第一章 疫病

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 私は花が好き。花を見ていると何だかとても嬉しくなる。今朝も水を汲みに泉へ行ったら、ほとりいろどる赤や黄に夢中になって遅れてしまったの。


 野原の一面に咲く花が好き。村の道端にポツンと咲く花が好き。甘い匂いで虫を誘う花が好き。誰にも知られず寂しそうな花も好き。


 この前、村の男の子から好きなものは何かって聞かれたから、花なら何でも好きだよって答えたの。そうしたら、その子は村中から集めた両手いっぱいの花を私にくれたわ。その日はね、私の誕生日だったのよ。


 どうして私はこんなに花が好きなのか。それはきっと、私の名前がハナだから。お父さんとお母さんが付けてくれた大切な名前。花のように綺麗に咲き誇ってほしいって意味らしいんだけど、私にはまだよく分からないの。


 綺麗ってどういうことなんだろう。ある日お父さんに聞いてみたら、それはお母さんのことだよって言うの。それを聞いたお母さんは照れていたみたいだけど、綺麗ってお母さんのことなのかな。


 じゃあ、どうしたらお母さんになれるんだろう。またお父さんに聞いてみたら、私にはまだ早いって真っ赤な顔をして怒られたの。


 でも私はハナだから、花のように綺麗になるためには、お母さんにならないといけないのに。もうどうしたら良いのか分からなくて、独りでシクシクと泣いていたら、お母さんが優しく教えてくれたの。


 お母さんにはまだ早いけれど、お姉ちゃんにはなれるんだって。お姉ちゃんって何って聞いたら、お母さんは私だけじゃなくて、別の子のお母さんにもなるんだって。


 そんなのは嫌、だってお母さんは私だけのものなんだから。私は文句を言ったんだけど、お母さんは頭を優しく撫でて、お腹の中の音を聴かせてくれたの。


 この子にはお母さんが必要だけど、お姉ちゃんのことも必要なの。これも私がお母さんになるためなんだって。だから、私が頑張るねって言ったら、お母さんはとても喜んで私を抱きしめてくれたの。


 私の名前はハナ、花になるには綺麗にならないといけなくて、綺麗になるにはお母さんにならないといけなくて、お母さんになるにはお姉ちゃんにならないといけないの。


 ああ、早くお姉ちゃんになりたいな。




第一章 疫病

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