第16話
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
なにがなんだかわからないまま、わたしは暗闇の空に打ち上げられる。
あたりの景色がぐるんぐるん回転して、目が回っているうちに、
……ばふぅぅぅぅぅーーーーーーんっ!
と、雪の中に大の字になって突っ込んだ。
「い……いったぁぁぁ~!」
でも雪がクッションになってくれて、助かったようだ。
わたしの着地から少しおくれて、同じように舞い上げられていたコビットさんたちが、ぽふぽふとわたしのまわりに落ちる。
ユニちゃんは頭から雪山に突っ込んでもがいていたので、引っ張り出してあげた。
「そうだ、グランちゃんは!?」
あたりを見回したけど、どこにもそれらしき姿はない。
もしかして、まだ空に……!?
わたしは天を仰いだ途端、びくりと肩をすくめてしまった。
真上には、空を覆い尽くすほどの、巨大な鳥が……。
漆黒の翼を蜃気楼のように、ゆらり、ゆらりとはためかせていたんだ……!
「も……もしかしてこの子が、リンちゃんの言ってた……!」
すると、枯木にしがみついて難を逃れていたリンちゃんが教えてくれた。
「ヒヒッ! その通りよ! ソイツは『フライデビル』……! 雪の魔女に幾度となく殺されまくった悪魔よ! コイツはついに、悲願を果たしたようだなぁ!」
「ひがん……?」
よく見ると、フライデビルさんの、塔みたいに長いクチバシの先には……。
ぐったりした、グランちゃんの姿が……!
「ぐ、グランちゃん!? グランちゃーーーーんっ!!」
呼びかけると、うっすらと目を開けるグランちゃん。
彼女はぼんやりした瞳でわたしを見つけると、最後の力を振り絞って、薄い唇を動かしていた。
に げ て
と……!
そしてそれは本当に、彼女の最後の言葉になった。
……ぐあっ……!
フライデビルさんは、おおきなクチバシを風車みたいに動かして、高くあげる。
そしてクチバシに咥えていたグランちゃんを、小魚でも食べるみたいに……。
……ごくんっ!
って飲み込んじゃったんだ……!
「ぐ……グランちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
わたしは声を限りに叫んだんだけど、フライデビルさんが花の蜜を味わう蝶みたいに羽根を動かしただけで、
……ゴオオオッ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?!?」
信じられないほどの突風がぶつかってきて、わたしは吹っ飛ばされてしまった。
雪の中を、捨てられた人形みたいに転がってようやく、わたしは飛び起きる。
フライデビルさんは高く飛び上がっており、回遊する魚みたいに空を泳いでいた。
「ヒヒヒヒ! さぁ、さっきのがもう一発来るぞ! そしたらお菓子魔女! 次に食われるのはテメーだっ!」
「そんなことよりリンちゃん! 食べられたグランちゃんはどうなっちゃうの!?」
リンちゃんは「そんなことだぁ!?」とムッとしてたけど、教えてくれた。
「悪魔に食われた魔女は、人間が食べ物を消化するみてぇに、少しずつ取り込んでいくのよ! もうじきあの『フライデビル』は氷の魔女を取り込んで、吹雪でも操るようになるだろうなぁ! ヒッヒッヒッヒッ!」
「助けるには、どうしたらいいの!?」
リンちゃんは「助けるだぁ!? バカじゃねぇの!」と怒ってたけど、教えてくれた。
「助けたけりゃ、取り込まれる前にヤツをブッ殺して、腹をかっさばくしかねぇだろうなぁ!」
ううっ、もしかしてとは思ってたけど……。
やっぱり、そういう方法になっちゃうのか……!
でもフライデビルさんは、わたしが戦った……。
いや、戦ってないけど、戦ったグランドデビルさんよりさらに大きい。
最初に突っ込んできたときはグランちゃんが突き飛ばしてくれたから助かったけど、同じ攻撃をよけられる自信なんかない。
いやいや、よけちゃダメなんだ。
グランちゃんを助けるためには、戦わないと……!
なにか……なにかいい手は……!?
なにか使えるものはないかとあたりを見回したら、魔法の本が落ちていた。
困ったときの魔法だのみとばかりに、わたしはその本に飛びつく。
お菓子魔女 パティ
魔女レベル 12
魔女ポイント のこり2
キチント(2)
魔法の杖を、調理器具に変形させられる。
サット(1)
手から砂糖を出す。
シオン(1)
手から食塩を出す。
クモクモ(1)
砂糖からわたがしを作る。
ファーミング(4)
コビットの能力を覚醒させる。
ユニゴーンパワー(1)
ユニゴーンの能力を覚醒させる。
チョコレートナイト(1)
チョコレートからチョコレートナイトを作る。
使えるポイントは2残ってるけど……。
フライデビルさんをなんとかできそうな呪文は、ひとつもない……!
何度見返して、ひとつも……!
い……いや、ひとつだけ……ひとつだけ、あった……!
これはわたしの『予感』でしかないけど、もしそうだったとしたら、なんとかなるかも……!
でも思っていたとおりにいかなかったら、わたしは……!
なんてことを考えているうちに、フライデビルさんは大空を翻り、低空飛行の準備をはじめている。
い、急がなきゃ……! もう、悩んでるヒマなんてない!
ええい、ままよっ!
わたしはどうにでもなれ、とばかりに、ある項目に残りのポイントを費やした。
そして本から顔をあげて叫ぶ。
「サット! そして……クモクモっ!」
握りしめたわたしの手から、煙のようなわたがしがモクモクと溢れ出す。
さすが合計3ポイント掛けただけあって、勢いも量もすさまじい。
そう、わたしが命運を委ねたのは、『クモクモ』の呪文……!
現れたわたがしは、地面に落ちることなく、フワフワと宙に浮いていた。
……よしっ、ここまでは、思ったとおり……!
「ヒヒヒヒ! バカじゃねぇのっ! そんな泡みてぇなので、何をしようってんだ! 最後に憧れのお菓子をたらふく食おうってのか!? テメーはマジで、脳内お花畑だなぁ!」
せせら笑うリンちゃん。
でもわたしの次の行動を見た瞬間、肝がつぶれたみたいな声を出していた。
「げっ……げえええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
わたしはベッドに飛び込むみたいに、わたがしに向かってダイブ……!
雲みたいなわたがしに、ライドっ……!
「か……菓子に、乗ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?!?」
……わたしの、子供の頃からの夢だったんだ。
雲を食べるのが。
そして……雲に、乗るのが……!
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