設定集 人名(王国)


★ヒコイツセ=ジン=ハナラカシア


 ハナラカシア王国の国王。帝国との同盟関係、五大諸侯の反目、そして一人娘の将来をうれえる苦労人。

 寡黙で深慮な性格の反面、重大な決定においてはしばしばの弱さが露呈することもある。継嗣けいしとして王妃との間にウィンダニア王女を儲けているが、王配の存在を危惧する諸侯には王弟を支持する動きもあり、国内での不和を生み出す要因となってしまっている。

 ツキノア兵の侵略行為を辨明べんめいすべく、メイラ、モリヤ、オイワの三将軍、そしてクラウディアナを伴い帝都へ赴く途上、シュンプ平野においてしいされてしまう。

 名称は彦五瀬命ひこいつせのみことより。なお、神武東征じんむとうせいにおいて紀国きのくにで命を落としている。また、王弟は神倭伊波礼毘古命かむやまといわれびこのみこと(後の神武天皇)がモチーフ。



★ヤチホコ=ジン=ハナラカシア


 ハナラカシア王国の建国者。五百年前の人物でヒコイツセ、ウィンダニアの祖先。

 かつてはネビケスト皇国の南部統治機構・オハリダ探題の武官であったが、神皇の崩御に端を発した南部民の決起により担ぎ上げられ、皇国に反旗を翻した。

 オハリダ探題を陥落させた後、ハナラカシア王国の建国を宣言、帝国及び教国と三国同盟を締結し、大戦を勝利へと導く。終戦後はハヤト一族を保護し、スフィアの娘にホーリーデイの家名を賜り縁戚関係を結んだ。

 ミストリアによれば、彼もまた地姫の素養を持つ人物のようであった。

 名称は日本の国造りの神である大国主神おおくにぬしのかみの別称・八千矛神やちほこのかみより。



★メイラ=レイ=ヤノロム


 ハナラカシア王国の有力貴族ヤノロム家の女当主。近衛騎士団長を多数輩出する一族であり、自身もまた当代の団長である。

 ヤノロム家は王家と諸侯の確執を憂いて自ら領地を返上した勤王の一族であり、その忠心は彼女にも引き継がれている。裏表のない快活な性格で、容姿端麗な妙齢の女性であるのだが、家名と剣の腕を恐れられて縁談には難儀している。

 トチネア家のモリヤ将軍とは幼馴染であり、共に王国の守護となることを誓い合い切磋琢磨してきた。いつしか胸中には淡い恋心が芽生えていたが、力に囚われるように変貌していく彼の姿に心を痛めている。

 シュンプ平野における惨劇の後、消息不明。

 名称は大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめより(郎女いらつめは若い女性の意)。大伴氏は古代日本の大連おおむらじの豪族で、ヤノロムは氏祖とされる大伴室屋おおとものむろやのアナグラム。



★モリヤ=レイ=トチネア


 ハナラカシア王国の五大諸侯トチネア家の当主。軍事に秀でた一族であり、諸侯の騎士団を束ねる際には慣例により指揮官を務める。

 自身も王国随一の武人として勇名を響かせており、個人の力量では帝国相手にも引けを取らないが、その絶望的なまでの戦力差が心に暗い影を落としていた。帝国を圧倒する魔力を持ちながら、それを王国のために行使しようとしない天人地姫とホーリーデイ家に強い憤りを覚えている。

 メイラとは幼き頃からの修行仲間であり、彼女の秘めた想いにも気が付いている様子だが、その心中を明らかにしようとはしない。

 シュンプ平野における惨劇の後、帝国軍と行動を共にしている。

 名称は物部守屋もののべのもりやより。物部氏は古代日本の大連おおむらじの豪族で、トチネアは氏祖とされる物部十千根もののべのとちねより。

 なお、神武東征において物部氏の始祖である邇芸速日命にぎはやひのみこととの戦いにより、彦五瀬命ひこいつせのみことは命を落としている。



★イルカ=レイ=シチウタ


 ハナラカシア王国の五大諸侯シチウタ家の嫡子たる令嬢。工作技術に秀でた一族であり、西方大陸ロディニアとの交易を独占的に行っている。

 当主である父エミシに代わり、海の男たちを従えて航海と冒険に繰り出す姉御肌の船長。自由な気風の西方の影響を受けており、王国の封建的な貴族制度は時代遅れと否定的である。

 交易により莫大な富を築き上げ、また本来は禁輸対象である軍事兵器を多数配備しており、密かに王国からの独立を画策していた。

 しかし、サンデリカの献策を受けたウィンダニア王女を保護したことにより、帝国軍第三師団ペルガモンと交戦。虎の子の艦隊を率いてこれを撃破せしめたことが、皮肉にも王国全土で抗戦の気運を高める結果となる。

 名称は蘇我入鹿そがのいるかより。エミシは蘇我蝦夷そがのえみしより。蘇我氏は古代日本の大臣おおおみの豪族で、シチウタは氏祖とされる武内宿禰たけしうちのすくねのアナグラム(宿禰すくねは貴人の意)。



★カマタリ=レイ=コトミナ


 ハナラカシア王国の五大諸侯コトミナ家の当主。大臣おおおみを多数輩出する内政に秀でた一族であり、自身もまた当代の大臣である。

 宮廷政治を主戦場としており、王家に対する忠誠はヤノロム家に並ぶものだが、国政の安定を優先するきらいがあり、次期国王には公然と王弟を推戴すいたいしようとしている。

 王都陥落の際には王弟を保護してコトミナ領へと逃れるが、他の諸侯よりも軍事力で劣るため防衛線は崩壊寸前となっている。

 名称は中臣鎌足なかとみのかまたりより。中臣氏は古代日本のむらじの豪族で、コトミナは氏祖とされる中臣阿毘古なかとみのあびこの一部アナグラムより。



★ノイテ=レイ=ノミネア


 ハナラカシア王国の五大諸侯ノミネア家の嫡孫。祭祀に秀でた一族であり、年中行事で多忙な当主に代わってノミネアの騎士団長を務めている。

 少し歳の離れた弟にオヒトがおり、父親が早逝した後は厳しくも優しく面倒を見てきた。またレイネリアの父親がノミネア家の出身のため、彼女とは従兄妹同士となる。

 知勇に優れた人物で、遠からず正式に当主を継ぐ予定であったが、帝国の侵攻から王族を退避させるため、最期まで城門防衛の指揮を執り散っていった。

 名称は土師猪手はじのいてより。土師氏は古代日本のむらじの豪族で、ノミネアは氏祖とされる野見宿禰のみのすくねより。



★オヒト=レイ=ノミネア


 ハナラカシア王国の五大諸侯ノミネア家の公子。当主代行のノイテの弟であり、ノミネア騎士団の部隊長であったが、シュンプ平野における軍事演習後は近衛騎士団の預かりとなっている。

 気弱で争い事を好まない性格が災いし、ノイエからは度々叱責を受けており、また従兄妹であるレイネリアからも頼りなく思われている。

 ノミネア家の常として天人地姫に対して過度な信奉を抱いているが、実は昔からレイネリアに好意を寄せており、彼女が御幸から戻ったら求婚するつもりでいた。レイネリア被害者の会その壱。

 王都陥落後、王妃を保護してノミネア領へと退避する。近衛兵と騎士団の残存兵が集結する大所帯となるが、彼よりも高位の武官がことごとく戦死していたため、やむなく戦時大将軍に任命されてしまう。

 遠い北の地に旅立った彼女への誓いからか、それとも地位が人を変えるのか、燃え盛る戦火の中で目覚ましい変貌を遂げていくことになる。

 名称は土師氏の子孫である大江音人おおえのおとひとより。



★ミオミ=レイ=ホーリーデイ


 レイネリアとサンデリカの父親。ホーリーデイ家当主クラウディアナの夫として婿入りしたノミネア家の庶子。

 悠々閑々ゆうゆうかんかんとした穏やかな性格で、ノミネア翁からも特に期待されていなかったが、いつの間にかホーリーデイ家の嫡子と逢瀬おうせを重ねており、周囲を大いに驚かせた。

 レイネリアも気付いてはいなかったが、当主の政治的躍進の裏には彼の功績も決して小さくはなく、日頃から良き相談相手として献身的に妻を支え続けていた。

 帝国の侵攻による王都の混乱の最中、サンデリカを庇う形で致命傷を負い、娘たちに後事を託して妻のもとへと逝った。

 名称は土師身臣はじのみのおみむくろとも)より。



★オイワ=レイ=ツキノア


 ハナラカシア王国の五大諸侯ツキノア家の当主。外交に秀でた一族だが、クラウディアナによりホーリーデイ家が台頭してからは発言力が低下しており、近年はトチネア家に追従する動きを見せている。

 小心者で嫉妬深い性格のため、他の諸侯からは陰で嘲笑あざわらわれているが、領内で疫病の蔓延が危惧された際には天人地姫を利用する形で解決に導いており、決して無能な人物という訳でもない。

 しかし、突如として配下の兵士が命令に背き、帝国領を襲撃するという大事件を引き起こしてしまう。そして、辨明べんめいのために国王や他の将軍らとともに帝都に赴く途上、国王を弑逆しいぎゃくした謀反人としてモリヤ将軍に誅殺される。

 名称は紀大磐きのおいわより。紀氏は古代日本のおみの豪族で、ツキノアは氏祖とされる紀角きのつののアナグラムより。



★オユミ=レイ=ツキノア


 ハナラカシア王国の五大諸侯ツキノア家の嫡子。世子せいしとして父オイワを支えながら領内の治世に励んでいる。

 輝くような金髪と碧眼を持ち、深黄ふかききに日焼けした精悍な顔立ちは女性からの人気が高く、本人もまたそれを自覚してか好色な態度を隠そうとしない。

 天人地姫が御幸した際、領内で疫病の蔓延が危惧されることを隠して留めさせ、また陪従者であるレイネリアを籠絡しようと近付くが、やがて事態解決に向けて共に時を過ごす内に、いつしか惹かれている自分に気付いていく。レイネリア被害者の会その弐。

 父に従い帝都へと辨明べんめいに赴く途上、謎の敵集団の襲撃を受けて国王を含む使節団は壊滅。父を謀反人として誅殺され、彼もまた下手人に仕立て上げられてしまう。

 発端となった兵士の暴走について先の事件との関連性を疑っており、自領へは帰らずにレイネリアたちを追って北上したことが、結果的に彼の命を長らえさせたばかりか、領民の犠牲を最小限に抑え、そして大陸の命運をも左右していくこととなる。

 名称は紀小弓きのおゆみより。なお、紀大磐きのおいわは子にあたり、史実とは親子関係が逆になっているが特に意味はない。



★オオシア


 オユミの幼馴染の商人。彼とは身分を超えた友情を育み、時折、兵士には明かせない厄介事を頼まれている。

 気怠けだるげな態度を示すことが多いが、それは相手を油断させるための演技であり、商売人らしく目端めはしが利く人物。複数の馬車からなる商隊を率いているが、チの姓を持つほどの大商人ではない。

 帝国により占領された領都に潜伏し、オユミが帰還するときを待ち続けている。

 名称は紀小弓の後妻である吉備上道采女大海きびのかみつみちのうねめおおしあまより。ただし、作中では男性であり、決して友情以上の関係がある訳ではない。



★ハナ


 ツキノア領の山村に住む少女。姉になることを夢見ながら儚く散っていった無垢なる魂。

 疫病を調査中のレイネリア一行によって最初の村人として発見され、以降は保護されながら行動を共にしていたが、村民たちの襲撃とともに本性をあらわにした。

 何者かによって村ごと生贄に捧げられ、反魂はんごんもどきの魔法により蘇った存在。自我はあるも記憶は失われており、家族と引き離されイワナの名を与えられていたが、お姉ちゃんになりたいという想いだけは残り続けていた。

 最後はミストリアによって魔法を解法かいほうされ、自身の名を取り戻して崩れ落ちていった。

 名称は日本神話の木花開耶姫このはなのさくやびめより。また、イワナは姉の磐長姫いわながひめより。天孫・邇邇芸命ににぎのみことの妻であり、美しい妹のみを選んだことにより、子孫は花のように繁栄する代わりに岩のような永久性を失った(人並みの寿命)とされている。

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