第489話 新生生徒会はアストレアを添えて

「というわけでパーシー先輩一丁お待ちーぃ」

「お帰りリリアン」       ブゥン




 生徒会室に戻ってきた面々を、出迎えたのはアッシュとヴァン。リリアンとアストレアのナイトメアである。


 とんがり帽子のアッシュはすぐにリリアンの頭に飛び乗り、鞘のヴァンは空中に留まりながらくるくる回る。




「おっとよしよしこいつってやつは~」

「んへへぇ」


「す、凄いだです……」

「ナイトメアだからな。今は嬉しさを表しているぞ」

「意外とお茶目さん?」

「そして極稀に喋る」

「へえ、気になります」

「本人の気分が非常に高揚している時でないといけないけどな。その条件は私もよくわかっていないよ」



 側に立て掛けてあった剣に自分から収まるヴァン。アストレアはそれを腰に帯刀した。






「で、件の魔法具ってどれだ。天才の俺にしか直せないような魔法具はどれだうずうず」

「何でそわそわしているのですか」

「そんなことはないぞうずうず」

「こちらでございますわー!」



 アザーリアが生徒会室の奥から、縦に長い格子の付いた物体を台車で引っ張ってくる。



「こいつは魔術空調じゃねえか。あー……魔力回路の破損か?」

「凄い! 一目見ただけで何処に不調を来しているのかわかるのですね!」

「俺ぐらいになるとな~~~~~???? よし見てやろう!」




 ソロネを呼び出し、二人がかりで作業に取り組み出すパーシー。




「ヴィクトール君、マイク君! パーシー先輩見てないで、私達の仕事するよ!」

「は、はいですだ!」

「そうしますか」











 生徒会は魔法学園の顔。つまり生徒会が何やかんやした結果の印象が、そのまま魔法学園の印象になる。




 現在のグレイスウィル魔法学園の印象は混沌を極めている。聖教会やキャメロットに掻き回されたことにより、生徒数は減少し士気もそれ程高くはない。このままでは破壊された後の荒れ地のような雰囲気を引っ張り続けて、学業にも支障を来してしまう。もうとっくに来している部分はあるっちゃあるが。




 そこで求められるは印象改革。どうにかして学園のことを外に情報発信し、前向きに頑張っている生徒がいることのアピール、ついでに新入生募集に繋げられるように奮闘中。




 その一環として行っているのが――






「学園パンフレットの製作……」




 ヴィクトールが手にしたのはそれの構成図。上半分には校舎の絵、下半分を二つに分けた左側には現生徒会長のコメント、右側には美味しい購買部のメニューでも載せようかという話になっている。






「生徒が自分達の魔法学園の良い所を説明するの! 実際通っている張本人達だから説得力もあるでしょ?」

「よくこの意見が通りましただです」

「先生方もそんなのに手をかけてられない状況だったようだ。実際生徒ができることは生徒に任せようという意見も出ていた」

「それに、ロシェだってどっかで見てるかもしれない! だからアピールはしておかないとね!」

「……」



 無理をしているのか、本心でそう思っているのか。


 ヴィクトールにはどうにも理解できなかった。






「ふむ……」




 生徒会の人数も半分程に落ち込んだ。しかしヴィクトールとしては、サボっている生徒が目に見えて減ったのでこれはこれで良いと思っている。




「先輩、ヴィクトール先輩」

「何だ」

「生徒会長の他にも、色んな生徒会役員から一言貰うようだです」

「そうか」

「ヴィクトール先輩もそのリストに入ってるだです」

「そうか」




「……おい。俺にそのようなことはできんぞ」






 馬鹿抜かせー、と顔を覗かせてきたのは三白眼でお馴染みクオーク。




「ヴィクトール、お前四年の中じゃ有望株だからな。一番頭良くて責任感強いってことになってるからな」

「何だそれは……」

「実際武術戦で立案の中心になってたじゃねーか」

「それは……まあ」

「文章考えるのが苦手なら僕らも手伝おうかっ」

「結構です。お手を煩わせるわけには」





 クオークの隣には友人のガゼル、更に隣にはシャゼムもいた。ガゼルが所属する新聞部と生徒会が共同し、より学園が盛り上がっていくような記事を作ろうという話になっていたのだ。シャゼムは友人付き合いの延長で、要はただの付き添いである。





「そうだヴィクトール君、訊きたいことが」

「何でしょうかガゼル先輩」

「君がよくつるんでいる友達……アーサーのことなんだけど」

「彼奴がどうかしましたか?」

「元気してる?」

「元気……とは」


「えー……病気とか怪我とかしてない? 精神病んでない? 何か隠し事はしてなさそう?」

「はぁ……そのようなことは一切ございませんが」

「そっか。サンキュゥ」





 ガゼルは顔を引っ込め、記事の作成に戻っていく。シャゼムが聞こえないように耳打ちした。





「……ガゼル。お前最近ずっとアーサーのこと気にしてるよな」

「ん?」

「事ある度にどうしてっかなーって呟いてるじゃん」

「ああ……まあね」


「そこまで気にするとなると、スクープか?」

「そうそう、スクープ。ほら、先の戦闘における噂さ」

「あいつがすげー鎧着て出てきたってやつだろ? あれ城下でも結構話題になってるからなあ」

「たった一瞬だけだったのに、そこまで鮮烈な印象を残すだなんて……本当やるよね、彼」








 ここでガラガラと扉が開かれ、教師が数人入ってくる。






「失礼し……まっ!!!」

「わあっ、ディレオ先生! 扉引っかかってます!」

「ちょ、ちょっとそっちから引っ張ってくれないかな……!?」

「はいー!」




 どっかんっ




 と扉が軋む音を盛大に立てて、魔法具が十数台ご入室。






「わぁ。これ全部魔術空調ですか」

「全部だ全部。特に直せそうなのを持ってきたが……」



 ニースとミーガンも一緒になって入る。丁度修理を終えたパーシーが顔を出してきた。



「おっほーこいつはひでぇや……」

「単に外部からの衝撃だけではなくてぇ、酷使によって魔力回路がパンクしたのもありますからねぇ」

「あいつらガンガン空調回してたからな……」

「んー……これ生徒会で捌けるかなあ。今これ見てもいいよって奴、手上げてみ?」



 六つぐらい上がった。



「労力が足りないです」

「なら魔術研究部に依頼しますかぁ?」

「パンジャンにされて返ってきますよ」

「お前な☆」

「先生方もこちらをどうぞー!」




 アザーリアが奥からすっ飛んでくる。手には両手で抱えられる大きさの箱が掴まれていた。




「これはこれはクロテッドクリームですねぇ」

「スコーンはプレーンか。あ~美味い~」

「ささっ、皆様もどうぞどうぞ!」

「アザーリア先輩はいいんだですか?」

「既に五箱食しましたので!」

「いつも通りだぁ……」






「うーし……まあ俺で見れる範囲で頑張ってみます。ただそうですね、流石にですね、これ全部やるっていうならですね、これがですね」




 親指と人差し指で円を作って露骨にちらつかせるパーシー。




「……出ると思うよ、報酬。学園長に掛け合ってみよう」

「お願いしまーす!!!」

「途端に元気になりましたね」

「人間金と食無しでは生きていけんのでなぁーッ!!! さてやろう!!! ソロネ!!!」

「!」






 穏やかに、されどせわしなく。生徒会の充実した放課後は、あっという間に過ぎていく。

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