第8話 夏休みの過ごし方

「涼子サン。彼氏彼女とは、一体どういうことをして夏休みを過ごすのかな」


 夏休み初日、私は涼子に朝から電話をかけている。


「あのねぇ、知りませんよ楓くん!武志に聞いてみたらいいじゃん。決まりなんてないでしょ。ちなみに私は明日から旅行ですけどー。受験勉強は旅行の後から~。ふふふーん」


「受験勉強。そうだよね。そうだよね。勉強…。武志は頭いいし、ずっと塾通いしてるし。大学、離れ離れになるかも。そしたら浮気されて、別れるかも。どうしよう、どうしよう涼子!」


「……よくまあ、妄想が膨らむわね。ごちゃごちゃ言わないで、一緒に勉強したら?図書館デートとか、学生のうちだけじゃない?」


「!いいかも。わたし、勉強頑張って、大学も武志との幸せも手に入れる!」


「おーおー。意気込みだけは完璧なんだから。まあ、頑張ってよ。お互い受験生だし、恋愛にのめり込むのもほどほどにしないとだよね」


「ね。じゃ、わたし図書館行くね。何着て行こうかな~。肩出しすぎたら寒いかな。でもセクシーさが欲しいし…」


「あんた、何しに行くのよ…」


 武志との付き合いは順調だった。初めて彼氏が出来た3ヶ月記念とかプリクラに書いたし。


「楓~。図書館で勉強しようなんて、めずらしいじゃん。普通に映画とか行かなくていいのか?」


「武志、私、どうしても武志と離れたくないから、勉強頑張って同じ大学に行きたい」


「同じ大学って言われても。俺、進学するつもりないんだよな」


「どうして?!初めて聞いたんだけど。就職希望なの?」


「俺んち母子家庭だからさ。最初はもちろん進学希望で高校に入ったけど、今は大学まで通わせて貰うのは無理だなって。働いて家に少しでも金入れたいしさ」


「武志…」


 正直、武志は絶対進学するものだと思っていた。塾だって通ってるし。


「塾は?塾通ってるじゃない」


「ああ、あれは塾って言うか。元父親だから。一応大手の予備校講師だからさ、勉強だけは今も教わってるんだ。養育費みたいなもんなんじゃない?」


 知らなかった。武志はきっと色々なやんでいた時期があったのかも知れない。そんなときに私ってヤツは…。自分が恥ずかしくて武志をまともに見れなかった。


「なんだよー。気を使うなよ?だからあんまり話したくなかったんだけどさ。しっかり彼女になってくれたからには、俺のことも知って貰いたいし。聞いてくれてありがとう」


「武志…。ね、武志は進学したくないの?お金を気にしなかったら…」


「うーん…。そりゃあ、まあ。大学で勉強してみたいこととか、就職ももっと幅広く見つけたいし。高卒だと限りあるからさ」


「私、大学資金出すよ。出す出す。国公立限定だけど(笑)」


「はあ?楓何言ってるの?知ってる?大学の費用って何百万もなるんだよ。スタバで一杯とは違うからね(笑)」


「私、実は…。い、今は言わない。でも信じて。お金は大丈夫だから。勉強しよう。一緒に!大学も一緒に通おう!」

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