プロローグ 1-2
両国の国境付近の荒野に展開された二つの軍勢、それらを一望できる丘に設置された陣幕の中で、皇帝は臣下の報告を受けながら傍らに立つ一人の少女に目をやった。
陣幕には軍勢と同様、二つの集団が形成されていた。一方は、ディアテスシャー帝国の皇帝と幕僚、そして他方はハナラカシア王国の国王と側近である。
単純な人数に対する密度は決して高くはないが、しかし両国の元首を始め重鎮が列席するには、そこはあまりに狭きに過ぎた。陣幕の外側では兵士たちが強張った表情で、蟻の一匹も通さぬほどの絶壁の防御を固めている。
皇帝の
「…レイネリア殿はどうか」
不意に発せられた皇帝の言葉に、帝国の幕僚、その重責に違わず年配者が多いが、まだ比較的若い武官の間で僅かに緊張が走った。
軍事大国である帝国において、最高指揮官である皇帝が軍を観覧することは珍しくないが、大抵は寡黙に
通例であれば、皇帝のように貴き身分の存在とは直接話すことは許されないのだ。しかし、今回は
「恐れながら申し上げます。当世の
少女の物怖じせぬ直答に対し、両国の重鎮は動揺の色を隠せずにいた。ヌーナ大陸に生きる者であれば、
しかし、実際にその目で拝覧するのは、彼らにとっても初めてのことであった。次第に広がりを見せる喧騒の中で、皇帝は場を制するように幕僚を
国王もまた一度側近に目配せすると、黙したままに頷きを返した。それを受けて皇帝は陣幕にいる者のみならず、荒野に展開する全軍に対し、声高らかに宣言した。
「これより、ディアテスシャー帝国とハナラカシア王国の合同軍事演習を開始する」
その号令を合図に陣幕には巨大な
そう、これは戦争ではない、帝国と王国の同盟に基づく軍事演習なのだ。しかし、その溢れんばかりの武力が向かう先は、互いの軍勢ではなかった。両軍の先にあったのは、漆黒のローブを身に纏う一人の魔術師であった。
「御手柔らかにね、ミスティ」
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