第451話 終盤戦・その四

「ほっ!!!」


                「やっ!!!」



        「ムゥーーーン!!!」




   図体のでかい化物共の間を潜り抜け――



   毒を塗った短剣でちまちま突き刺すデューイ。



   どの毒が効くのかわからないので、



   医療班から渡されたものを適当に、



   片っ端から試している状態だ。








「……オヨ!? コイツは効いたかナ!?」

「何の毒だ!?」

「ワライタケ!」

「はぁ!?」


「色々混ざってるみたいだかラ、変な所に穴が空いてるんじゃないかナァ~!?」

「その可能性……あるなぁ!!!」






 アルベルトは辛くもワライタケの毒が入った瓶を見つけ、放り投げる。








「もういっそ直接ブチ当てた方が早いカァ――?」

「なら私がやってやろーか!?」






 デューイと同じかそれ以下の身長の傭兵、エマとナイトメアのセオドアが器用に飛び交ってきた。






「オオ、その小さいカラダに悪い口の利き方! 確かマットとイーサンの姉御!」

「何だあの二人の知り合いか!! だったら話は早いや!! 寄越せ!!」

「アイヨー!!」

「げひゃひゃひゃひゃ! 行きますぜご主人!!!」




 デューイから小瓶を受け取った彼女は――



 そのままオークの巨体に押し出され、化物の上空に舞う。




「死ねえええええええええええええええええ!!!」
















「……はぁ。いつも緊張するなあ……」




 聖教会本部の前で、部下の騎士達を背に胸を撫で下ろしたいジョンソン。



 不気味な程音が聞こえてこないその建物の前で、突入する機会を今か今かと窺っているのだ。




「ご苦労様ですジョンソン殿」

「わあっ!? ……ってハインリヒ殿!」

「私もいるわよぉ!」

「えー……トパーズ・シスバルド殿!」

「うふふ、その通りっ!」


「……何でシスバルド商会の方がいらっしゃるんで!?」

「ハインリヒに呼ばれてきたのよぉ~~~!!」

「はえ!? そうなんですか!?」

「色々ありまして、顔馴染みなんですよ。積もる話は――」




      ドゴォォォォォォォォォォォォォ






「……!!」

「あれは蝶……?」

「レオナ様からの合図です!!」




     \全軍、私に続けー!!!/
















 瓦礫と埃が舞う。



 口に入ったそれを嫌々しく吐き出した後、



 レオナは目の前の相手――聖教会幹部の一人、リチャードに向けて構える。








「……レオナ。貴女は今自分が何をしているのか、理解しておいでで?」

「ごめんなさいねぇ。わたくし、聖教会よりもグレイスウィルの方が肌に合ってたみたいなんです~」

「そうしてカンタベリーの同胞も殴り倒していったと。この暴力女」

「ふふ、口が多い殿方は好かれませんことよっ!」




 リチャードが杖から飛ばした散弾を、



 魔法で強化した四肢で全て弾く。



 どうにか視認できる程度の弾を、全て見切って的確に。






「レオナ様!!!」

「あらジョンソン様! 来てくださったの~!」

「ぐおっ!! ……ヘンリー八世は!?」


「ごめんなさい、彼に邪魔されて逃げられちゃった~。だから転送魔法陣の消滅だけに絞ってくださるかしら?」

「よおぅっと!! ……承知しました!!!」




 リチャードは去り行くジョンソンに追撃を喰らわそうとするが、全てレオナに跳ね返された。




「……フォーさん、出て来なさい。ここらで一発シメてやりましょう……!」

「あいよ、ご主人様。そういうわけだ、悪く思うなよお偉いさん?」

「……口の汚いバフォメットめ」
















「……というわけなんですけど!!!」



「もう大方終わっちゃってますね!?」








 転送魔法陣が展開されていた部屋には、爆炎が立ち込め扉を開くと共に解放された。




 床が魔法陣ごと削れて落ちて、したり顔のトパーズと断固として真顔のハインリヒだけが残されている。






「そうなのよぉ~! 待ち切れなくて爆発させちゃったっ♪」

「僕は待てって言ったんだけどな?」

「多分他にも人がいたと思うんですけど!?」

「騎士達に頼んで全員おびき出した後に行いました。下層では戦闘が続けられているかと」


「そうですか!! ならば参りましょう、お二方にはまだ働いてもらいますよ!!」

「そのつもりだよ……僕はまだ暴れ足りない」

「ふふ、懐かしい物言いね、ハインリヒちゃん!」
















「むがー!? ザイクロトル共が全滅ぅー!?」




 カムラン魔術協会グレイスウィル支部の大広間。そこで報告を受けたルナリスは大口をぽかーんと開けていた。




「だから言ったじゃないですかー!! まだ従属呪文も研究途中だったのに!! 不十分な中で投下しても、味方に被害及ぶだけだって!!」

「ぐ、ぐぬぬ……!! だがしかし、戦場は十二分に掻き乱したであろう!?」

「ああそうさねえ、よくもやらかしてくれたねえ」






 ガチャリと扉が開かれ、中にいた魔術師達は一同にひえっと悲鳴を上げる。



 すっかり腰を曲げた老婆が、気絶した魔術師をずるずると引っ張ってきたのだ。




「あたしの名前知らないなんて言わせないよ」

「もももも勿論ですとも!! 貴女様は……」

「貴様のようなババアなぞ知らーんっ!!!」

「フン」




    \あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!!/








 雷を受けた魔術師達が痺れる中、ゼラは中央にある魔法陣に向かう。




「こんなもん無くなってしまえ」

「あ゛ーっ!!! そ、それは幾多の血を注いで完成させた転移魔法陣っ……!!!」




 その血を無下にするように、ゼラは足と魔法を駆使して魔法陣を消していく。


 落胆する魔術師共の視線が心地良い。




「……にょ、にょほほ~……」

「どうせまたあの化物を投入するつもりでいたんだろ。これで本部から直接転送していたわけだ」

「……左様でございます……」

「言っとくがね、もう下層には騎士連中が多数詰めかけてる。逆らったら首を刎ねられるよ」

「そんなこと……」






 有り得ないという前にずたたたと大勢入ってくる。眼帯を着けた女騎士の命令に従い、残った騎士達は次々と魔術師達を拘束していく。






「ゼラ殿、その手腕お見事。流石私の師」

「んあ、ユンネか。なら頼むよ。あたしに捕縛とか難しいことはできん」

「そりゃあ老婆ですもの。力仕事は我々若い者に任せて頂戴」

「頼んだよ本当に……ああ。久々に暴れすぎたかねえ……ちょっとくらっときたねえ、ハワードや…」

「ワオーン!!!」
















「……父上! ご無事でしたか!」

「息災で何よりです、ハインライン様!」

「息子夫婦がいらっしゃったのだわー!!!」



 頭に登って尻尾をぺしぺしするベロア。ハインラインはそれで我に返ったようだ。



「……二人共。学園の方はいいのか?」

「カムランの化物も大方討伐し終えて、後は本部を残すのみとなりました」

「お父様のお力になりたくて! やって参りました!」

「そうか――」



      うおおおおおおおおおおおおおおおお






「……なっ!?」

「父上!!」





     ハインライン目掛けて飛んできた大男。



   それを防いだのはハルトエルの剣閃ではなく、



 レイピアとバスタードソードの煌めきであった。








「……ふう! 間に合って良かったです!」

「ちょっと関節に無理させた感じはありますがね!」



 猿を引き連れた傭兵と、淡く輝く鞘を携帯する傭兵。


 二人揃ってこちらの方を見てくる。



「……恩に着ります! その姿は、傭兵の方ですね!?」

「はい、貴方様の言う通り。マットとリズと申します」

「そして拙はイーサンとエルマー。マットは兄にあたります」

「二人で傭兵をやっておりますので、何卒……」




いい加減にしろよ……




                ……うう






「……っと。何ですか、戦闘の途中でしたか?」

「ああ、とは言ってもこちらが優勢ではあるが……」



 今いる場所はキャメロット魔術協会の本部。



 その一階ロビーにて、ハインラインは支部長であるエレーヌと戦闘を行っていたのだが。








「……わ、私は。負けられ。ないんだ。ヴィーナ様ため……」

「エレーヌ……」

「……ゴルロイス。救援に来てくれたこと、一応礼を言うぞ」

「……目の前の、ころす……」



 ぼろぼろのエレーヌを背に、ゴルロイスはまた走り出そうとするが――



「あ――」






 態勢を崩して、地面に倒れてしまった。



 どうして倒れたかと言うと、



 右足がぼろぼろ崩れたからである。








「……魔法人間ホムンクルス。追い込まれるとここまで哀れな姿になるのか……」

魔法人間ホムンクルス?」

「散々魔術師達が口にしていました。キャメロットが造り出した、理想の人間の姿だと」

「理想の人間ねえ……」




 崩れたのは足と胴体の接続部分。



 何とも奇妙なことに、取れた足は走り出そうとした態勢のまま、床に底をへばりつけて固まっている。断面は脆い砂のようで、何より血が一滴も零れていない。






 肩で息をしながら立つエレーヌにも異変が見られていた。目から零す液体は透き通っており、全身の穴という穴からそれが溢れ出している。



 左腕と肩の境目辺りに亀裂が入っていた。さながら乾き切った砂の城が、風化していく様にも似ていて。








「……っ。この気配は」

「激しい魔力変動……っと!?」








 上空に魔法陣が現れ、嵐が渦を巻く。






 それが収まる頃には、戦闘を分断するように瓜実顔の女が立っていた。






「……君は」

「モルゴース!!! 何しに来やがった!!!」


「あ……あ……ころし……て……」

「……ヴィーナ様の命令だ」



 そう言って杖を振り、エレーヌとゴルロイスの肉体を引き寄せる。



「ハインライン陛下。我々の負けだ。我々はここから撤退し、アルブリアの民に手を出さないと誓おう。これで終わりにしてくれ」

「……待て。勝手に要求を突き付けるな。事後処理が残って……」








 ハインラインの言葉なぞ、至極どうでもいいという雰囲気で、



 モルゴースは再び魔法陣を呼び出し、三人揃ってそこに消えていった。










「……」



「……ああ。私は、私は……」






 膝から崩れるハインラインを、ハルトエルとメリエル、そしてベロアが支える。






「父上……」

「……散々暴れるだけ暴れられて、残ったのがこれ。やってられませんよね、正直」

「まあ乗りかかった船ってやつです。事後処理……街の修繕や負傷者の手当て等々。最後まで手伝わせてもらいます」

「……心強い言葉です」


「義父様、こうして手伝ってくださる方もいらっしゃるんです。貴方が肩を落としたまんまじゃいけませんよ?」

「メリエルの言う通りだわー!! 取り敢えずは転送魔法陣が破壊されたか確認しに行きましょ!!」

「……そう、だな」




 決したように立ち上がり、周囲を見遣る。




「……ベロア、お前だけで行ってこい。私は戻って指揮に徹するとしよう」

「了解したのだわ!」

「では我々がその責を担いましょうか。傭兵には適任の仕事です」

「頼む……報酬は傭兵ギルドのそれより、高く付けよう」

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