第374話 対魔物武術訓練

<魔法学園対抗戦・総合戦

 二日目 午前九時 演習区>






「よーし……準備運動は済ませたな?」

「はい、ばっちりです!」

「いい返事だ。では――手加減はなしだ。とにかく滅茶苦茶に打ち合おうじゃないか!」




 アーサーとダレンが鉄剣を構え、それを見てカヴァスが吠える。


 リグレイが旗を降ろした所で、一気に間合いが詰められる――




 鋭い剣戟の音だ。








「やってるなああっちも!」

「イザーク、向こうを気にしている時間はないぞー!?」

「わーってますって!」



 彼は現在生徒会であるユージオに頼み、打ち合いの相手をしてもらっている。


 脇に控えたサイリの上には全身が黄色がかったコアラ、ユカリンが乗って早くしろと手を打ち発破をかけていた。



「んじゃ……スパーリングすっか! 三分間打ち合い!」

「おっしゃらー!! かかってこーいっす!!」



 ユージオが指を鳴らすと、どこからかカーンと音が響く。それを合図に目の色を変える――








「おんどりゃー!!」

「いいぞクラリア! 気合十分だな!」


「ふんっ!! ふうううんっ!!」

「まだまだ!! もっと火力を上げられるぞルシュド!!」






 多くの生徒が二人組になって訓練を行う。クラリアはクラヴィル、ルシュドはシャゼムと組みになり、それぞれ打ち合いを続ける。






「九百九十九、千! よし、一旦止めだ!」

「ぜーっ!! だああああっ!!」


「ぐおっ……!?」

「!! 先輩!!」




 肩で息をするクラリア、深く息を吐いてもなお涼しげなクラヴィル。態勢を崩したシャゼムをルシュドは起こす。






「ほら水だ。今の時間は約十分……かなり体力がついてきたな」

「当然だぜー! 一年間頑張ってきたんだぜー!」

「ルシュド、お前も火の使い方上手になったよなあ。俺が教えてもらいたいぐらいだ!」

「え、へへ……」



 大口開いて笑うクラリア、照れるルシュド。そんな二人を見て、クラヴィルとシャゼムは背中合わせに立つ。



「じゃあ今度は実践形式と行こう。軽めにしてやるから、どこからでもかかってこい」

「俺も先輩としての意地を見せてやるぞー!」


「おっしゃらー!! 行くぞルシュドー!!」

「行こう、クラリアー!!」











 総合戦のスケジュールは全部で三十日。初日が開会式で最終日が成績発表。それ以外の日程は訓練と試合に努めることとなる。



 試合が行われるのは四の倍数の日。グレイスウィルは二十八日目、例によって最終日。総合戦は一学園総出で臨むので、前の二戦以上に鮮やかな戦いぶりが、特に一般の観客から求められる。








「皆ーおっかれさーん!」

「お疲れだぜー!」

「ふー……ぁ」

「どうしたルシュド?」

「声が枯れたみたいだぜ。頑張った証明だな!」




 昼食の時間になり、かつて武術戦で肩を並べた四人は、揃って休憩を取る。


 冬の冷気に触れて汗が輝く。ここまで身体を動かせば暖房がなくても問題ない。




「飯は……何にしようか。あんまり食うと却って動きにくくなる」

「カツレツ丼!!!」

「アーサーの話聞いていたか?」

「アタシはアタシ、アーサーはアーサーなんだぜー!!」


「……オレもカツレツ丼にしようか。屁理屈こねても脳が栄養を欲している」

「んじゃボクもー!!」

「おれもー!」






    それから


           暫く


                時間が経って






     カツレツ丼がどんどんどんどんっ






「んめええええええ!!!」

「もぐっ、もぐっ……」

「ごほほほほ」

「肉がジューシーで美味いぜ!!」





 身体に恵みを齎すように貪る四人。



 そこにサンドイッチ片手に、近付いてくる人影。





「……獣のように食べるな」

「おおーヴィクトール! こんな所でどうした!」

「いや、貴様等の様子を見に来ただけだが」

「何だよ~気にしてくれてんの!? ボクちゃんうれぴいっ♪」

「貴様……」


「というかついでに、生徒会指揮下での訓練とやらをするんじゃないのか」

「まあ、それも兼ねてやってきた」

「午前は基礎訓練、午後は対魔物訓練! ヒャッハーこの世は天国だぜぇ!!!」

「吹っ切れているのかイザークは」

「午前中からずっとこんな感じだ。訓練不足が極まって思考が止まっている」











 昼食を食べ、数十分で身体を慣らした後、対魔物訓練の開始である。


 魔法を織り交ぜながら、或いは魔術を使う生徒との連携を想定して数体の魔物を討伐することが目的。魔物玉を叩き付ければ、すぐに戦闘が始まる。






「俺が魔物玉を打ち付けよう。貴様等は構えておけ」

「さあさあ何が出るかなーっと!」



    <キエエエエエエエエエエエエエエエ!!!



「これは……」

「鶏か! 楽だな!」

「いや――」






 鶏なのは頭と足だけ。身体はごつい竜のもので、尻尾は蛇で頭から独立して鳴いている。こちらの姿を視界に収めると、一瞬目がぎろりと光った。






「コカトリスか!」

「幸運だな。魔物玉より排出される魔物のうち、かなり強い魔物が出たぞ」

「何が幸運だよクソが!!」

「ほら、来るぞ」




 コカトリスはヴィクトールには見向きもせず、


 イザークに走ってきて頭突きをかます。




「ぎゃあーっ!?」

「取り敢えず好きに戦ってくれ。状況を見て俺が指示を出そう」

「了解」

「おんどりゃー!!」





 斧。取り敢えず斧。クラリアはそうするのである。



 頭に命中した瞬間、鶏の口から反撃の炎が出てきた。



 彼の前方を焼き尽くし、黒く変色させていく。クラリスはそれを見て頭を抱える。





「ぐおおおああっ!? 火を噴いたぁ!?」

「だからその、取り敢えず斧を振るってみる癖止めろ!! 生死に関わるんだぞ!!」

「そうは言ってもよー、取り敢えずの観察って必要だろー!?」

「それなら他にも適切な技はあるだろう」




 アーサーはコカトリスを指差し、カヴァスに指示をする。






「ヴー……ヴァンッ!!」




 カヴァスの口から放たれた水弾――



 それがコカトリスの口に入って、炎と互いに打ち消し合う。






「クケエエエエエエ……!!」



 水を被って慌てふためくコカトリス。周囲の状況が見えなくなってしまっているようだ。






「……火属性か」

「何だと!? 全然赤くねえぞ!?」

「体毛の下とかそんなんじゃね?」

「火属性、つまり、炎、強い。おれ、わかる」

「ならば高威力のそれが命中しないように――」





 敵は頭に血が上った様子で猛突進。



 アーサーに飛び蹴りをかまそうとしたが、彼は寸前で躱す。





「水魔法を折り込みながら、武器で殴ってやれ!」

「了解だぜー!!」

「ま、まあ頑張るよ!?」

「うおおおおお!」




     グエエエエエエエエエ!!!











「やっほ、ヴィクトール君」

「リリアン先輩、ロシェ先輩、お疲れ様です」

「お疲れ。お前は今何やってたんだ?」

「友人の訓練風景を観察していました」




 視線の先には、三体のコカトリスと戦うアーサー達の姿が。






「……多すぎじゃね? やかましすぎじゃね?」

「もっと出せと言われましたので」

「向上心の塊!!!」

「一部逃げ回っているのがいるんだけど」

「彼は……まあ、直接の戦闘は得意ではないようで」




       <ギュエエエエエエエッ!!!




「……三体目が死にましたね。貴様等、ご苦労だった」






 真っ先に三人に駆け寄るヴィクトール。その瞬間、イザークは前からのめり込んだ。




「んひい! 疲れた!!」

「はいはい水だよ~。ウィングレー家謹製魔力水だよ~」

「あざーっす!!」


「因みに俺らはこれを配りにやってきましたー」

「三年生の生徒への指示はいいのですか?」

「そっちはアザーリアやユージオがやってるから~。明日には私達もやるけどね~」

「生徒会の皆様もお疲れ様ですー!」






「んー……」



 自分の身体を見ながら、考え込むルシュド。


 そして閃いて手を叩く。



「そうだ。あれ、しなきゃ」

「あれって何だー!?」

「臭い消し。魔物、来る」

「あーそれね。確かにやらないとだわ。えーっと確かこの辺に……」





 イザークは懐からピンク色に渦巻く煙玉を出す。





「これをぷちってやるとさ、いい~感じの香りがむわ~ってさ~」


          ぷちっ


「おお……いい花の匂い……」

「でもってすぐに消えるんだよね。臭い成分と混ざるんだっけ?」

「リリアンが原理わかんねえんなら俺にわかるわけないだろ」





 臭いも収まった所で、切り出すのはイザーク。





「……魔物を倒すのって、こんな手間かけないといけないんだなあ」

「意外と傭兵も大変って思っちゃうよね~」

「人生において気楽にできることなんてないってこった! にゃはは!」

「忘れた頃に猫主張するな~ロシェは~」






 臭いを消したらまた訓練、出した魔物をある程度倒したら休憩。それらを繰り返し、生徒達は最終調整を行っていく。

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