第558話 紅蓮と閃光

 というわけで土曜日。集会に使う教室は空き教室を三つ借りて、それぞれ壁を取っ払って一つの部屋にすることに。




 その設営にだって時間はかかるわけで。






「うーす……できたぁ」

「しかしこうして見ると広いな……」

「前方と後方に一つずつ残っている。そことも接続できるぞ」

「マジでハイスペック設備だなぁ……」



 広々とした教室に、作業を終えて佇む迅雷閃渦ライトニングボルテックスの面々。アーサー、イザーク、ルシュド、ヴィクトール、ギネヴィアの五人である。



「何時から開始だっけ?」

「午前十時。あと三十分あるな」

「割と早めに来ちゃったね。何してよっか」

「学園祭で歌う曲でも決める?」



 予め準備していたであろうリストを取り出し、捲ってみるイザーク。



「そもそもイザークが歌うのかギネヴィアが歌うのか」

「……わたしは、そのー……」

「まあ今から練習して十月には間に合わねえよな。ここに書いてきたのはボクが歌えるやつだ。あとは演奏が頑張れるかどうかで決まる」

「あの歌、イザーク作った、駄目?」

「あれはまだ調整中。お披露目はもうちょい先かな?」

「ふむ……」



 目を引く曲名ばかりがよく並ぶ。『お前の心臓を食わせてくれ』、『ディバイン☆ディスカヴァー』、『黙れカス』等々。



「何か、この、何だ……曲名があれだな?」

「古典音楽も大概だろ。『麗しき第三王女に捧ぐ心鳴の律動』とか」

「曲名から内容が伝わってこないのだが」

「実際に曲聴いてこのタイトルはこういう意味か~~~~!!! って感動するまでが様式美よ」


「でも今回は初めてのライブなんだし、普通のタイトルのやつにしようよ。『黒日』とかどう?」

「ああーそれはいい曲だ。テンポも遅いしゆったりと丁寧に弾けるからな」

「じゃあこれにするか……後で他のバンドに提出させる用紙も作らないとなあ」






 そんな話をしていると、扉を開ける音が。他の部員がやってきたようだ。








「んおー!!! イザーク先輩!!! いや今は部長か!!!」

「アーサー先輩も入部してらっしゃったんですね。こんにちは」

「ヴィクトール先輩もいるとは驚きだです!」






 声をかけられた三人にとっては馴染みのある顔。アデル、マイク、そして男装済みアサイアである。






「おおーアデル! オマエの名前見てマジかよって思ってたけど、マジだったんだな!!」

「そりゃーイザーク先輩のやってるアレコレですもの便乗いたしますよぉぉぉーーーん!!!」

「アデルはともかくアサイア、お前はどうして」

「演技の幅を広げてみたいなあと。ただ、アーサー先輩もいるのは予想外でしたけどね……」

「……」




 一月のあの戦闘、自分の鎧姿を見て、何か思う所があるのだろう。


 だがそれを言葉にした所で、良い方向に変化するとは限らない。




「アーサー君! そんなしけた顔しないでだです! 課外活動なんだから元気出すだです!」

「……うん。そうだね、マイク君」

「あ、アーサー。キアラ、知ってる?」

「キアラですか? 彼女なら今武術部に顔を出して、友人の手伝いをしていますよ」

「そっかそっか。後でおれ、行く」

「三十分ぐらいで終わらせるからそのつもりでなー」


「ところでマイク、貴様は何故入部したのだ」

「ええと、新しい課外活動ができたということで、入部して心機一転しようかなと思ったんだです。そういう「強制的にだ、俺の意思ではない、誤解するな」


「は、はいだです?」











 更に暫く待っていると、他の生徒も次第にやってきて、




 教室は満杯になった。








「はーい! 皆さん集まってくださってありがとうございますー!」




 イザークが手を打ちながら呼びかけるが、まだ話している生徒は残っている。






「これより集会を始める。口を閉じろ」




 ヴィクトールがシャドウに指で指示をし、風を教室内に吹かせる。


 それはどうやら鎮静効果を含ませた風だったようで、生徒達はみるみるうちに静かになる。




(サンキューな! こういう時にオマエはありがてえ!)

(……本来なら貴様の仕事だろうが。まあいい)











 こうして集会が行われる。部長副部長の紹介、活動内容、活動予定、必要な道具等の確認、そして――






「やあ皆! 僕が顧問のストラムだよ!!」

「ストラム!? ああああああのイズエルトの英雄っすか!?!?」

「ん!? そこの君知ってるのかい僕を!?」

「実家がイズエルトで、両親が頻りに話をしてて! サインください!!!」

「お安い御用!!!」



 またヴィクトールが風を吹かせる。生徒は黙り、ストラムはアーサーに回収されて前に。



「こんな喧しい人ですが、魔法音楽についてはプロなんで、何でも訊いてってください!」

「訊いてねぇ~……!」

「他にも外部から講師を呼んで、皆が魔法音楽を楽しめるようにしていくつもりだ。意見とかもあったら伝えてほしい」






 という感じで、他の課外活動でも行われるようなノリの集会が進んでいくのであった。











「いやあもう何か、ワクワクしてくるぜ! なあアーサー!」

「そうだねアデル君。ん……」

「何か前に人が集められてるだです」



 彼らは一年生から三年生の、比較的年齢の低い生徒が多い。確認してからイザークが口を開く。



「えーと、こっちに来てもらった生徒はこっちで確認して、どこのバンドにも入っていない生徒です! 少なくともここの魔法音楽部ではバンドで活動してほしいなあって思ってますんで、ウチのバンド入れてもいいよ! って所あったら是非入れてやってください!」



 そう言われて動き出す生徒、手を挙げる生徒がちらほら見受けられる。








「……あ! あいつは!」

「知り合いかい?」

「そうだ! おーい!」



 立ち上がったアデルが連れてきたのは、濡れた黒髪の生徒。



「ああうう……」

「知り合いかい?」

「寮の部屋が隣なんだ!」

「そ、それでよく覚えていたね……?」



 生徒は隣に座らされ、アデルに肩を組まれる。






「ジャックはいい奴なんだ! オレの無茶振りにも答えてくれるし、普段はあまり何か言うタイプじゃないんだけど、周囲をよく見ている!」

「えっ……」

「成程、自分から入れてと言えずにどこのバンドにも所属できなかったと」

「……笑えよ」

「いやいや、その気持ちはおらすっごいわかるだです。仲良くしているグループに異質な自分が入っていってもいいのかって、ついつい躊躇っちゃうんだですよねぇ」



 うっはっはと笑ってみえるマイク、目を丸くするジャック。



「……ジハール出身か、あんた」

「そうだです。最初は田舎もんで馴染めるか不安だっただですけど……今はこの通りだです! だから、似たような状況になっている人は助けてしていきたいんだです!」

「……」


「実を言うと、ボク達三人でバンドを組もうと思ってたんだけど、もう一人欲しいなって話になってたんだよね。だから君が入ってくれると嬉しいな」

「アーサーとマイクが何言ってもオレが入れるけどな!!!」

「……」



 ジャックは一瞬迷った表情を見せた後、うんと頷いて、



「まあこれから、よろしく」

「うおおおおおおおお!!」

「はいはいもう叫ぶのはお終いね。よろしくジャック」

「よろしくだです! あっ、おら生徒会でもあるんで何かあったら遠慮なく頼ってくださいだです!」

「か、考えとくよ……その、入れてくれて、ありがとう。一つだけ訊きたいんだけど……バンド名は何?」

紅蓮と閃光クリムゾンライトだ!!!」




「……クリムゾン」

「かっくいーだろ!? オレとアーサーで考えたんだぜ!!」

「そ、そんな大声で言われると、ボク恥ずかしいなあ……」

「男装しているのに今更か?」






「んなああああああああああアーサー先輩いいいいいいいい!? 何で背後にいいいいいいいいい!?」

「副部長として教室を回ってただけだが……」

「こっちのアーサー、何だか普段から想像できない程の驚きっぷりだです」






 このように、ヴィクトールの思惑通りに部員達は続々と動いてくれたのであった。

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