第18話◇禁断の大魔法
用意した赤い大きな敷物には銀の魔術陣。魔力の通りやすい銀糸で魔術回路を構築して陣形を作ってある。
「この人数を1度にか?」
サーラントが心配するが、
「ここでまとめてやった方が早い。なんとかなるだろ」
久しぶりだが、よし、やるか。
「大魔法はみんなの協力が必要だ。敷物の上に種族の代表者が座って円陣を組んでくれ」
ワクワクとしてるの、何が起きるかと不安がっているの、順に敷物の上に座っていく。
「おい、サーラント。なんで敷物から出る?」
「この人数ではドリンの負担が大きいのだろう? 俺は今回は外れる」
変なとこで気を使う奴だな。
で、
14名分、初挑戦の人数だが数回に分けても手間が増えて、負担もさして変わらないだろう。
大魔法は気分が大切。浮かれているくらいがちょうどいい。
「さて、全員ここでそれぞれの加護神に食事の加護を祈ってくれ」
「待ってくれ、エルフの加護は森限定だ」
「ドワーフも洞窟内なんじゃが」
「シャララは花が咲いてないとダメよ?」
「用意してある。
「お任せアレ」
ドワーフの前には金属塊、エルフの前には木材、
「肉食系の
カゲンは、
「狩猟で得た捧げ物は切らしたことが無いから、問題無い」
グランシアもディグンも頷く。
「
シュドバイルが手を上げて言う。
「そこは俺が介入してなんとかする、あとは?」
「俺は空の見える風の吹くところだが、ここは地底だから無理じゃないか?」
「そこも介入するか」
術式を少し見直していると、
「コレ、使えますカー?」
「送風機デス」
原理は解らないが設置した輪っかから風がそよそよ流れる。テクノロジスだ。
「よし、準備できた」
「「ほんとか!?」」
「加護神への祈りは疑っちゃいかんだろ? さあ、はじめてくれ」
俺は敷物の銀糸の魔術陣に両手を触れて、意識を集中させる。囁くように呪文詠唱開始。
そしてみんながそれぞれの種族の加護神へと祈りを捧げる。
「我が群れを見守りし者……」
「気まぐれものの母神よ……」
「勇猛なりし兄弟、偉大な兄に請い願う……」
「シャララはお腹が空きました……」
「敬愛する女王、その母よ……」
「恵みもたらす森の慈愛よ……」
「ちょっと頼むよー、いや、いつも感謝してるってば」
それぞれの加護神への祈りが流れる。各種族の特徴に繋がるユニークな神々。種族を見守りし守護の神。
目をつぶり祈りの流れを探る。知覚する。
祈りの声を捕まえて、祈りに引かれるように、深く深く潜る。
意識の奥、認識の底、神々の世界へと繋がる領域。暗闇の中を走るいくつもの光の線。
夜限定のシュドバイルの祈りの道が細い。介入して、道を太くして届きやすくする。
他にも条件の合わない種族の道が細い。
指を差し込んでそっと優しく道を開く。
これで祈りの声は加護神へと届きやすくなる。
すぐそばに巨大な気配がある。それは俺を見つめている。僅かに動揺を感じる巨大な気配は紫、どうやらドラゴン。紫じいさんのもののようだ。
俺のやってることが解ったら、あとで怒られるかもなぁ。
「さぁみんな、思い出せ。宴の席や祭りの日にしか食べられないような、美味しいもの。旨いもの。豪華なもの。祝いに相応しいごちそうを。思い描け、今、なにが食べたい?」
祈りの道は開かれた。それぞれの祈りは神に届いた。その祈りをたどり、種族の加護神の存在を遠くに感じる。
道は13本。
遠く神々の世界の方から祈りの道を折り返し、神の加護がその力が、形を作りながら祈る者達に届いていく。
まるで子を思う親の気持ちのような、優しく暖かい力の流れ。
奇跡や加護といった大げさな表現よりも、まるで忘れたお弁当を届けるような、しょうがないなぁ、と苦笑するような気配。
加護神は慈愛に満ちてその種族を見守る。
だからこそ、あまり頼りすぎては申し訳ない気持ちになる。
その加護神の慈悲に、祈る者達の気持ちをより深く繋げる。
今、思い描く食べたいものを。
形を成すところに介入する。代償はおれの魔力と精神力。ありったけ注ぎ込む。
この地に生きる者には本来知覚しえない領域。
魔術と反応のいい物質を媒介に、速度と効果を変更し変成する錬精魔術は、物質や魔術回路を媒介して他者の魔術に介入する方法を知った。
その延長上にこの世界があった。
他者の祈りに介入して神の加護に変成を行う。
神に接触する禁断の術。俺ではまだその気配を朧気に感じとることしかできないが。
神官達が祈りの中で見るという神の姿は、まだはっきりとは見えない。
ただ、俺を知覚してるであろう神々の気配は、なんだか、イタズラっ子を見守るような感じで、俺は少しの気恥ずかしさを覚える。好奇心のままに神の加護に介入する大魔法。やりすきだなら神々にどんな怒られ方をするのか。しかし、今のところ笑って許してもらえているようだ。
今回は上手くいった。
手応えがある。これが俺のじーちゃんが開発した錬精魔術の奥許し。
ゆっくりと意識を身体に戻す。目を開ける。
呆然とする敷物に座る皆。車座に座るその中。
赤い敷物の上には様々な食事が湯気を上げている。肉の焼ける音、蜜の甘い匂い、果物の清々しい香り、血の匂い。
それぞれの種族にとっての豪華な食事。故郷の料理。祝い事のご馳走に名物料理。
鍋物やら小鉢やら鉄板焼やら丸焼きやらサラダとかケーキとかプリンとか節操なくごちゃごちゃと並ぶ。
誰も彼もが目前の光景に言葉を無くして、目を見開いている。成功した、と思わず口がニヤケテしまう。どうだみんな、驚いたか?
「これが錬精魔術の奥技にして大魔法」
俺は胸を張って声に出す。じーちゃんとシュドバイルが開発した大魔法。その後、受け継いだ俺が改良したのが、この大魔法。
「その名も『素敵なご馳走』だ」
言い切ると満足した。そして全ての魔力と精神力が底をついた俺は、ぶっ倒れた。
意識が途切れる直前、シャララの、
「美味しーー!!」
と、叫ぶ声が聞こえた。
「ん……」
目が覚めると辺りは暗くなっていた。夜の時間らしい。頬がほんのり暖かくて気持ちいい。目を開けて見てみれば白い鱗。それを枕に寝ていた。
転がって上をみれば俺を覗きこむ青い目が見える。
「ミュクレイル、か?」
「うん」
どうやらミュクレイルの蛇体を枕に寝ていたようだ。
魔力切れでぶっ倒れる、か。俺もまだまだだなぁ。魔力の補充回路繋げておけば良かったかな。
「ドリン、凄い」
「そうか?」
「真っ赤なプリン、美味しかった」
「そりゃ、良かった」
身を起こして見てみると、周りは静かになっていた。
「みんなは、どうした?」
「なんだか、凄かった。旨い、美味しい、信じられないって叫んで、騒いでたよ。今はみんな眠っちゃったみたいだけど」
大魔法は上手くいったみたいだ。あとは
「セプーテン達は、サンプル回収成功、解析しますって
よしよし。これで計画は進むか。
あー、魔力切れの影響か、まだ頭がクラクラするなぁ。
「寝直すとするか。ミュクレイルはどうする?」
「ドリンと一緒に寝る」
「そうか」
改めて敷物の上に横になると、ミュクレイルが俺の胸の上に頭を乗せる。
ずいぶんとなつかれたもんだな。
「ドリン」
「なんだ?」
「地上に行ってみたい」
「これからやることが上手く行けば、そのうち地上にも行けるようになるかもな」
「エルフの人達、森ってとこから来たんだよね? 木がいっぱいあるって」
「どこもかしこも木ばっかりのところを森って言うんだ」
「狼の顔の人は、雪のあるとこから来たって。雨が凍ってしまうくらい寒いとこだって」
「北の方だと、雪は珍しくはないだろうな。凍った雨だけど、柔らかくてヒラヒラと降ってくるぞ」
「
「俺も
「ドリン、連れてって」
「そのときは、シノスハーティルとシュドバイルの許可を貰わないとな」
「みんなで行く。みんなで冒険する」
「それは楽しそうだ」
「お父さんにも会える?」
「今は行方不明でどこにいるか俺も探してるが、あのじーちゃんが簡単にくたばることは無いから、元気にやってるだろ」
「ドリン」
「なんだ?」
「しっぽが痺れてる」
「ずっと俺の頭を乗せてるからだ。脳みそが詰まってるから俺の頭は重かったろ?」
ミュクレイルはなんだか楽しげにクスクス笑いながら俺の足に尻尾を絡める。
俺はミュクレイルの頭を撫でながら
「明日から忙しくなるぞ。はい、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
じーちゃんがミュクレイルに外の世界を見せてやりたいって、シュドバイルへの手紙に書いてたからな。
そのための仕込みもじーちゃんがやっていた。
じーちゃんはおもしろいからやっただけ、とか言いそうだけど。使わせてもらうぜじーちゃん。灰剣狼も猫娘衆も白角も巻き込んだ。これで大きく始められる。
だが、先ずは休んで魔力を回復させてからだ。
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