6-6 ファンアート
澤亜紀羅という同級生は、俺たちに気を許しているくせに、さりげなく距離を取ろうとするややこしい女の子だ。と、俺、大垣晴は思っている。
絶対に自分から「助けてほしい」とは言わないし、限界まで自分でどうにかしようと悩んでうじうじしているところが、面倒くさい奴。
彼女が何かに苦しんでもがいていても、中学まで友人がほとんどいなかった俺は、どう接するのが正解なのかわからない。だから、気づいていないふりをしてしまうときもある。声はかけるけれど、結局何もできないときもある。
ヒロはさすが幼なじみだけあって、先回りをしてさりげなく彼女を守り、助けている。ああいうのが、本当の理解者なんだろうなと、思う。
動画の宣伝用に四人で共同のSNSを作ったときに、管理は自分がしたいとヒロが言い出したのも、先回りのひとつだったのだろう。彼のおかげで悪質なコメントやメッセージは迅速に削除され、さっちゃんの目に入らないだけでなく俺や芙雪にとっても助けになっている。コメント欄は、いつでも基本的に穏やかで平和だ。
そんなSNS管理人のヒロは、先日やっとお母さんから正式に事務所所属の許可をもらったそうだ。これで四人でこれからも活動できる。
「俺もこれからはいい子でいないとダメだな。喧嘩とかして
俺の家に遊びに来ていたヒロが、和室の畳の上でごろごろしながら言った。ヒロの家はアパートで和室もないから、こういう部屋が羨ましいそうだ。というわけで、最近の彼は遊びに来るたびに畳と仲良しだ。ま、俺もばあちゃんも普段はそんなに使わない客間みたいなもんだから別にいいけど。
「言うてお前、芙雪助けた以外はそこまで暴れてないでしょ。こっち引っ越してきてから俺もちょくちょく有名な不良チームの噂とか聞くけど、奈津田志大は高二になってからほぼ隠居状態だって言われてるよ」
「そらそうよ。ハルちゃんねるに迷惑かけたくねーもん」
「前に質問コーナーの動画でヒロが喋った不良エピソードは視聴者の人たち大喜びしてたけどね」
「過去のエピソードだから面白いんだろ。現在進行形で殴り合いしたり補導されてたらファンも引くわ。……あ、ファンといえば、ハル見てる? 最近俺らのファンアートの数だいぶ増えてる」
「そうなの?」
ほれ、と起き上がったヒロがスマホの画面を俺に見せてくれた。
SNSの画面には、#ハルちゃんねるアート などとハッシュタグの付けられた投稿がいくつも並んでいて、俺たちをイラストにした絵の画像投稿がアップされている。
こちらから絵を募集したわけでもないのに、いつの間にかファンのあいだでハルちゃんねる関連のイラストを投稿するためのハッシュタグができて、絵心のある視聴者さんたちが俺ら四人のイラストを描いてくれるようになった。
動画の中で面白かったシーンを漫画みたいにして投稿してくれていたり、メンバーそれぞれのイラストや四人そろったイラストを載せてくれたりしている。自分が絵になっているのは嬉しいけど、少しくすぐったい気分にもなる。
「これさ、面白いよな。俺とハルと芙雪は顔出ししてるからファンアートの方もある程度実物に似せて描いてくれてるじゃん? でもさっちゃんは実物の情報がないから人によってばらばら」
「ああ、確かに」
実際のさっちゃんは癖のないポニーテールにウサギのような目をしている、手足が長くてすらりとした印象の女子だ。深く知ると弱気な内面も見えてくるけれど、外側の雰囲気はいつも凛としている。
投稿されたファンアートに描かれているさっちゃんの姿は様々だ。小柄なゆるふわ系の女の子だったり、逆に少し強そうなファッションをしていたり。髪型も、ロングだったりショートだったり本当に色々。
だけどどのさっちゃんも、画面の中のイラストの世界で、楽しそうに俺たちと一緒に笑った姿で描かれていた。俺やヒロや芙雪と同じように、肩を並べて笑顔で。
カメラが怖いと言って画面に姿を現すことを拒絶しているはずの彼女が、画面の中で笑っている。
それを見ているうちに、俺はあることを思いついた。
「なあ、ヒロ」
「あん?」
「俺たちさ、実写だとさっちゃんがいないから三人になるじゃん」
「おう」
「四人揃ってイラストになっちゃえば、万事解決じゃない? 事務所のサイトに載せてもらうの、イラストにしてもらえないか頼もうよ」
どうしてこんなに簡単なこと、誰も思いつかなかったんだろう。さっちゃんはカメラの前に立たなくていいし、俺たちが四人で一緒に横並びになれる最高のやり方。
俺の提案をぽかんと聞いていたヒロは、一拍の間をおいて口もとを緩めて言った。
「ハル、お前天才」
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