第二章 EP


エピローグ



 ミストリアがその手を伸ばしてくる。地上の星は尚もこんな自分を見限らず、変わらぬ輝きを向けてくれる。


 しかし、その手を掴んではいけない。その輝きは常人には決して手の届かぬもの…いや、届いてはならぬものだったのだ。私にしか出来ないこと、それはこの手を掴まぬことだったのだ。


 もっとずっとあなたと一緒にいたかった。


 あなたと一緒にいられたら、あなたの輝きの下にいられたら、自分も何者かになれるんじゃないかと思ったの。


 こんな私でもあなたの輝きに照らされて、ほんの少しだけど輝けるんじゃないかって、そんな風に思えたの。


 でも、それは駄目なの。あなたは強く美しく、そしてどこまでも気高くて…比類なき孤高の煌めきは、天下万民を等しく照らし、そして何人たりとて侵せない。


 その輝きを曇らすもの、かげりをもたらすもの、あなたという完成された至高の存在に瑕疵かしを与えるもの…それが私なのだ。


 彼女はミストリアの差し伸べた手を振り払うと、全身から全精神から絞り出すように声を漏らした。


「私はあなたには付いていけない。もう、これ以上はいけないよ……」


 それが彼女にとって精一杯の、愚かにも星の光輝こうきに手を伸ばそうとした咎人とがびと贖罪しょくざい克己こっきであった。


 ミストリアはその葛藤、深慮を察したように、これまでに幾度となく繰り返された光景を眺めるかのように、淡々と彼女に離別を告げた。


「じゃあ、ここでお別れね。さようなら、私の…ううん、レイネリア=レイ=ホーリーデイ」


 そして、ミストリアは振り返らずに歩いていく。残された彼女はただ、黙ってその後背こうはいを見詰めることしか出来なかった。


 これは、今はまだ何者でもない少女レイネリア=レイ=ホーリーデイと、伝説を生きる神々の忘れ形見ミストリア=シン=ジェイドロザリーが、秘匿された世界の果てに至るまでの物語である。

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