第17話◇グランシア、ちょっと落ち着こう

 

 部隊パーティ、灰剣狼、猫娘衆、白角の面子を促して順に挨拶させる。初めて見る種族、白蛇女メリュジンに戸惑いながらもなんとか自己紹介。マッの美女になにやら様子のおかしい男もいるが。

 それを長のシノスハーティルと、長から一歩下がって、蛇体だと一歩じゃ無いな。少し下がってシュドバイルと白蛇女メリュジン達が受ける。

 白蛇女メリュジン達も初めて見る種族になにやら楽しそう。好奇心で目が輝いている。

 たぶん灰剣狼の蟲人バグディスと白角の鷹人イーグルスは見たことないだろう。

 そして俺は部隊パーティ猫娘衆の女リーダー、猫尾キャットテイル希少種獅子種のグランシアに首を絞められる。


「ドリン、ドリン、ドーリーン」

「うぐ、なんだグランシア? 浮かれているな?」

「なんで1ヶ月近く黙ってたの? すぐに教えてって言ったのに。こそこそなにやってたの? 吐け、全部吐け」

「準備がいろいろあったんだよ、首を締めるな」


 ミュクレイルが来てグランシアの獅子の尻尾をつかんで引っ張る。助けてくれるのか?


「ドリンは私とお母さんの、離れてー」

「誰? この子」

「ミュクレイル、俺の叔母さんだ」

「あはははは、ドリン全部吐け」


 笑いながらも声が怖い。

 グランシアが俺の頭を両手で挟んで持ち上げる。足が宙に浮く。首がにゅっと伸びるような気がする。

 グランシアは170センチあるから120センチの俺と目線を合わせるにはこうなる。

 いや、他に方法はあるはずなんだが。

 ぶらーん。

 狼面ウルフフェイスのカゲンがシノスハーティルと話している。


「その目隠しはなんだ?」

「我らの瞳の力を抑えるためのものです」


 魅了チャームさえどうにかすれば話もしやすいだろうと用意したんだが。

 瞳の力が無くても男連中には全裸美女ってだけでやりにくいか?

 平然として見えるのは蟲人バグディスだけだ。白角の少年エルフは赤くなってる。大鬼オーガのディグンもなんか緊張してる。

 俺とサーラントは慣れてしまったから、連中もそのうち慣れるだろ。一月もすれば、うん。


「目隠しをとってもらえないか?」


 なに言い出すんだカゲンの奴。


「カゲン。白蛇女メリュジンの瞳には魅了チャームがある」

「それは聞いた。だが相手を見定めるためには1度目を見ておきたい」


 カゲンなりの人物鑑定か? それなら、


「シノスハーティル、頼む。カゲン、意識を持っていかれるなよ」


 目隠しを外したシノスハーティルとカゲンが見つめあう。全員がふたりに注目する。見つめ会う狼面ウルフフェイスの男と白蛇女メリュジンの長。


「なるほど、魅了チャームか。だが気を張っていれば耐えられるようだ。それで異種族を捕まえて血を飲む、ということか」

「そうです。それゆえに我らは異種族との交流を危険と考えています。この瞳の力を持つ我らは他の種族にとって脅威でしょう?」

「確かにな。だがそのためにその美しい瞳を隠させるのは、もったいないことだな」


 カゲンは牙を見せないように気をつけながら狼の顔で微笑む。

 シノスハーティルが言葉を失ってカゲンを見る。

 あー、ここにも天然モテ男がいた。サーラントと違ってカゲンは男にも人気があるタイプだが。

 ちなみに、暴走しないように邪妖精インプのパリオーはヤーゲンに吊るされている。ぷらーん。

 蝶妖精フェアリーのシャララもゼラファに抑えてもらっている。このふたりが口を開くと話が進まなくなる。

 まぁ、シャララとパリオーにはこのあとの異種族交流の面では活躍してもらうとして。


 目隠しをつけ直したシノスハーティルが先導して泉に向かう。

 さて、2回目のドッキリは?


「「なああああぁぁぁぁぁ!?」」


 全長20メートルオーバーの紫のドラゴン。紫のじいさん。どーん。

 これは流石にインパクトあるか。で、


「ぐむ、なんで俺の首を締めるんだグランシア?」

「あはははは、今の気分を他にどう表せって? 今までこれを隠してサーラントとふたりで楽しんでたんだ? ドリン?」


 グランシアのチョークスリーパーが俺の首に決まる。身長が違うからまたぶらーんとぶ下がっている状態。そのうえ、


「おぐ、ミュクレイル、助けるつもりかもしれんがこの状態で足を引っ張るのはやめろ!」


 さらに首が締まる。ぐえ。

 なんだか最近締められることが増えたぞ。


「ずいぶんと賑やかになったもんだのー」


 紫じいさんが楽しそうに笑う。


「さて、これからについてなんだが」


 紫じいさんの前に全員で車座になって座って話を進める。


「その前に」


 ん? 灰剣狼のディープドワーフ、ガディルンノが手を上げる。

 探索者の中でも経験豊富、困ったときの知識の倉。だけど口数は少なくて自分からは、あまり発言はしないのに珍しい。


「ガディルンノ、なんだ? 言ってくれ」


 ガディルンノはゴホンと咳払いして思慮深く言う。


「ドリンやサーラントほど異常事態に慣れていない者がいる。今の現状を受け止めきれない者がいる。慌てて先に進めず少し落ち着く時間を作ってやってはくれんか?」

「なんだ? まるで俺とサーラントがトンデモ状況に慣れてて神経が麻痺してるような言い方されてもな」

「「自覚しろよ!」」


 なぜか怒られた。見てみると白角の4人は目がうつろになってなんか白くなってる。猫娘衆の方は人間ヒューマンレッド種のカームと猫尾キャットテイルのネスファが頭を抱えている。刺激が強すぎたのか?

 灰剣狼は大丈夫だろうと思ったが、


「スマン。ちょーっとまだ、ついていけない。ドラゴン? なんでドラゴン? どういうこと?」


 ダークエルフのスーノサッドが片手を額に当てている。熱でもでたか?

 俺はおもわず、


「あれ? みんなそんな精神メンタル弱かったか?」


 サーラントが、


「意外と軟弱だな」


 何人かがパタリと敷物の上に倒れた。


「トドメを刺してどうするんじゃ……」


 ガディルンノのツッコミという珍しいものが出るあたり、異常事態ということなんだが。


「しかし、困ったな。この程度でダウンされると」

「そうだな。これからすることを考えれば」


 俺とサーラントで作戦会議。予定を変えるか? 少し待つか? それを聞いてたのかディグンが、


「これからなにしようってんだ? なにもかもが解らん。解らんが恐くなってきたぞ……」

「これが、噂の触るな凸凹……」


 少年エルフがぼそりと呟く。声が震えている。俺達を魔王みたいに言うな。まだやることの説明もしてないのに。


「仕方ない。予定の順番を変えるか。黒浮種フロート達、セプーテン、トリオナイン来てくれ」

「ハイ、ようやく挨拶できまスネー」


 紫じいさんの巨体の陰に隠れていた黒浮種フロート達がふよふよふよと現れる。空中を漂うように移動してこちらに。

 

「まだなんか出てくんのかよ……」

小妖精ピクシーの亜種?」

「いや、あんな黒いてるてる坊主なんて知らないぞ?」

「手も無い、足も無い、羽も翼もない……」

「なんで浮いてるの?」

「地下迷宮には不思議なものばかりですね……」

「長年探索者やっとるがの、ワシも初めてみたわ」


 さて、と、気合い入れるか。


「説明も後回しにする。まずはみんなにはここのことを知ってもらって、白蛇種メリュジンとこの黒浮種フロートと仲良くなってもらいたい。それから俺とサーラントのやろうとすることに手を貸してほしい。地上で戦争気分が高まって俺達もいつまでこの地下迷宮を探索できるか解らんからな」


 みんなを見渡す。ここまで来たからにはここにいる全員には協力してもらいたい。


「これからやろうとすることは、ちょっとばかりたいへんかもしれんが、おもしろくなると思う。なので、ここにいる全員には俺の盟友となってもらうか。報酬にはささやかなものだが、ここでじーちゃんの大魔法を披露させてもらう」

「なんだってー!!」


 大声で叫んだのは灰剣狼のダークエルフ。じーちゃんと同じ火系の魔術が得意で実はじーちゃんのファンのスーノサッド。

 酒が入ると俺に『無限の魔術師』と呼ばれたじーちゃんの話をせがんでくる。そのスーノサッドが興奮して、


「『無限の魔術師』グリン=スウィートフレンドの禁断の大魔法! それをドリンも使えるのか?」


 禁断の大魔法? なんか勘違いしてないか? 少年エルフが後を続けて、


「禁断の大魔法!? どんな魔法ですか?」


 スーノサッドがバッと立ち上がる。


「『無限の魔術師』彼がスウィートフレンドと呼ばれるのは、彼が盟友と認めた者にしか見せない禁断の大魔法がその由来だ」


 いや、俺もじーちゃんも小人ハーフリング北方スウィート種の生まれで。灰剣狼のディープドワーフ、ガディルンノが、


「ワシも聞いたことがある。その大魔法は彼の盟友である遊者の集いしか見たものはいないという」


 そりゃまぁ、戦闘用じゃないから、友人相手に使うもんだし。猫娘衆のグレイエルフのアムレイヤまで、


「私も聞いたことがある。なんでもその大魔法の凄まじさに、それを見た遊者の集いはどんな大魔法か、誰ひとり具体的に語った者、口にしたものはいないって。ただ凄いもの、としか伝わってないわ」


 いったいどんな広まり方してんだ? 真似されたくないから秘密にしてねってだけのはずだが? スーノサッドが興奮しながら再び喋る。こいつほんとにじーちゃんのこと好きなんだな。


「俺はその『無限の魔術師』の大魔法を見た、という盟友が酒場で語ったといわれる話を聞いた。グリンの大魔法を1度でも見た者は、2度とグリンに逆らう気は起きない、と」


 なんか、これからやろうとしてるのと、なにか違う。噂って怖いな。ずいぶんと大げさになってる。

 みんなが俺を見るんだが、


「ちょっと待て、みんな落ち着け」


 スーノサッドは興奮したまま拳を握る。


「なぁ、サーラントはその禁断の大魔法、見たことがあるのか?」

「大魔法についてはドリンに口止めされているが」


 へんな期待ばかりでハードル上げられても困る。なので見たことあるサーラントに、


「言ってくれサーラント。そんな派手な噂のもんじゃないって」


 サーラントは腕を組みしばし考える。

 おい、なんで、へんな間を置いてもったいつける?


「俺はドリンのその大魔法の練習に付き合っただけだが……」


 全員がおおお、とどよめく。


「今まで見てきた魔術に同じもの、似たようなものはひとつもない。あれは、神の御業に匹敵するとも言える。まさしく大魔法と呼ばれるに相応しい。見れば逆らう気を無くす、という点にも頷けるところがある」


 おおおおお、とどよめきが大きくなる。


「サーラント! おかしな持ち上げ方をするな、やりにくいだろうが!」

「なぜだ? あれこそ大魔法だろう」


 全員が興味津々で俺を見る。

 いや、大魔法に自信はあるが、この流れでみんなが期待してるものとはたぶん違う。


「そんなたいしたもんじゃ無いからな。期待し過ぎだお前ら」


 とりあえず準備を進めるか。

 これでウケなかったら怖いな。期待が高まりすぎだろ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る