間ヒューマンの軍隊とやり合うのか?」

「まさか。大軍が展開できない地下迷宮ダンジョンとはいえ1国の軍隊とことを構える気はない。今はまだ、な。俺はここに街をひとつ作ろうと考えている。探索者達の拠点となるようなものを。地上のアルマルンガ王国と違い地下迷宮ダンジョン税をとらないことで、探索者全員を引き込む予定だ」

「でかい話になってきた」


 カゲンが腕を組んで空を仰ぐ。


「ふふ、人間ヒューマンから地下迷宮ひとつぶんどるなんて、なかなかおもしろそうじゃない?」


 グランシアは楽しそうだ。その為の準備とかで俺とサーラントは赤線蜘蛛とやる前から疲れていたんだが。


「俺とサーラントで探索者に必要なものとかをここで揃える方法について考えてたんだが、まずは、セプーテン持ってきてくれ」

「ハイ、こちらデス。用意してマス」


 セプーテンと黒浮種フロートが持ってきたのは、白蛇女メリュジンの鎧一式。胸当てとチェインメイル。


「ガディルンノ、バングラゥ、見てくれ」


 ドワーフふたりに見てもらう。ガディルンノが胸当てをとって、バングラゥがチェインメイルを見る。


「なんじゃこれは? 石を削り出して作ったのか? 鉄よりは軽いが」

「セラミクスでス!」

「テクノロジス!」「テクノロジス!」

「こっちのチェインメイルは細かいな! こんなに目の細かいチェインメイルは初めてみたぞ!」

「売り物になりますカ?」


 黒浮種フロートのテクノロジス製の武器と防具。探索者にとって必需品でできればメンテナンスなどもここでできればいい。


「ここで武器防具を作って売る。あとは修繕修理ができる店も作る予定だ」

「ふむ、鋼と同じ固さで鋼より少し軽い鎧。人気はありそうじゃ」

「ソコでお願いがありマス」

「我々、探索者の装備について知りまセン」

「作り方を教えてくだサイ」

「我々はテクノロジスの素材と加工が提供できマス」

「切れ味するどいけど折れやすい単分子ブレードとか作れマスガ」

「探索者に都合のよい質やサイズについてご教授してくだサイ」

「これで我々のテクノロジスが更に発展しマス!」

「テクノロジス!」「テクノロジス!」


 黒浮種フロートは妙に張り切っている。


「次に必用なのが宿屋と預かり所か。即席だがサーラントと黒浮種フロートが作った建物がある」


 グランシアが、あーアレ? と


「あの真四角の白い大きいサイコロみたいな建物? あんなの作ってたんだ」

「とりあえず建ててみた。建築も店も地上から信頼できそうな奴を引っ張ってきたいところなんだが」

「地上は探索者が減って戦争気分が高まってるから、店を閉めるのも増えてるし。頼めばここでやってくれそうなの見つかるんじゃないかな?」

「で、次がいちばん重要で時間もかかりそうなんだが、穴を掘る。見てもらえば分かりやすいか、西の岩壁まで来てくれ」


 黒浮き種フロートの住みかのある洞窟のある岩壁。この隠しエリアの西側はじっこ。東側、百層大迷宮の真反対。紫じいさん以外のみんなでゾロゾロと。


黒浮種フロートはここに穴を開けて住み家と研究所を作ったんだと。カゲン、どう思う?」

「どう思うって、だから穴を掘ったんだろ?」

「そう、つまりこの岩壁には穴を開けられる。ここは地下迷宮の壁と違って自動修復しないんだ」

「あ!」

「気がついたか? どうもこの岩壁は地下迷宮の構造からは外れているらしい。天井の疑似陽光や月光、草原と泉の維持には地下迷宮の構造から魔力を引っ張ってきてるようだが。この岩壁は地下迷宮の魔術構造物では無く天然の岩壁なんだよ、サーラントやってくれ」

「おう」


 サーラントがツルハシを振りかぶり人馬セントールのバカ力で岩壁に叩きつける。ズガンと岩が砕けるが、そのまま見てても再生しない。

 バングラゥが砕けて落ちた岩を手に持つ。


「普通に掘ることができるんだな。地下迷宮に横穴開けようってのか?」


 バングラゥがサーラントからツルハシを受け取って岩壁に叩きつける。自分で試してみたいようだ。


「そうだ。通常の地下迷宮ならできないことだが、ここならできそうだからな」

「どこまで掘るんだ?」

「エルフ同盟の森まで」


 ツルハシを振りかぶったバングラゥがずっこける。

 ダークエルフのスーノサッドが呆れたように、


「ここからエルフ同盟の森だと200キロメートルはあるぞ?」

「ドワーフ王国だと300キロメートルだからなぁ。ここは地下30層だから、なだらかに上に向かって掘っていけばいいんじゃないか?」


 ガディルンノがため息つきながら、


「200キロメートル掘るのは難しいのでは無いのか?」

「なので黒浮種フロートにこれを作ってもらった」


 サーラントが巨大な金属の怪しい塊を持ってくる。肩からベルトをかけて両手で構えている。大きなゴテゴテとした作りの謎の装置。テクノロジス。


「削岩機デス! サーラントさん、やっちゃってくだサイ!」


 セプーテンがサーラントの持つ削岩機を操作すると、ドドドドドと音がして削岩機が動きだす。

 サーラントが激しく震動する削岩機の杭を岩壁に押し付けると、


 ドガガガガガガガガ!!


 砕けた岩壁の破片が激しく飛び散る。何度見てもすごいパワーだ。


「テクノロジス!」「テクノロジス!」

「ドリルよりもパイルバンカーの方が良いですカネ?」

「ドリル型の試作品もありますヨ?」


 プスン、と音を立てて削岩機が停止する。


「この削岩機、パワーはあるんだがその分動力源の魔晶石の消費が激しいのが欠点だ。あと使うのに腕力が必用だからサーラントと大鬼オーガのディグン、あとはドワーフくらいにしか使えないんじゃないか? で、穴掘りについては蟲人バグディスのエルカポラにリーダーで仕切って貰いたいんだが」

「ワタシでありますか?」


 大きなアリの頭の四本腕のエルカポラが触角をピコピコさせる。


「それは、この中ではワタシが穴掘りが得意ではありますが、200キロメートルは簡単ではないですぞ?」

「それはわかってる。いずれ協力者を探す予定だ。百層大迷宮への横道、ドワーフ王国が興味を持ってくれれば地上の方からも穴を開けて繋げられないかと考えている」

「ふうむ。わかりましたぞ。ガディルンノとバングラゥとディグンに手伝って貰えるなら、トンネル掘りを進めてみましょう。ただし、どれだけの期間でできるかはまるで読めませんぞ」

「今のところはそれでいい。それと黒浮種フロート達が住んでる研究所を作ったときの道具もあるから、トンネル計画と必用な道具については黒浮種フロートと相談してくれ。じゃ、頼む」


 トンネルについては蟲人バグディスとドワーフが専門家だろう。エルカポラに班長やってもらって、次は、


「問題なのは食糧。ここでは作るのも他所から持ってくることも難しい」


 カゲンが頷く。


「それでドリンの大魔法なのか? あ、そうだ」


 カゲンがみんなに合図をする。

 さん、ハイ、


「「ドリン、ごちそうさま!」」

「あぁ、どういたしまして」


 ヤーゲンが昨日を思い出したのか、狼の目を細めて、


「久しぶりにムッコロ鍋を食ったぜ。あれは俺達の故郷で熊を狩ったときしか食えないもんだ。懐かしくて故郷を思い出した」


 兄貴のカゲンが続けて、


「あの熊の背脂のところを薄切りにして、さっと出汁にくぐらせて、新鮮な熊肉でしか味わえない食感。何年ぶりに口にしたことだろうか」


 グランシアがペロリと舌舐めずりして、


「あれ、熊肉だったの? へー、ずいぶん柔らかいもんなんだね。こっちは黄金ウサギの焼き肉。あれは祝い事の縁起物で、めったに食べられないんだ」


 ディグンが興奮して、


「縁起物っていうなら、あの子豚の丸焼きもそうだ。俺の故郷の大鬼オーガの部族の結婚祝いだ。特に肉に塗られたタレは族長の家に伝わる秘伝のタレで俺も作り方知らないんだが、同じ味だったぞ?」


 俺が使っておきながら、あの大魔法はまだ謎が多いとこがあるんだよな。


「おそらくはディグンの記憶から再現されたものになる。俺の知識に無いものでも、作り方知らなくても、できてしまうところが大魔術じゃなくて大魔法って呼んでる由縁でもある」


 エルカポラが近づいて4本の手で俺の手をがっしり握る。


「ドリン、感謝しますぞ。アースキングの卵の蜂蜜漬けは、ワタシがハグレとして巣を旅立つとき弟が用意してくれたもの。食べるだけで筋力上昇効果のあるワタシ達蟲人バグディスの無病息災を祈願する1品。巣の外で味わうことができるとは感激ですぞ」


 ダークエルフのスーノサッドが驚いて、


「え? あれ虫の卵だったの? アースキングって巨大甲虫、だよな?」

「ハイ、大地の王と呼ばれる立派な甲虫です。アースキング自体珍しいので、その卵を採集するのは難しく、滅多に口にできるものではありませんぞ」


 シュドバイルが手を上げて、


「あの赤いプリンは何? 私は食べたこと無いのだけど」

「血が主食でも、酒と混ぜてカクテルもいけるなら、血を原料にした食べ物はどうだろうかな、と。煮凝りのようになるかと予想してたが、プリンとはな。味の方は?」

「美味しかったわ。甘くて、ご飯というよりはオヤツのような感じ?」


 まだまだ謎と可能性があるな、あの大魔法。研究のしがいがある。

 みんなが大魔法でできた料理を思い出して口々に話す。故郷の味の自慢になったり、他の種族の珍しい食事の事を聞いたりと。

 笑顔で楽しそうだ。俺も他の種族の名物料理、食いたかったなぁ。


「話を戻すが、俺が毎回あの大魔法を使って食糧をどうにかするのは無理だ。13人でぶっ倒れるからな。そこでセプーテン」

「ハイ、あのときに出現した食事の数々。全てサンプル採取しておりマス。解析できたものから我々の合成工場プラントで作れないか開発試験を行いマス」

「できそうか?」

「問題がヒトツ」

「なんだ?」

「我々の合成工場プラントで作るものは各種族にとっての栄養素の固まりのようなものになってしまいマス。これを材料として調理できる料理人が必用になりマス」

「料理人、かぁ。できる奴いるか?」


 グランシアが猫娘衆を見渡して、


「みんな簡単なものなら作れるけれど、店に出すようなものとなると難しいかな?」


 カゲンが続けて、


「踊る子馬亭の店長を引っ張ってきた方が早そうだ」

「とりあえず、これで一通り話はしたかな?」


 俺は全員を見渡す。サーラントが、


「穴だらけの計画ではあるが、これをみんなで詰めてやれないだろうか?」


 穴だらけなのはわかってる。今は細部を詰めるよりは方針をみんなにわかって貰う方が先だ。


「これが上手くいけば、白蛇女メリュジン黒浮種フロートはエルフ同盟と繋がりを持てて人間ヒューマンに対抗できる。そして俺達は地下迷宮ダンジョン税をとられない探索拠点を使えるようになる。どうだ?」


 カゲンが狼の顔で笑う。


「のった。灰剣狼も人間ヒューマンの戦争に巻き込まれる前にマルーンの街を出ようかと考えていたところだ」


 グランシアがニンマリと、


「いいね。戦争ともなればドルフ帝国で傭兵やろうかと思ってた。戦争もおもしろそうだけど、こっちの方が断然いいね」


 ディグンは腕を組んで考えている。


「ドリン、勝算はどれくらいだ?」


 正直に答えようか。


「はっきり言ってわからん。トンネルさえ掘ることができれば、そこからみんなで逃げてもいいんだ。穴が開くまでここを守りきれたら勝ったもどうぜん。紫じいさんに頼りたいとこだが、古代種エンシェントなら種族間の政治に関わりたくないんだろう?」


 紫じいさんが目を反らす。


「ワシは過去の遺物じゃ。若いもんの邪魔はしとうない。だが、白蛇女メリュジン黒浮種フロートのためなら少しくらいは手伝ってもよいがの。闘いには参加せんぞ」


 サーラントが胸に手を当てて紫のじいさんに向き直る。


古代種エンシェントドラゴンの紫殿がひとつの種族に肩入れするわけにはいかないのだろう。暗黒期以前に古代種エンシェントがいかな盟約を交わしたかはわからんが、悪魔に関わること以外では古代種エンシェントは表に出ないことは知っている。腰痛持ちに無理はさせない」

「そうだな、年寄りから今の世界を任されてんのは俺達だ。さて、ディグンどうする?」

「やるに決まってるさ。只、街づくりとかまるで解らんから、どこからどうしていいのかが不安なんだ」

「俺も解らんけど? 街なんて創ったこと無いし」

「おい、ドリンよー。それで大丈夫なのか?」

「なんとかなるだろ。ならなきゃみんなで逃げればいい。そう考えて気楽にやろうか」

 

 

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