第三章 4-3
レイネリアは
彼女は迷わずタルペイアのもとへと向かう。彼女の帰還に気付き、きょとんとした表情で短剣を下ろす少女に、躊躇なく平手打ちを見舞った。
弾けるような音を立ててタルペイアの頭が大きく揺れると、手に持っていた短剣が地面へと落ちる。無言で正面に直った少女に向けて、続けてもう片方の頬も打ち返す。今度は
何をやっているのか自分でもよく分からない。これではまるで使用人を虐める悪役令嬢だ。
タルペイアは表情を変えずに酷い仕打ちに耐えていたが、目の端に薄っすらと涙が浮かんでいるところを見ると、やはりそれなりに痛かったのだろう。その弱々しい姿に居た堪れなくなり、誤魔化すように少女を抱き締めた。
タルペイアは抵抗することもなく、彼女の腕の中に収まっていた。半ば衝動的にこのような暴挙に及んでしまったが、なぜかこうしていると次から次へと感情が溢れ出してくる。
この気持ちはいったい何であろう。怒りであり、憎しみであり、悲しみであり、そして慈しみでもあった。今頃になって、事件の恐怖が、別離の
タルペイアもまた彼女に感化されたのか、いつしか
タルペイアは語った。自分が孤児であり、幼い頃にカシウス家に引き取られたこと。皇女のもとに遣わされ、内情を探らされていたこと。容易に人を
しかし、今ならタルペイアの本当の姿が見えてくる。外見からは感情の起伏に乏しく、何を考えているのか掴めなかった少女も、自分という鏡に映すことで、その構造が理解できる。そして、それを認識した瞬間、彼女には再び知覚の世界が視えていた。
そこには無数の球体があった。これが少女の内包するプラナなのだろう。そして、その奥に守られている…いや、絡め取って盾にしている、歪で醜悪な塊があった。それはどす黒い瘴気を漂わせており、もはや球体であるのかすらも判然としない。
直感的にこれがゲッシュの正体であると確信した。しかし、そこまで辿り着くには周囲の球体を消していかねばならない。彼女はなるべく消滅を最小限に抑えながら、眼前の道を切り拓いていく。
並行するようにして、自分の背に手を回すタルペイアの力も弱まっていった。呼び掛けへの応答も
「ゲッシュが皇女に変更されたのは、いつのことなの?」
少女がそれに答えることはなく、最後に頷きだけを返すと、事切れるように彼女の胸の中へと沈んでいった……。
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