第549話 ぎぃちゃんと試験と魔法音楽部

 色々あって時間は過ぎて、やってきました前期末試験。はじめての経験にギネヴィアは緊張して冷や汗たらり。






(……)


(やばい……)


(めっちゃ勉強したけど、それでも不安だ……!!!)






 ~帝国語~




(えーと、語彙の試験ね。楽勝楽勝)


(……)


(うおおおおおーーー!!! この造形文字『縁』、これで合ってるっけーーーー!!! 左半分が違う気がするーーー!!!)






 ~算術~




(えーと関数関数……片方が増えるともう片方も増える……)


(この関数の係数は……五だなあ……これを代入して……)


(……何でこんな微妙な数にっ!?)


(あ……解答欄間違えてるっ!!)






 ~魔法学総論~




(行使した魔術の結果から魔力結晶の消費量を算出……)


(何で難しい計算問題出てくるにょぉー!?)


(い、いや落ち着け!! この場合は火属性魔法!! 爆破の範囲は確か魔力結晶五グラムに比例するはず!!!)


(落ち着いて落ち着いて計算するのよー!!!)






 ~イングレンス史~




(帝都キャメロットに続くログレス・ロード……建設したのは……)


(……マーカス帝だっけ? バートン帝だっけ? 思い出せない……!)


(し、しかもこれ、年号もある……四択なの!?)


(どれも下二桁しか変わってねえ!! うわーんこの問題は捨てよう……!!)






 ~農学~




(ええとムラサキキャベツ……これは『パープル』ではなく『ムラサキ』……つまりこれは属性がない作物だ)


(まさかの引っ掛け問題……でも作物ってこういうの結構あるんだよね……)


(春苺とか夏苺とかユーリスさんも言ってたし……やばっ、お腹空いてきた)






 ~魔物学~




(……はっ!? うつらうつらしてたら残り時間二十分!?)


(早く回答しないと……!! えーと、アルラウネとドリアードの違い!!)


(……どっちも同じに見えるよぉぉぉぉぉ!!!)











 その他の科目もたっぷり逡巡し、ギネヴィアのはじめての期末試験は終わっていった。








「オツカレサマデス……」

「うわ、オマエくたびれすぎ」

「チカレマシタ……」

「廃人に見えるぞ全く……」



 試験終了後、エリスに断ってやってきたのは魔法音楽部の部室。一階大広間から行ける地下空間である。



「ギネヴィア、珍しい。魔法音楽部、来る」

「ん……ルシュド君。その帽子あなたの?」

「この前買った。キアラ、デート」

「ああ~そうだったんだ。似合うと思うよ!」

「えへへ……」



 アーサー達が荷物を置いている一室に足を踏み入れ、空いていた椅子に座る。






「おやー? バンドメンバーのヴィクトール君はいずこにー?」

「俺がどうした?」

「僕ちゃんのことも噂した!?」

「黙れ」

「あだーっ!!」



 隣の個室に繋がる扉を開いて、入ってきたヴィクトールとストラム。ストラムの方はすぐにアーサーに殴られていた。



「うっわ……やっぱり濃い人だね」

「疲れたら遠慮なく言ってくれよ」

「それについては大丈夫。ただまあ、不思議ではあるかな?」

「不思議? ……ああ」



 ギネヴィアが生きていた千年前は、もっと冷静な人物であったのだろう。



「本当、他の六人は何処にいるんだろうな」

「悪いことはしてないと思うよ。何となくだけど」

「……」


「ところでアーサーは何してるの?」

「ああ、指南書を読んでいたんだ。ベースのな」

「ほう……」





 それは手描きの文字と絵で、色鮮やかに練習のポイントや用語が連ねられていた。





「僕ちゃんお手製のテキストブックだよ!!!」

「お前説明する前にしゃしゃり出るな……」

「だってぇー質問したそうな表情してたんだもん☆」

「ど、どうなの? ちゃんと弾けそう?」

「驚く程的確に弾けるようになった」

「すごっ!?」




          <たのもーなのだわー!






「ん! そのお姿は、誰でしたっけ!」

「ずこー!! ボナリスなのだわー!! というか、貴女と私は初対面なのだわー!!」

「ああーそうでしたー!! ギネヴィアと申しますぎぃちゃんと呼んでくださいー!!」



 床に土下座をしてぺったり頭をつけるギネヴィア。



「そこドリンク零したわさっき」

「んなっ!?」

「嘘だよ」

「酷いよイザーク君!!」



 ぷりぷり怒りながら、愛用のギターの調整を行っているイザークに近付く。



「……」

「カッコイイだろこれ。ボクの自慢の一品だ」

「楽器屋に連れ込んでオーダーメイドで作ってもらいましたわねー! 懐かしいのだわー!」

「ははは、そんなこともあったあった」

「……」



 ボナリスとイザークが笑いながら語らう間も、ギネヴィアはじっとギターを見つめていた。






「……なあギネヴィア」

「はいっ!? 何だしょ!」


「オマエ……前に言われてたよな。練習すれば歌は上手くなれるって」

「う、うん」


「もしかしてさ……それ信じて、魔法音楽部に入りたいって思ってる?」

「……」






 数秒沈黙した後に、




 こくりと頷いた。








「はいーーーーーー入部申請書持ってこいやヴィクトールゥ!!!」

「え゛っちょっ!?」

「了解」

「あ゛っ!?」


「メンバーが増えるには越したことはないぜ!!! 言っとくけどボクらのバンドに入れるからな!!! 身内だし!!!」

「この僕ちゃんがしっかりとボイトレしてあげよう!!!」

「ギターの弾き語りができるとかっこいいのだわー!!! ギターも習うといいのだわー!!!」

「わ、わ、わ!」




 ほんのちょっとの好奇心が大事に発展してしまった。


 でもエリスにわざわざ断ってからここに来た理由は、それを言いたかったからであるのだ。




「よろしくな、ギネヴィア。今後は同じバンドのメンバーとして、だ」

「よろしく、ギネヴィア。おれ、力なる、何でも」

「ほら、申請書だ。早急に必要事項を記入しろ。まあ……世話になる」

「よ、よろしくお願いします!!!」











 ということで入部が決定したギネヴィアは、地下の構造を一通り案内してもらった。


 今はそれも終わって、更に強制帰還時間が近付いてきたのでそろそろ帰ろうとしている所である。




「うい~地上の光ぃ……」

「ちゃんと空気は循環しているとはいえ、やっぱり外の空気は清々しいな」

「夕焼けがぁー綺麗だぁー!」

「ふん……」

「ふふん!」



 男子四人に一人だけ混ざる女子ギネヴィア。傍から見れば華があるように思えるかもしれない。しかし正直実際の所は、そんな華と言えるような女子ではない。






「そういえばさー、みんなは夏休みの予定どうするの?」

「ボクはここに残るよ。帰る理由ねえし。というか残る理由の方ができちゃったし」

「二学期から本格始動だもんな、魔法音楽部。オレのいない間に色々してくれよ」


「それはばっちし! アーサーは実家だろ? つーかギネヴィアも一緒か」

「うん、そうなるね。去年は色々あって実家帰れてなかったからね~」

「一昨年も臨海遠征で帰ってなかったぞ。夏に帰省するのは実に二年ぶりだ」

「エリシアさんの美味しいご飯をこの身で味わえると思うとわたくしワクワクしてきます……!!」




 そんな会話の横で、濃い橙色に染まる空を見て、物思いに耽っているルシュド。




「ルシュド君はどうする予定なの?」

「……」


「ルシュド君?」

「……ん、ああ。えっと、何?」

「夏休みの予定!」

「夏休み。おれ、帰る、実家。ラグナル」


「姉ちゃんに会うのか?」

「うん。他にも、色々と」

「そっか! 楽しんできてね!」

「勿論、楽しむ」




 だんだんと塔に戻る道へと差しかかる。




「ヴィクトール君は実家帰るの?」

「当たり前だろう。父上に近況報告もせねばならん」

「この前のはカウントされねーのか?」

「あれは緊急の用事故例外だ」

「ちゃんとわたし達のことも言っておいてよ!」

「それは当然だ」

「ふっふーん!」




 盛夏への期待を胸にして。五人は今日も学業を終え、薔薇の塔まで戻ってきたのであった。











「……違えよ!! オマエ女子だろ!! 百合の塔だろ!!」

「やっば素でこっち来てたわ!!」

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