プロローグ 4-3


「この子がミストリアよ。二人とも仲良くしてね」


 母様に連れられた少女は、まるで吸い込まれそうな翡翠の瞳をじっと自分に向けていた。以前から家族が増えることを聞かされており、それは弟でも妹でもないようだが、とても嬉しい気持ちになったことを覚えている。


「よろしくね、ミストリア」


 そう言って少女に手を伸ばした。しかし、少女はその手を取ることはせず、恐る恐る遠巻きに眺めているだけであった。その態度が少しだけしゃくに障ったが、母様から仲良くするように言われたため、構わずその手を握った。


 少女は驚いた様子で身体を震わせたが、しばらくして安堵するような笑顔に変わった。その表情の変化に思わず驚いてしまうが、不思議と少女を見詰めていると何処か懐かしい気持ちで溢れてきた。


 少女もまた同じようで、二人で手を繋いだままお互いを覗き込んでいたのだが、やがて母様に促されて屋敷の中を案内した。


 玄関から大広間を通り抜け、食堂や浴場などが続く廊下を渡ると、使用人や従者の部屋を横目に庭園へと降りる。1階を一周するようにして再び玄関をくぐり、自室がある2階へと上がろうとしたとき、階段の踊り場にある大鏡に自分たちの姿が写った。


 その瞬間、強い違和感を覚えた。それは記憶の中の自分が感じたものではなく、それを見る現在の自分によるものだった。全ては夢であり、幼き日の出会いを思い起こしているのだろう。だから細部には記憶違い、或いは夢であるが故の変質があっても仕方がない。


 しかし、だとしてもだ。いくら何でもこれはないだろう。だって、あれではまるで***ではないか……。

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