第三章 4-2
レイネリアは改めて修練所を見回した。最近は
もともとは老魔術師がサナリエルの修練のために設えたもので、どうやら強力な結界が張られているらしく、並の攻性魔法では傷一つ付けられない他、内部の魔力や音声などを遮断し、外部に漏洩させないようになっているという。何でも
彼女は
結局、答えが見つからぬまま、彼女は入口に向けて足を進めた。タルペイアは修練所にまだ用があるのか、その場を微動だにしなかったが、擦れ違い様に掛けてきたのは意外な言葉であった。
「御顔に傷が残らなかったことが唯一の救いでした」
彼女は反射的に左の頬に
あの事件の直後、皇女に
故に、
この三日間、タルペイアからは何度も事件についての謝罪を受けていた。
それに比べると先ほどの言葉は幾分か、タルペイア自身の気持ちが込められているような気がして、自然と彼女の表情を緩めさせた。それを許容と捉えたのか、少女は彼女に向けて大きく一礼した。
タルペイアはこれからどうなるのだろう。一度は助命した以上、再び処刑するような真似はしないだろうが、一生この屋敷から出られないかも知れない。ただでさえ、事件の詳細を知る立場にあるのだから、その身柄は皇女によって抑えられたままであろう。
結局、タルペイアを救うことは出来なかった。いや、始めから救おうとしていたのかも怪しいところだ。プラナを奪うということ、それは怒りや憎しみの感情では叶わなかった。ならば一体何が足りなかったというのだろうか。
しかし、今更考えても詮無きことであった。彼女は無言で修練所を後にすると、貴賓室に戻るために邸宅へと足を向けた。既に天空は朱に染まっており、間もなく藍へと変わることだろう。
庭園を歩いていると、相変わらずの
『御顔に傷が残らなかったことが唯一の救いでした』
その言葉が再び脳裏に蘇る。自分とて妙齢の女人であり、容姿を気にしない訳ではない。しかし、些か大げさに思える言葉には苦笑してしまう。まるで、もう何も未練がないみたいではないか。
不意に、ある予感がした。それは荒唐無稽なものではないだろう。十分に考慮すべき事態であり、
だから、その行動は義心から生まれたものではない。ましてや友愛からでもない。強いて言うなれば、気付いた己自身への自負であった。
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