第506話 魔物学フィールドワーク

 さてさて、課外活動に貢献活動に明け暮れて、五月も半分過ぎまして。魔物学の授業ではフィールドワークの話が持ち出されていた所であります。






「課題の魔物について実践データを得てくるのか……」

「そうそう、魔物は実際に見て戦わないとわからないことが多いからな」





 魔物学は今後一生のお付き合いをしていくであろう存在、魔物についてより深く学んでいく学問。故に取りたいのがないなら取り敢えず選んどけと上げられる科目の筆頭である。



 そういうわけで人数が非常に多い。教室の壁を取り払って二つ分使っても足りない。ぎゅうぎゅうの閉塞感の下説明を聞いている。





「これ第三階層でやるんですか? 確か研究用の魔物を飼育している牧場があったと思いますけど」

「いや、名前忘れちゃったけどログレスの村に行って、そこを拠点に調査を行ってもらう」





 説明を続けるのは担当教師のヘルマン。担任でこそないが見知った人物である。ナイトメアのサタ子も今日は一緒だ。



 エリス、アーサー、カタリナ、イザーク、ギネヴィア。四年一組の五人は同じ時間に授業を選択し、そして集まっていた。





「じゃあまた船に乗って行くんですか」

「コストがかかり過ぎるからそんなことはしない。転移魔法陣を使うんだ」

「おお、上級生区画にあるあれですね」


「そうそうあれだ。魔法学園と契約を結んだ各地域に、一週間から一ヶ月の滞在、娯楽ではない調査を行うという条件の下、転移を行える魔法陣を設置させてもらっている。因みに七年生とかだと自分の魔法でばひゅーっと飛んでいくぞ」

「先輩すげえ」

「……!」



 何かを思い出したサタ子が、黒板に文字をすらすら書いていく。



「そうだなサタ子、長期の調査にあたって他の授業はどうなるか説明しないとな。学外調査申請書というのがあるから、それを書いて担任に提出。双華の塔の職員経由でもいいぞ。すると担当教員から課題が出されるからそれをこなすってわけだ」


「こういった事情もあって申請書は三日前には出さないといけない。そして今回のフィールドワークは来週の月曜から三日かけて行う」

「じゃあ締め切りは……今週末? 今すぐ出さないといけないじゃないですか!」

「授業終わったらすぐに記入しに行くんだ!」

「何という過密スケジュール……!」



 粗方説明も終わった所で、手渡された魔物一覧に視線を落とす。



「今やることはグループ作成だ。四人から六人程度のグループ作ってもらって、どの魔物について調査するか俺に伝えてくれ。そのグループ単位で成績付けるからな」

「臨海遠征の時と同じ感じですね」

「あれは予行演習も兼ねているからな。それじゃあ、始め!」






 他の生徒がぞろぞろと動く中、エリス達は固まって話し出す。



「ボクらこの面子でいいよな」

「ああ」

「四年にもなると固定してくるよね」

「どうせなら見知った顔と調査とかしたいよね」

「わたしは誰でもいいけどね」

「ギネヴィアはねーそうだよねぇ」



 一覧には手頃な魔物がリストアップされており、自分達でも相手取れそうな物から、少し気張らないと難しそうな物まで。



「どれにしようかな」

「上に行けば行く程手強い」

「しかし成績も加算される」

「悩み所だぁ」

「んー……まだ初回だし、お手柔らかに行きたいよねえ」

「じゃあ……この辺?」



 エリスが指差したのはアルミラージ。一角が生えた兎で、基本的に群れて獰猛。



「アルミラージは……夜間調査だって。夜になると活性化するからその様子を調べてくれば加算。但し昼間のみの調査でも可能」

「でも折角だから夜に調べようぜ」

「イザーク、言うだけ言って前線出ないの無しだからな」

「ん゛ぐっ」

「お前の事前準備は武術の訓練だな……」











 こうしてフィールドワークの手続きも終わっていき――




 続きましては割と現実的な準備。








「着替え、歯ブラシ、コップ、薄荷粉、筆記用具、ノート、そして……おやつ」

「たぴおか入れよう」

「無理です」


「行き先にタピオカ屋があるの祈るしかないね……」

「さ、最悪、み、三日もたぴおかロスになるの……!!!」

「いい機会よ、慣れておきなさ~い?」



 エリス、カタリナ、ギネヴィアの四年一組ーずだけでなく、クラリアとサラもフィールドワークの準備に追われていた。リーシャだけはのんべんだらりとベッドに転がっている。



「フィールドワークの日程は同じだけど、行き先が違うんだっけ?」

「ワタシのクラスはレイズ村にお世話になることになってねえ」

「え、まじで。魔物研究の最前線じゃん」

「こっちの編成は貴族の生徒が多いから、それでコネでも使ったんじゃない? 知らないけど」


「アタシはサラとヴィクトールと一緒のグループだぜー!」

「あ、そうだったの。あとリーシャは準備しなくていいの」

「私の日程来週木曜日からだからさー。まだ余裕あるっちゃある」

「直前になって慌てるやーつ」








 荷物の整理が終わったら、あとは他の授業の課題を纏めよう。








「……帝国語の課題多すぎる件」

「語彙がなければレポートは書けん」

「うるせえよ!!」



 男子達五人も同様に、フィールドワークの準備を行っていた。アーサーとイザーク、ルシュドとハンス、ヴィクトールでそれぞれ違うグループだ。



「ヴィクトールお前誰とグループなわけ?」

「クラリアとサラ」

「……」


「その顔ぼくにも向けていなかったかてめえ」

「ボクはオマエらのような貴族連中が女子生徒と絡んでしどろもどろしてるのを期待してるの!!!」

「言ったなこいつ」

「でも、おれ、ハンス、一緒。女子、いる」

「マジかよぉ!」

「おれ、誘った。一人ぼっち、だめ」

「成程ぬぇ~」



 二人で課題を確認しながら、忘れ物がないように。



「……」

「何だよアーサー。ボクの課題なんて見てもつまらねーだろ」

「いや……経済学。難しいことやってるなあって」

「まあねえ~」



 口笛を吹きつつ鞄に入れる。



「んじゃあオマエの課題も見せろよ。農学!」

「ほら」

「うひょー……わからん!」

「家が農家だと案外直感でわかるものだぞ。まあ……経済とか経営も、そうなんだろうが」

「人生なんてそんなもんさ~」








 この後も出された課題を前持って終わらせたり、図書室等で対象の魔物について事前調査を行ったりしていると、時間はあっという間に過ぎていく。

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