1-8 再び

 突然お邪魔することになった大垣くんの家は、私とヒロが住むマンションから徒歩でわりとすぐの場所にある一軒家だった。こじんまりとした日本家屋だけど手入れされた庭に咲く花や木が綺麗で、中に入れば春の陽光が暖かく差し込んできて明るい。

 私とヒロを出迎えてくれたのは、優しそうな雰囲気をした大垣くんのおばあさん。

 二階の日当たりの良い彼の小さな部屋に通されて、私たち三人はローテーブルを挟んで向かい合って座っている。


「動画投稿。俺も一緒にやらせて」


 ヒロの唐突な提案にも関わらず、ハルはあっさりとそれを受け入れた。


「人数が多い方が楽しい気がする。いいよ、三人でやろう」


 もっと、どうして急に? だとか質問されるのかなと思っていたから、意外だ。ヒロと顔を見合わせる。


「俺、亜紀羅みたいに編集ができるわけでもないんだけど……いいのか?」


 自分から言い出したくせに思いっきり戸惑っているヒロに対して、大垣くんはニッと人懐っこい笑みを向けた。


「じゃあ、一緒に動画の企画したりしようよ。ていうかそんな何ができるとか考えなくてもいいって。三人ともが楽しいのが一番。役割分担は二の次でいいんじゃないかな。俺は奈津田くんのことよく知らないから、楽しいかとかはまだわかんないけど、だからとりあえずやってみるってことで。だめかな?」


 ヒロの挙動不審に大垣くんが困ったような顔をして私を見るから、慌てて首を横に振る。


「ううん。駄目じゃない。ただ、大垣くんは私を誘ってくれたのに、勝手にヒロも連れて来たから悪いなとも思って」

「全然いいよ。なんていうか……たぶん、澤さんは奈津田くんも一緒のほうが安心するんだよね」

「……うん」


 私は曖昧な笑みを浮かべた。その通りだ。確かにヒロは、私を安心させるためだけに「一緒にやる」と言って、ここに来てくれた。YouTubeになんか少しも興味がないのに。そういう事情を言わなくてもなんとなく察してしまうのが、大垣くんなんだな。

 彼と二人だけだと不安だと暗に言ってしまっているようで、申し訳なくなる。

 そんな申し訳なささえも気づいてくれているのか、大垣くんは私とヒロの肩を元気に叩いた。


「なんだかんだで俺ら知り合って間もないもんな。澤さんも奈津田くんも俺も一緒にいると安心して居心地が良いってくらい、これからお互いに仲良くなっていければいいなって、俺は思う。だから、よろしく!」


 大垣くんの求める安心ではないかもしれないけれど、少なくとも私はその言葉にホッとしていた。まだ出会って少ししか経っていないしヒロほど彼のことを信用はしていないけど、彼のそういう明るいところや私の気持ちを先回りして察して必要以上に踏み込んでこないところは、私を安心させてくれるのだ。だからそういう意味では、私は彼と上手くやっていけると思う。


 こうして私は再び、動画の世界に戻ってきた。踊り手としてではなく、何か楽しいことを仲間と一緒に動画にして投稿する、ユーチューバ-として。

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