二節 誇りは此身に
第557話 迅雷閃渦
それから夏季休暇も終わり、九月。残暑と共に生徒達の日常が戻ってくる。
「ただいま戻ったぞー」
「おっかーえりえりーアーサーちーんってうっわ!!!」
「何だよ」
「オマエッ!!! ブッフォ!!! 日焼けしすぎ!!!」
「日焼けだ……?」
洗面所に向かい自分の姿を確認する。
「……そんなにしてるか?」
「してるしてるー!! ヴィクトールと比べてみろって!!」
「待て貴様!! 俺はまだ荷物を置いていない!!」
ヴィクトールは普段から肌の露出を好まない人間なので、日焼けとはほとほと縁遠いのだ。差し出された腕も真っ白。
「わぁ、我ながらこれは凄まじいなー」
「ほう、貴様……夏季休暇の間何をしていた」
「実家の畑仕事手伝っていた」
「そりゃあ日焼けしまくりんぐだわ!!」
「向こうにいる時はそんなに感じなかったんだがな……」
そこにハンスとルシュドも遅れて入ってくる。
「うーす、お久しぶり」
「おうハンス、元気してたか! これはアーサーの日焼けな!」
「はぁ」
「……」
「ルシュド? 元気ねえけどどうした?」
「……え、あ、うん」
頭を軽く振って、それからソファーまで移動する。
「ええと、魔法音楽部。練習、何する、いい?」
「おおーそうだな。ちょっとボクが夏休み中にやってた諸々の報告と……でもって練習の前に話すことあるんだわ」
真剣な眼差しでイザークは口を開く。
「バンド名を!!! こっちで決めておきました!!!」
「……バンド名」
「大事だろー!? ほら、古典音楽だってなんたかかんたか楽団とか言うじゃん!!」
「まあその通りではあるが」
「いいから名前聞かせろよ」
「ふっふっふー、ただいまより発表します!! その名を!!」
「
「ボルテックス……」
「古代語で渦って意味があるんだぜ! 雷鳴渦巻く閃光、かっけーだろ!?」
「ああ!!」
「おれも、賛成!」
「勝手にしろ……というより、ギネヴィアにも伝えないといけないが」
「ああー、そういえば夏休み入る前に入れたんだったな」
「カヴァス、お使いだ。帰ったらこの、グランチェスターで叩き売りされていた、ペッパージャーキーなるものをくれてやる!」
「干し肉に胡椒たっぷりとか美味い以外の何物でもねーじゃねーかワオーン!!!」
と言って飛び出していくカヴァスなのであった。
そして翌日月曜日。学業と同時に課外活動も再開される。魔法音楽部は水曜日以外の週四日、自分の都合の合う日にやってきて練習を行うことになった。
「よし……よし!!」
「気合十分だね、ギネヴィア」
「もっちーのろっんーだぜ!! アーサーとイザーク君にかっこいいとこ見せなきゃ!!」
「いや本人目の前にいるんだが」
「え゛っ!?」
現在時刻は午後六時、一年一組は放課後。生徒達の活動はこれからが本番。
「空回りしすぎだ」
「だってぇー嬉しいんだもん!!!」
「よーしんじゃあ行くかー!! 多分ヴィクトールが上手いことやってくれてるけど、それも含めて見に行くかー!!」
こうしてエリスとカタリナに別れを告げ、アーサーとイザークとギネヴィアは魔法学園の地下、魔法音楽部部室にやってきた。
夏季休暇の期間を経て、壁は真っ白つるつるに。寝っ転がりたいぐらいと形容しようとしたら実際にギネヴィアがべたーと横になり出したので瞬時に引き剥がすアーサー。
「『電光石火』、『
「入部するに当たってバンド名を各自で考えてきてもらったんだぜ。でもってバンド毎に部屋を振り分けた」
「何個ぐらいあるの?」
「三十八」
「じゃあざっと数えて、メンバー五人だと仮定して、えー……百九十人ぐらいいるのか! えっ多くない!?」
「四十人クラスが五つ、それが七学年で千四百。多分四割は空いてるから八百四十程度が今の生徒数。だとしても多いな」
「七百八十三だ、現在の生徒数は」
ヴィクトールが顔を出しながら言う。そこには
「うっす~」
「初日から百を超える部員が練習に来たのだが」
「マジ? どだった?」
「ストラム殿やボナリス殿の頭が回らないと心配していたが、どうやら他にも魔法音楽を嗜んでいた生徒はいたようでな。えー……バンド、内で教え合う動きになっている所もある」
「そりゃあいいや!」
どーんと練習室に入る三人。既にルシュドも中にいて、ドラムと睨めっこしている。
「……」
「ルシュド? 本格的な楽器前にしてビビっちまったか?」
「え、あ、あっ!? うー、うーん……」
「弾き方は今から教えるから心配ないのだわー!!」
後に続くは先に話していたボナリスとストラム。各部屋を回っていたのか、汗を流して顔は真っ赤だ。
「皆教えがいのある生徒達ばかりでつい本気を出してしまったのだわー!!」
「僕ちゃんの美しさを布教する前に一日が終わるぅ~」
「さて! では次はこちらの子達ね!」
ドラムの前で立ち尽くしているルシュドの前にやってくるボナリス。
「ボナリスさん、なるべくわかりやすい言葉で教えてあげてくださいね。専門用語使われるとそいつ頭止まってしまうんです」
「わかったのだわー!」
「よ、よろしくです!」
練習に入った二人を置いて、ストラムが机に置いてあった楽譜集を手に取る。
「どうだい我が主よ。楽譜読めた?」
「まあ、ある程度は。音階は理解できました」
「オッケーオッケー。あとはまあ数こなして経験積んでこ。つーわけでこの……バイエル一から十まで、ちょっと弾いててよ」
「はぁ……」
「じゃあボクが見ててやるとしよう。ストラムは何すんの?」
「こいつよ、こいつ」
ずるずると引っ張ってきた滑車付きのキーボード。ヴィクトールが使う予定の物だ。
「ギネヴィア嬢のボイトレよ。先ず順に鍵盤叩いていって、アアアアアーってやつやるよん」
「ふぁい!」
「その意気やよし。でもって実力はどうかなー?」
五分後
「これは酷い」
「これは酷い」
「これは酷いのだわ」
「……ごめん」
「想像以上だった……」
「……何も言わんぞ」
「ねえーーー!!!」
音が外れるのはまあ想定内にしても、リズムが外れていたり、高い音が出なくてうえっふぅと咳き込んだりしていた。
「あーまーうん……これはまだ現状把握しただけだから。今後の練習ではまた変わってくるかもしれない」
「慰めのお言葉どもです……」
「ストラムが可愛く見える酷さであった」
「もうそれ以上言わないでよ!!!」
「本当に上手くなりたいってなら、そうだね。先ずは楽譜通り歌うことを覚えよう」
「でも本当に上手い人って楽譜通りじゃなくても歌えてるじゃん!!」
「それは基本を熟知した上でのアレンジだからだぞ」
「あとそういうこと言うのは下手な奴に限るんだぞ」
「う゛っ」
「とにかく先ずは目標を決めなくっちゃね~~~」
歌唱のバイエル集を開いて、一頁を開いてある歌を指差す。
「『古代文字の遊び歌』。先ずはこれを歌えるようにしようか」
「それって子供向けの童謡じゃん! わたしかっこいいの歌いたいんですけど~~~!!!」
「どんなかっこいいにも下地があるんですぅ~~~!!!」
「ぶえええええええ!!!」
そんなこんなで練習に入るギネヴィアとストラム。残された三人は集まっていく。
「ヴィクトールどうする? 練習するなら別の部屋からボード借りてくる?」
「それはまだいい。その前に今後の計画について訊きたいのだが」
「取り敢えず先ずは学祭目標かなー。そこまである程度練習してもらって、ライブやって認知度アップよ!」
「ではそのように部員には周知させておこうか」
「というか集会ってやるのか? そこで通達すればいいんじゃないのか?」
「んー、やっぱ集会やった方がいいのかなあ。ボク四年だし、先輩も入っているみたいだし、人前に立つの緊張するしで……何となくやる気起きなくてさー」
「そういう理由なら実施した方が良いだろう。規則にはないものの、やはり顔合わせは必要だ。それに入部した生徒の中にはバンドに入れずあぶれてしまっている者もいる。ここで加入先を探させるのもいいだろう」
「確かに! んじゃあやるか、今週末土曜日で!」
「土曜日か、よしよし。日時を空けておこう……」
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