第488話 課外活動日和・後編
「というわけで今年の文芸部は……」
「遂に!!! 文集を出します!!!」
わーとやる気があるのかないのかわからない声が上がる。
普段使用している空き教室。文芸部総員五十名ぐらいが集結させられた。
盛り上がる先輩達を裏目に、サラ、サネット、ジャミル、ラディウスの四人はひっそり語らう。
「……ワタシ創作畑じゃないのだけどねえ」
「畑は畑でも園芸部の畑耕してますもんねえ」
「上手すぎてムカつく」
「サネットさんはそういうの得意なイメージありますけど」
「オクサレ一族舐めんじゃねーですぞぉ!?」
「うわ、腐敗臭」
「でー何を作りますかとぉ!!!」
部長が黒板に大きく、『詩』の一文字を書く。
「詩集ですか」
「詩集です!! 皆に詩を作ってもらいます!!」
「テーマとかは決まってる感じですか!!」
「春とか夏とか植物とか街とかそういうので行こうかと!!」
「成程!!」
そんなもんかと納得しているうちに――
時計の針が午後五時半を指す。そろそろ行かないと不味い生徒がいる。
「では僕達時間になりましたので……」
「ん、園芸部組か! 行ってらっしゃい!」
「失礼しました」
「お疲れ様でーす!」
「後で僕が連絡するからねー」
園芸部。こちらでは早々に集会を切り上げた後、土の手入れが行われていた。
先の戦闘ではとうとう硝子が壊れ、中の植物達に甚大な被害が及んでしまっていたのである。瓦礫を撤去できても、環境を再構築するのは非常に時間がかかる。
「……臭いです……」
「三分前にも言ってましたねえ」
「でもぉ……」
「貴女が一年生の時からサボり気味だったのは知っているんですよ。ほら、手を動かしてください?」
「うう……」
ノーラもすっかり七年生になり、鶴の一声で後輩達を動かすことができるようになっていた。適度に檄を飛ばし適度に励ましながら、土を耕す作業を進めていく。
「あ……誰か来ますよ」
「おっとどれどれあれはサラと愉快な仲間達!」
監視を任せたヒヨリンをその場に置いて、三人を迎えに行く。
そして本日の活動について説明した後、作業場所に誘うのであった。
「……今日もこの作業かい」
「土がないと作物は育たないですからねえ。せめて自分のプランターの分だけでもちゃちゃっと終わらせちゃってください」
「よし……」
作業服に着替えた三人は、ノーラの指示に従い、適当に土をプランターによそい――
力を込めて手を突っ込む。
「魔力醸成……だっけ」
「そうですそうです。土や葉を一纏めにして、バラバラな魔力を増幅させる作業。普段は職人さんがやってくれますがねえ」
「今の園芸部にそんな余裕ないもんですね。あー……空調も粉々に砕けちゃって」
「折角皆のお小遣いを貯めて買ったのに……」
「でも今回は災害に近いということもあって、学園から修理代が下りるらしいですよ」
「へえーやるじゃないの」
ふと隣を見ると、ジャミルが貧血症状を見せてふらふら倒れようとしていた。
「ちょっと何してるのよアナタ」
「う……す、すみません。魔力、込めすぎてしまいました……」
「はぁ……全く。補給剤貰ってきましょうか?」
「ええと……これは少し休憩したら治ると思います。ので」
「はいはい、そこのベンチね」
ジャミルが失礼しますと立ち上がった後、彼が醸成していた土を覗き込むサラ。
「んー、潤沢。結構気合入れてやったのね」
「その、薬草学でもあるじゃないですか。栽培実習」
「ああ……あったわねえ」
「その勉強になるかなって思って、つい」
「そういうことね……なら、ワタシもちょっと張り切ってみようかしら」
「先輩の動きパクらせてください!!」
「こういうのなら一向にいいわよ」
「ふふ、サラが先輩やってる。微笑ましいですね~」
ノーラの一言に顔を赤らめるサラであった。
「できました」
「はい」
「名前を言います」
「どうぞ」
「大行進マッスルパンジャンです」
ちゅどーん
「……違うよー!!! 顧客が求めていたものはこれじゃないよー!!! 信じて送り出した魔法具が何でクソ兵器に魔改造されて返ってくるにょおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
憤慨するは武術部と生徒会を兼任している、ややぼさぼさした頭のユージオ。彼の眼前には、筋骨隆々なパーツを取り付けられたパンジャンドラムが異様な存在感を放っていた。
殴り飛ばされて壁にめり込んだパーシーをひっぺがすのはマイク。終始傍観者に徹していたヴィクトールの後ろから、演劇部の演出担当でもあるマチルダが顔を出す。
「なんつって、冗談だよ冗談。お申し付けされた商品はこちらにあるよ」
「何で冗談言う必要があったんですか!?」
「パーシー先輩が見せたいって言うもんだからさ~。にゃっはっは!」
マチルダの後ろには、先の戦闘--以前にやってきた聖教会やキャメロットの連中により、ボコボコにされた大行進マッスルキングダムの数々。
その幾つかが修理されて置かれてあった。
「まだ全部はできてないけどね。ちょこちょこ納品していくスタイルにしていこうって」
「いやあ、それでも十分助かるよ。これチャールズさん監修だから、宮廷魔術師じゃないと直せないかなって思ってたのに……うん完璧だ、一糸乱れぬ元通り!」
「だから言ったろー!? 魔術研究部舐めんじゃねーぞ!? 兵器の研究だけじゃなくってこういう実用的なこともやれるんだからなー!?」
「一体いつ誰が言ったんだです……?」
「そして兵器の研究をしているという印象を植え付けたのは、大体パーシー先輩の所為だと思います」
「俺はロマンを追求しているだけですー!!!」
やっとこさ起き上がったパーシー、再びユージオに蹴りを入れられる。
「あだぁ!!! 俺何かしたー!?」
「いえ、何となく灸を据えておこうと。じゃあ直ったの……二個か。持っていくぞー」
「はいはいー。あ、持ち出し履歴はこっち書いておくねー」
「恩に着るー」
「一応言っておくとそれ直したの俺の功績だからな!!! ちゃんと伝えろよー!?」
はいはーいと返事をして去っていくユージオ。
それを見送った後、パーシーは神妙な顔になる。
「……正直気は進まなかったんだがな。俺に残された時間は一年を切った。学生として振る舞い、興味を探求できる時間が……」
「ああ……先輩、七年生ですもんね」
「卒業研究は何を行うんだですか? やはりパンジャン?」
「いや、普通に魔術研究だ」
「予想外だです」
「パンジャンは構造を分析して実物を造り出し、そして爆発させるまでが研究だからな。卒業研究で論文を出した程度じゃ終われない」
「やっぱり予想通りだっただです」
「みゃー、先輩がそうならあたしも卒業研究のテーマ見直さないと。舞台における効率的な演出について研究しようと思ってたのに」
「それは……有用だと思います。パンジャンに比べればずっと」
「ヴィクトールゥー!!!」
憤慨している所に、
扉が開かれ、顔を覗かせる人物が。
「……よっと! やってる!?」
「やってますだ!」
「酒場か何かかここは」
「お前は……五年の転入生のアストレアだな!」
ぴょいっと飛び起き、すたすた歩いて歓迎に向かう。
「七年のパーシーだ! またの名をパンジャンドラムの化身だ!」
「後半は忘れていいからねアストレア!」
「リリアーン!!」
「あ、ああ」
「困惑しているだです……あ、おらはマイクって言うだです。三年生だです」
「ヴィクトール・ブラン・フェルグス。四年です」
「魔術研究部と演劇部掛け持ちしているマチルダです~。てかリリアンと一緒ってことはさ、生徒会だよね?」
「そうだな。今リリアンに学園の設備を案内してもらっていた所だ」
「ふぅん……」
マチルダはそれとなく部屋の掃除を始める。魔法具を片っ端から棚に入れていく。
「てかヴィクトールとマイクさ、パーシー先輩の回収に来たんじゃなかったんだっけ」
「ああそうだった。すっかり忘れていたよ」
「ん!? 俺何も訊いてないぞ!?」
「時間がない……と申し上げていた所すみませんが。生徒会でも見て欲しい魔法具がありまして」
「そうか……そうか。なら行くしかないな! 何、時間がないつってもまだ四月だ! どうにでもぉーなる!!」
「それ最終的に時間がなくなるやーつ」
ヴィクトール、マイク、パーシーは荷物を纏め、移動の準備をする。
「では私達と一緒に戻ろうか。丁度一周回った所だし」
「ごーごー!」
「れっつごー!」
「れっつごーだです!」
「……ごー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます