第19話◇褐色の閃光、おっぱいを熱く語る

 

 朝になって疑似陽光が明るさを取り戻す。白い月は青い空に溶けるように消える。日が登ったり沈んだりしない、地下の朝はゆっくりと偽物の空が明るくなる。

 朝焼けとか夕焼けは無いようだ。

 目が覚めた俺は身動きできないまま、明るくなっていく疑似陽光を見ていた。


 身体を動かせない。ミュクレイルが俺の頭をその胸に抱えるようにして、下半身の蛇体で俺をぐるぐる巻きにして寝てたからだ。

 シュドバイルも朝起きたら俺をぐるぐる巻きにしてたから、母と娘で寝相はおんなじみたいだな。


 そんな俺を抱えてまだ寝ているミュクレイル、離れたところでヤーゲンとディグンが微笑みながら俺達を見ている。

 ふたりでこそこそ話してうんうんとか頷いてんのが、なんかイラッとする。

 なんだその可愛い小動物を見てほっこりしてるような顔は。


「ミュクレイル、朝だ、起きてくれ」

「んーにゅ、むー」


 何か言ってる。白蛇女メリュジン達は朝、というか寝起きに弱い種族のようだ。

 寝ててもいいから、そろそろ開放してくれ。寝ぼけたミュクレイルをやんわりと引きはがしてなんとか脱出。


「おいヤーゲン、ディグン、なに笑ってやがる」


 ヤーゲンが狼の顔でニヤニヤと、


「いや、べつに。ただサーラントの奴はわかるが、なんでドリンが白蛇女メリュジンに入れ込むのかがわかって、少しほっとした」


 どーゆー意味だ? ディグンが、


「いいものを見た。ドリンも可愛いところがあるんだな」

「なにをにやけながら言ってる。気持ちの悪いことを言うな」


 3人で並んで泉に向かう。その途中に部隊パーティ白角の鷹人イーグルスのネオールとディープドワーフのバングラゥがやってきた。

 ネオールが元気に笑顔で、


「おはよう! ドリン。さぁなにをやるのか教えてくれ」


 バングラゥもニコニコ顔で、


「おぉ。俺達、白蛇女メリュジン達のためならなんでもするぜ!」

「なんだお前ら、いきなりやる気出して。昨日は真っ白になってたくせに」


 ネオールは肩をすくめて背中の翼もすくめて、


「ドリンには解らないかもしれないが、女にモテるってのは、いいものなんだよ」

「あぁ、金払って夜の店に行ってたのが、馬鹿らしく思える」

「その手の酒場でも人気があるのは、俺達じゃ無くて金なんだよな」


 そこにディグンが入って来て、


「そうだよ。金が無いとダメで、金があっても優しくされてんのは俺じゃ無くて財布の方で、あとで虚しくなったり」

「今まで女の裸見るのにどれだけ金を貢いできたんだか。それがここじゃ『お髭モシャモシャー』て言いながら、女の方から抱き付いてきたりとか」

「しかも全裸でだ。俺も翼に触らせてって」

「俺もだ。角に触って、白くて綺麗な角って褒められた」


 昨日の宴で何をやった? 


「お前らな。白蛇女メリュジンが気安くて異種族に興味があるからって、そこにつけこむようなこととか、やらしいことすんなよ」

「「それは無い!」」

「今までモテる男なんて、カゲンとかサーラントで俺達なんてその背景だ」

「そりゃ、白蛇女メリュジンにしてみりゃ異種族の男が珍しいだけなんだろうけどよ」

「せっかくのモテモテ状況なんだ! たぶん俺の人生にこんなモテ期は二度と無い! なのでそれを自分から壊したくない」

「そして、ここで頑張って白蛇女メリュジン達の信頼を得て、人気者になりたい!」

「あわよくばイチャイチャしたい! だけど嫌われたくない!」

「スケベなことをしたいわけじゃ無い。そりゃまるで無いわけじゃないけれど」

「「俺達、女にモテたいだけなんだ!」」


 なんか切実だなー、この白角の三人組。これを聞いてヤーゲンが、


「いや、お前らも人気あると思うが? 30層級歴戦の探索者だし」


 ネオールがぼそりと、


「ヤーゲンにはわからないだろうなぁ」


 まぁ、群れを大事にする狼面ウルフフェイスの男は頼りがいがあるって評判だからな。俺はヤーゲンを指差して、


「だいたい最後になにかやらかして人気をかっさらうのが、このヤーゲンとかカゲンあたりなんだよなー」

「「ドリンが言うな!」」

「なに言ってる? 俺はモテた憶えなんて無いぞ?」

「朝まで美少女にぐるぐる巻きにされていた奴がなに言ってやがる」


 ディグンの奴いつから見ていたんだか。


「あれは俺の叔母さんだ。なつかれてるだけだ」

「これだよ。この女にモテるのが当たり前ってポーズで自覚が無くてがっついてないのが女にモテるって奴等なんだよ」

「じゃあ、あれはどうなんだ?」


 ヤーゲンが指差してる方からきゃいきゃいと賑やかな華やかな一団が来る。

 白蛇女メリュジンが5人、先頭のひとりは胸に褐色の邪妖精インプを抱っこしている。楽しそうにお喋りしながら。


「次、私の番。抱っこさせてー」

「ずるい次は私よ」

「パリオーちゃんって暖かいのね」

「ちっちゃいのにちゃんと指が5本あるー」「可愛いー」「お人形みたーい」

「ねぇ、パリオー。ウチの子にならない?」

「はっはっはー、お嬢さん達、俺の身体はひとつしか無いんだぜ? 順番順番ー」

「そろそろ交代してー」

「パリオーちゃんは私のおっぱいが好きなのよねー?」

「えー? じゃ私の方と比べてみてよー」「ははっ! 比べようが無いな! 白蛇女メリュジンのおっぱいはこの百層大迷宮の至上至高の財宝だ!」

「「きゃー、えっちー」」

「わははははは!」


 さすが、部隊パーティ灰剣狼のマスコット。他の種族と仲良くなるのが得意な小妖精ピクシー。パリオーは亜種の邪妖精インプだが、トーク力高いというコミュ力強いというのか。


「あれはもう、別の次元だ」


 バングラゥがため息まじりに。

 パリオーとシャララがいれば種族の違いとか気にしないで交流できるだろう、と考えてたけど。パリオーの面目躍如というところか。


「おう、ドリン。白蛇女メリュジン達から事情は聞いた。ここを守るためなら、邪妖精インプの褐色の閃光と呼ばれたこのパリオー様が力を貸すぜ。俺に任せとけ!」

「あぁ、これからいろいろ頼むことになるだろうからな。期待している」


 バングラゥがあきれたように言う。


「カゲンは理解できるけれど、パリオーとサーラントとドリンは理解不能の別世界だ」

「その面子に俺を入れるな。不愉快だ」


 パリオーハーレムと合流して次に来たのは白蛇女メリュジン達と仲良く話している部隊パーティ猫娘衆……、なんだけど。


「ドリン、おはよう。体調はどう?」

「まぁ、問題ない。で、グランシア、なんて格好してんだ?」


 グランシアも全裸だった。首から青色の飾り布を下げて、かろうじて乳首だけは隠されているが。


白蛇女メリュジンと仲良くなれって言ったのはドリンだろ? 郷に入ってはなんとやら、ふふ」


 だからといって脱ぐとは思わんかった。見れば猫娘衆の希少種豹種のゼラファとグレイエルフのアムレイヤ、蝶妖精フェアリーのシャララまでまっ裸に飾り布だけだった。

 猫尾キャットテイルのネスファと人間ヒューマンレッド種のカームはいつもどうりの服をちゃんと着ている。

 このふたりが猫娘衆の良識派ということか。ネスファとカームと目が合うと顔を赤くして首をブンブン振る。

 いや、俺はべつに期待してないからな?

 グランシアが服を着る良識派を見て、


「カームもネスファも脱げばいいのに。ここは女が裸が当たり前みたいだよ?」


 ブンブンブンブンブンブン。

 ふたりともとても嫌がって首を振っている。いや、グランシア達がはっちゃけすぎなんだろう。

 ディグンとネオールとバングラゥはタイプの違う女性陣の裸をちらちら見ながらも、白蛇女メリュジン達がいるので『俺達、スケベじゃないからじろじろ見ませんよ』のポーズを崩さないように頑張っている。

 そんな中でヤーゲンはさらりと、


「流石グランシアはいい筋肉がついている」


 グランシアは二の腕に力こぶをぐっと作って、


「だろう? 猫尾キャットテイルの中でも戦闘特化の希少種の獅子種だからね」


 比べて見るとグランシアの身体はほっそりとした白蛇女メリュジンとは違い筋肉がついている。探索者の前衛で鍛えて、マルーン街の探索者の中では個人で最強と呼ばれるグランシア。がっしりしてるマッチョでは無いが猫のようなしなやかさがある。腹筋も割れて見える。色気のある筋肉美、というのはこれのことか?

 あの腕で簡単に持ち上げられるんだよな、俺。

 俺が見てるのに気がつくとニヤリと笑って、腰に手を当ててポーズをとる。獅子の尻尾が得意気にブンブン振っている。

 なんか言ったほうがいいか?


「グランシアはスタイルが良くてかっこいいな」

「ふふん」


 機嫌がいいのか獅子の耳もピクピクと動く。なので、思ったまま続ける。


「ただ、こうして比べて見るとグランシアはおっぱいは小さいな」

「む、」


 おっぱいにこだわりのあるパリオーが入ってくる。


猫尾キャットテイルは種族的にぺったんさんだから仕方ないな! だがおっぱいの価値はその大きさじゃない。小さくても大切なおっぱいだ!」

「シャララはおっきい方だよ、ほらー、ほらほらー」


 シャララが飛んできて、自慢するように胸を反らせる。マッ蝶妖精フェアリー

 いや、確かに全身のバランスから見ると大きい方かもしれんが、もともとが身長30センチだからな。可愛らしいとは思うが。


小妖精ピクシー亜種の蝶妖精フェアリー小妖精ピクシーの中でも大きい方だ。トンボのような羽根の小妖精ピクシーは飛行の速度を上げるために身体は流線形に近くなってぺったんさんが多い。だが、魔術素質の高い蝶妖精フェアリーは蝶の羽根で、飛行速度よりも空中での安定性が重要。小妖精ピクシーほど速く飛行はできないが、空中で集中して魔術を使うために特化している。だから身体が空気抵抗を気にしなくていいから、小妖精ピクシー全体の中でも巨乳の種族なのだ!」


 パリオーの知識ってたまにすごいが、偏りすぎじゃないか?

 グランシアとゼラファはふたりで互いの胸を見比べていた。なるほど、速度により特化しているという豹種のゼラファの方がグランシアよりぺったんさんだ。ゼラファの方がグランシアより少し背は低いが、足の長さはグランシアと同じぐらいに見える。

 種族の違い、亜種と希少種の違いってこうして見るとおもしろいな。

 グランシアがこっちを見る。


「確かに猫尾キャットテイルは種族的におっぱい小さいけれど、猫娘衆には最終兵器がいる。アムレイヤ!」

「はぁい」


 みんなが見てる中、グレイエルフのアムレイヤがその場でジャンプする。


 ドブルンッ!!


「おおーーーー!」


 モテたい三傑衆だけじゃなくて見てた白蛇女メリュジン達からも歓声が上がる。それだけの迫力があった。

 その胸の大きさからタユンエルフとかプルンエルフとか呼ばれるグレイエルフ。

 アムレイヤもバスト1メートルとか言ってたっけ。その大きな胸のせいでエルフの中で唯一弓が苦手なエルフと聞いたことがある。

 白蛇女メリュジン達がきゃいきゃいはしゃぎながら代わる代わるアムレイヤの胸を触っている。


「私のおねぇちゃんは私より大きいよ」


 アムレイヤが言うと白蛇女メリュジン達が声を揃えてすごーい、とか言う。


「……なんだこの天国? 金も払わずにタダで見てもいいのか? 夢じゃないのか?」

「俺は今日、一生分の運を使いきったかもしれない。明日死ぬかもな……」

「探索者やってて良かった」


 ディグン、ネオール、バングラゥのモテたい三傑衆が感極まってボソボソ言ってる。

 ふむ、俺は3人をチョイチョイ手招きして、


「あのな、お前らな、見てるだけで満足か? パリオーを見ろ。全身でうずもれているぞ?」


 こそこそ、


「それは、パリオーだからだろ?」


 ボソボソ、


「ここの白蛇女メリュジン達は地上に興味がある。お前らが頑張って彼女達に地上の景色を見せることができたら、どうなると思う? 想像してみろ」


 モテたい三傑衆がごくりと唾を飲む。その脳内では、ありがとう、キャーステキ、と言う白蛇女メリュジン達が抱きついていることだろう。

 鼻の下がにょーん、と。


「というわけで、諸君の努力に期待してもいいかな?」

「「いいとも!」」


 いいぞ、ノリが良くて助かる。

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