第18話

 わたしはひとしきりククちゃんをモフモフしたあと、魔法の本を開いてみた。

 新しい聖獣がお友達になったから、きっとその子の能力も増えているかと思ったからだ。



 お菓子魔女 パティ

 魔女レベル 13

 魔女ポイント のこり5


 キチント(2)

  魔法の杖を、調理器具に変形させられる。


 サット(1)

  手から砂糖を出す。


 シオン(1)

  手から食塩を出す。


 クモクモ(3)

  砂糖からわたがしを作る。


 マゼマゼ(0)

  材料を混合させてひとつにする。


 ワケワケ(0)

  混ざった材料を分離させる。


 ファーミング(4)

  コビットの能力を覚醒させる。


 ユニゴーンパワー(1)

  ユニゴーンの能力を覚醒させる。


 フェニッククパワー(0)

  フェニッククの能力を覚醒させる。


 チョコレートナイト(1)

  チョコレートからチョコレートナイトを作る。



 思ったとおり、『フェニッククパワー』というのが増えている。

 そしてレベルも1あがってたんだけど、魔女ポイントは5も増えていた。


 「えっ」となった私の表情を読み取ったのか、リンちゃんがすかさず教えてくれる。



「13ってのは、魔女にとっては縁起のいい数字だ! だから普段の5倍のポイントがもらえるんだ!」



「ふーん、そうなんだ」



「哀れね、そんなことも知らないだなんて」



 リンちゃんといっしょに、冷たい目でわたしを見るグランちゃん。

 なんだかリンちゃんがふたりに増えたみたいだった。



「よ……よくわかんないけど、さっそくこのポイントを、ククちゃんに振ってみよう!」



 わたしは迷うことなく『フェニッククパワー』の文字をなぞる。



「哀れね、考えなしに貴重な魔女ポイントを使うだなんて」



「俺様も、こんな考えなしにポンポン振る魔女は初めてだぜ! さっきなんて死にかけだってのに、クソみてぇな砂糖を出す魔法に2ポイントも振りやがったんだ!」



「哀れね、きっと脳に砂糖が詰まっているのよ」



「ううっ、それ、お花畑より酷いような……」



 それはさておき、わたしはククちゃんに期待する。

 だってユニちゃんが『ユニゴーンパワー』でお乳を出せるようになったのだから、ククちゃんも、やっぱり……!


 そう思っていたのは、わたしだけではなかった。

 まわりで見ていたコビットさんたちは、早くも米粒みたいなナイフとフォークを手に、じゅるり、と舌なめずりをしている。


 そんな、みなの注目を一身に集めている、ククちゃんはというと……。

 目覚めるように、カッ! と鳥目を見開いていた。



「コケェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーッ!」



 まるで新しい朝が来たみたいに、甲高くいなないたかと思うと、



 ……ぺかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!



 って擬音がしそうなくらい、身体がさんさんと輝きはじめたんだ……!



「うわあっ、まぶしいーっ!!」



 思わず目がショボショボした。コビットさんたちの目も点になっている。

 グランちゃんは白い顔が照り返すくらいまともに光を浴びているのに、表情ひとつ変えていない。


 彼女は瞬きひとつせず、ぼそりつつぶやいた。



「この力は、卵を産む力ではなく、もしかして……」



「ギャハハハハ! そうよ! 『身体を光らせる』能力よ!」



「哀れね。貴重な魔女ポイントを使ったというのに、得られたのはただの光だなんて。『光の魔女』が操るような強い光であれば、使い道はあったのに」



「そういうこった! ヒヒヒヒヒ! 残念だったなぁ、お菓子魔女よ! とんでもないハズレ能力で!」



 グランちゃんとリンちゃんと評価はさんざんだったけど、わたしは大感激。



「うわぁぁぁーーーっ! あったかーーーいっ!」



 ククちゃんはもともと暖かかったけど、光るとさらに体温が高くなるのか、お日様みたいにぽっかぽか。


 いつも暗い空の『忘れ谷』に、本当に小さな太陽が現れたみたい。

 ククちゃんもまさに『太陽のポーズ』と呼ぶに相応しい、翼を広げた直立ポーズを取っている。


 カマクラを壊されたばかりで寒かったので、わたしとユニちゃん、そしてコビットさんたちでまわりを取り囲んで暖を取った。



「光ってるククちゃんのそば、とっても暖かいよ! グランちゃんとリンちゃんもおいでよ!」



「哀れね。ただの光でここまで喜べるだなんて」



 手招きすると、グランちゃんは弱い磁石で引き寄せられるみたいに、いそいそと隣に来てくれたけど……。

 リンちゃんは強い磁石みたいに猛反発。



「バカじゃねぇのっ!? 魔女にあったかさなんて要らねぇんだよっ!? 必要なのは、無間地獄のような灼熱か、永久凍土のような冷たさだけなんだ! それを、バカみてぇにはしゃぎやがって! このバーカバーカ!」



 まるでいじめっ子みたいに、遠くで「バーカバーカ」を連呼している。

 ふと、焚火にあたるみたいに、白い手をかざしていたグランちゃんが、



「卵が欲しかったのではないの?」



 とつぶやいた。



「あ、バレてたか。グランちゃんの言うとおり、卵を期待してたんだけど……本当はなんでも良かったんだ」



「……なんでも良い?」



「うん! わたしはククちゃんができることだったら、ククちゃんがしてくれることだったら、なんでも嬉しいから!」



「どうして従えたばかりの使い魔を、そんなに甘やかすの?」



「別に甘やかしてるわけじゃないよ。それにククちゃんは使い魔かもしれないけど、もうわたしのお友達だし!」



 するとグランちゃんの顔から、いつも以上に表情が失われたような気がする。

 わたしにとってはそれが何だか、泣いている子供のように見えた。



「哀れね、嘘までついて」



 その声は、心を氷の扉で閉ざしたかのよう。

 態度もまるで、出会った頃に戻ったような感じだった。



「グランちゃん、どうしちゃったの急に。わたし、嘘なんてついてないけど」



「哀れね、私は別にどうもしていない。それに、嘘じゃないというのなら、作ってみせて」



「作るって、なにを?」



「卵なしで、焼き菓子を。卵がなくて平気というのなら、卵なしでもおいしい焼き菓子が作れるはず」



「あ、もしかしてグランちゃん、お菓子が食べたかったの? なら、普通に言ってくれれば……」



 わたしはグランちゃんの不機嫌の理由がわかってホッとする。

 それに実をいうと、わたしも思ってたんだよね。


 ククちゃんの強い光を浴びながら、「ああ、焼き菓子が食べたいなぁ」って……!



「よぉーし! それじゃあ卵なしで、焼き菓子を作ろっか!」

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