第450話 終盤戦・その三

「ふぅぅぅぅぅぅ!!!」


          ――


「……こりゃあいい!! さっきよりも断然戦いやすくなってる!!」

「よくわかんねえけど俺は最あああああああああ!!!」



      ・  ……  ・’$()&()&



「ふんっ!! ……全く、油断しないでよね!?」

「悪いな! えーと、グリモワール!」

「あら、名前覚えてくれて嬉しいわ!」



     ?*<_<‘()&)&)&’#%$!






「ほらー!! 調子乗ってないで行くぞー!!」








 大きさは強さに直結する。触手の精度と速度が、普通の個体よりも正確で速い。




 ケビンの支援魔法がなければ易々と回避することはできなかったかもしれない。








「ケビン先生! お疲れ様です!!」

「おお、学園長! 勝手に動いてしまって申し訳ありませんっ!!」

「いや!! こうして再び合流できたんなら何よりだ!!」



 フォンティーヌを華麗に乗りこなし、空中から火炎で包み上げるアドルフ。


 焼け苦しむ隙をルドミリアとキャメロンの魔弾が狙う。



「ちっ……耐久力が高いな!?」

「何か隕石落としたら死んだって話を聞いたんだけどなー!?」

「その時は集中砲火でもしたんじゃないですか!?」





 ふと校舎に視線を向けると、聖教会とキャメロット、更にはこの化物を解き放ったカムランの魔術師も揃って、八人を応援している姿が目に入る。





「……あああああああ……!!」

「トレック、イライラすんのはわかるが、それは後で思いっ切り晴らそうぜ?」

「お前に!! 言われなくても!! そのつもりだーーー!!」





 トレックは氷の台を踏み台にし、氷柱を樹木の化物の天辺にある穴にぶち込む。



 冷えた所を炎を纏った剣でシルヴァが斬り付ける。傷はなくても温度差が弱らせていく。








「    ’$%”)’        …」








「……うっし! 先ずは一体!」

「シルヴァ様こちらにー! 回復致しますよー!」

「お頼み申すー!」



 ガレアの元に向かい、淡い光が包み込む形式の回復魔法を受けるシルヴァ。



「……な、何だこれええええええ!?」

「凄いでしょ!! 超回復してる感じあるでしょ!!」

「君凄いね!? こんな魔法使えたの!?」

「僕もさっき知ったんですよ!! こんな魔法使えたんだって!!」



       。¥:。」。」:”$’”



「「あっ――」」




・・・・’%’”()%’O$”


               「させないわっ!」






        バシュッ




                 ばららららら







「……すっげえ」

「魔法糸結界……君も中々の上玉だなー!?」

「お褒めの言葉どうも、チュッ♪」



 ウインクと投げキッスを送ったグリモワールの後ろから、トレックがせかせかとやってくる。



「おいずるいぞ、僕にも回復魔法を使え」

「勿論そのおつもりでぇ!」

「というかちゃっかり何処に行ってたの?」

「校舎に入ってローザとアルシェスに声をかけてきた。中に生徒がまだ残っているらしくてな、それの保護を頼んだんだ」

「あーそれもあるんだなあ。ならあまり悠長にやってられないか……」






 ふと化物の方を見ると、アドルフとルドミリア、ケビンとラニキがそれぞれ一体ずつ仕留めている所だった。






「残りは何体に見える?」

「五体」

「よーしよしよし、多分このペースなら行けるっしょー!」



     どどどどどどっどどど




          どぉぉぉぉぉぉぉぉぉん




「……今度は何処から!?」

「校門の向こう……中央広場かな!?」

「また何か奥の手を隠していたか……騎士達が無事だといいが……」

「祈る暇あったら、さっさとこいつら潰して合流すっぺ!」


「そうだな! 行くぞ!!」

「ふふ、威勢のいいおチビちゃんね!」

「ちょおま「ああああああああああああーーーー!!!」
















「……父さん! 大丈夫!?」





 通りの片隅で潜伏していたアストレアは、ウィングレー家の魔術師と共に上がってきた父親の姿を見て、我先に向かう。





「ああ、アストレア。父さんは……うぐっ」

「包帯……! 何処か怪我したの!?」

「ちょっと瓦礫が刺さってね……何、これぐらいどうってことはない」

「父さんは魔術師なんだから、体力はそんなにないんだから、無理しないでよ!?」


「ふっ、そうするよ……そうだ。向こうでリリアンちゃんを見かけたよ」

「えっ!?」

「お前のことを探していた……早く顔を見せてあげるといい」

「うん……!!」






 彼が指を差した方向に、駆け出していくアストレア。



 父は暫くその背中を見守っていた。








「……ん。マーロン殿、お疲れ様です」




 同様に第四階層から昇ってきていた、自分の今の上司に声をかける。






「……ああ、ダルク殿! ご無事ですか!」

「ええ、何とか。マーロン殿は第四階層に出ていていいのです?」

「下はそろそろ落ち着いてきました。今は少しでも上層に加勢をしようと……」


   ギアアアアアアアアアアアアアアアア!!!




「……ぐっ」

「腹にくる叫び……」

「……マーロン殿。前方を……!」

「えっ……」
















   グアアアアアアアアアアアアア

ギャアアアアアアアアアア!!!

 いやだ……いやだ……

     オオオオオオ

    オオォォォォォォォォォゥゥゥゥゥゥゥ……

                 母さん……何処だぁ……?

 ィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!!!!!!

   あづい……あづいよ……











「これは……」


「いよいよ持って、正念場だなぁ……!?」






 思わず舌を舐めずってしまうアルベルト。隣に立つカイルとダグラスも、一歩だけ後に引きながらそれと対峙する。






「カムランの化物……キャメロットの人間もどき……」

「聖教会も何かしてくるだろうという団長の予測、当たってしまいましたね……!!」






 ここは聖教会本部の前。増援を削ぐべく徐々に防衛線を上げ、遂に本部である建物の前まで迫ってきていた。



 さて中を制圧してやろうかという案も出る中、それは出てきた。






「……ウェンディとか後方に配置しておいて正解だったかもな」

「ええ……これは、到底人の精神で耐え得るモノではない」



             足は獣の四足歩行。


        図体も一般的な猛獣のそれ。


      しかし普通と認識できるのはそこまで。



           溶け落ちそうでありながら、


奇跡とも形容できるバランスで

          維持できている上半身。






     そこに浮かんでいるのは大量の頭である。



    犬、猫、ゴブリン、オーガ、ハーピー、狼、



          雑多な顔が沈むその中に、




口を動かす人の顔もあった。






獣であることを証明する雄叫びと共に



       人であることを証明する悲鳴も上がる








「って何だよ、精神で耐え得るモノではないってー!? 地上階には一般人も住んでるんだぞ!?」

「だからレーラやユンネが避難を徹底させて、その余波で地下がパンクしそうって話だろー!?」

「ああ――ああ!! 今思い出しました! 最初は生徒の反抗から始まったんですよね、これ!!」


「それがどうしてアルブリアを包み込む大戦火になってるのかなー!?」

「どんな大きさだろうが、一度燃え上がったんなら静めるのが俺達騎士だ!! そうだろ!?」

「はい!」

「その通りです!」

「よっしゃ行くぞ――上からの指示が出次第な!!!」
















「……何とかここまで来れたか」

「そうっすねー」


「……パーシー、いい加減機嫌を直せ」

「そうっすねー」


「人の話を聞け」

「そうっすいでえ」


「全く……いや、君の気持ちは十二分にわかる。ただ何をするかわかったものではないからな?」

「わかってますよぉ。でも……ああ。魂が疼く。あの口にこのマーマイト爆弾を……」



 <うおおおおおおおい!!!

 <無事ですかー!!!



「……ほら、知り合いも来たんだ。気を取り直せ」

「はぁいっと!」








 王立図書館前の大通り。カル、パーシー、ヒルメ、ノーラの四人はそこで合流した。






「ぶっへへえ」

「到着したらすぐに倒れたな」

「……ヒルメ、双華の塔で何かあったのか?」

「もうやっべーバケモノが襲ってきてあぎゃぱーんよ」


「え? やっべーバケモノってあの口開けた木みたいなのでしょ? 後方基地にも来てたの?」

「来ちゃったんですよぉ。お陰で私達の生活拠点が大惨事ですよぉ。片付ける人の気持ちも考えてほしいものですねえ」

「うーんそういうことなら二人にもマーマイト爆弾あげときゃよかった……」

「今の発言の意図は」

「いや、あのでっかい口にぶち込んだらどうなるのかなーって」

「それだから魔術研究部って言われるんですよ?」








       アアアアアアアアアアアアアアアアっぎゅアアアアアアアアアアアアアアアア……!!!








「……この声は?」

「広場から!?」

「……」


「……カル? どうした?」






 しかし彼は返事をする前に、一目散に駆け出す。






「あっ! 待ってください、何があったかわかったもんじゃ……!」

「もう追いかけるしかねえべ!?」

「待てー!! 散々俺を縛っておいてそれはないぞお前ー!?」
















「ぐおおおおおおおおおおーーーーー……」



        ……り、り……



「……やっぱきついわ!!!」



    ウアアアアアアアアアアア……!!!








 中央広場で逃げ惑う多くの人々。



 彼らを背にするようにして、マイケルはオリジンもどきの触手生命体を発現させていた。






「おんどりゃー!! 隙ありー!!」



        ぁ……ゃぁ……



「うわっ!? ちょっと、尻尾がー!?!?」



     ピギャアアアアアアアアアアアアア!!!








 何とかオリジンもどきの機械の兎に受け止めてもらい、直撃は免れたマチルダ。






「一般の方々は避難させましたわー!!」

「まあ僕らも一般の方々に入る部類ではあるんだけどねー」

「何を言うか!! 俺達はグレイスウィルが誇る精鋭、演劇部の一員だろー!?」

「いつ誰がどのようにして誇ったんだよ」



 アザーリア、ラディウス、ダレンを迎え入れ、



 噴水を挟んで、騎士達の防衛線を潜り抜けたそれと対峙する。






「……きっつい見た目してるなあ」

「アラトくん覚醒形態エセオリジンの方がマシだと思う日が来るとは思わんかった」






 全長は二・五メートル程。こうして抜け出してこれたのはその小ささ故か。最も小さいとは言っても、他のそれらと比べてになるのだが。


             し……しぃ……


 四足歩行に棘が生え切った四肢。崩れ落ちそうな肉体は凍り付き、肉体から噴き出す冷気が目に見える。飛び出した魔物の頭は嬉しくない選り取り見取り。しかしそれよりも目を引く人の頭。



            し……や……






 男と女の顔が一つずつ。更に胸糞が悪いことに、人体の一部が表出して張り付いている。



 その配置はまるで、



 男女のの様にも見えて、思えて、感じられて。






           ぁ……し……り……






キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!











「……くっ……!!」



 カルがその場に到着した時には、既に戦闘が始まっていた。


 生徒と思われる少年少女が、器用な連携の元にそれを相手取っている。




 しかし、それに参戦するのがどうにも躊躇われて――




「……もう敵意しかないというのか?」


「戦って――どちらかが殺すまで、終わらないと言うのか――?」



     カルゥー!!!





「……ああ、三人共……」

「う、後ろー!!!」

「――!」






 カルが振り向き、それからの回避行動を取る前に、



 ダレンが剣を片手に割り込み弾き飛ばす。








「……無事ですか!! えーと、名前も知らない誰か!!」



    ぁ……ああ……



                し……あ……



「……礼を言う。それと訊かせてくれ、君はあれをどうするつもりだ?」

「どうって……倒すしかないでしょう! 戦闘態勢に入っている五人でこれだ、一般の人に攻撃を仕掛け出したらどうなるか……!」



       し……しし……



                りりりり……






         りいしあ








「きゃああああああーーー!!!」








「……!! アザーリア!!」

「――絶対零度よ、我が身に来たれ!!!」






 それが突き出した触手に足を取られたアザーリア。



 化物は彼女が無防備になった所を仕留めようとしたが、



 ダレンよりも早いカルの氷が割り込む。








「……!!」

「今なら……!!」




 そのまま地面を凍らせ、滑るように移動し、



 そしてアザーリアを庇うようにして立つが--






(……いや)




            ……




(何ができる……?)


            い……




(もう姿形は化物のそれになってしまった)


(理性だって……! 保てているかどうかわからない……!)




            お……




(俺が話してどうにかなるのか?)


(これに納得してもらったって、これの持ち主――)


(聖教会の連中は――!!!)




            に……





        におい……








「……え?」








 その言葉の意味を、カルが訊く前に、



 人と魔物、動物を混ぜ込まれたその化物は、



 千鳥足で何処かに去っていった。








「……」






「……アザーリア!! 無事かい!!」

「いやーお兄さんありがと!! お兄さんがいなかったら危なかった!!」

「これは借りだぜって言おうとしたら速攻で返されたぜ!!」

「あいつ、完全に敵意を失ってる様子だったけど……何もないといいなあ」




「カルー!! お前どういうつもりなんだー!?」

「お、おい? お前もウチみたいに倒れ込むのかよ?」

「どうしたんですか、本当に……?」






 演劇部の生徒達をよそに、友人達に囲まれ、


 先程の化物の姿を回想する。






 ほんの僅かに同じ魔力を感じていた。


 近付いてそれは確信に変わった。


 男の顔にも面影があったかもしれない。




 けれども女の顔は、確かにその通りだった。


 近くで見れば見る程、その顔は――








 リーシャに瓜二つであったのだ

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