第353話 魔改造をしよう・その一

 ある日曜日、十人揃ってやってきたのはいつもの島。今度はきちんとサラと話し合い、放置する準備はばっちりできていた。お陰で若干草が生え乱れる程度で済んだ。



 しかしそんな話は後回し。いつもの洞に集まって、ジュースと菓子を開けてパーティーをするのだ。








「えー……というわけで! 皆様魔術戦お疲れ様でした!」

「ご一緒にエリスの回復も祝いまして!」



「「かんぱーい!!」」




 その後コップを掲げ、思い思いに音を鳴らして飲み干す。中身は至って普通のオレンジジュースである。




「んぐぅ……ぷは~」

「お代わり、準備してますよ~」

「お願い~」




           とっとっとっとっとっ……




「……美味い」

「セイロンオタクのアーサー君、オレンジジュースも偶にはいいだろ?」

「まあに偶にははな……」

「ねえ、もうボトル空になったわよ」

「マッジかよ早すぎ!!」

「そりゃあ十人で開けたらこうなるだろ……」




 一旦コップを置き、続いてテーブルに置いた菓子を漁る。




「キャンディマシュマロクッキー……」

「どれもこれも美味いぜー!!」

「チーズタルトもあるよ!」

「高級店の匂いがする!」


「魔術戦頑張った報酬だよ~」

「よくやったわ、いただきっ」

「あっ早いっ!! ていうかサラも貰ったでしょ!! 何でそれで買わないの!!」

「あれは全部魔術研究に回すから」

「何研究してんのよ~! 魔法陣だけじゃ足りないっての~!?」

「単純に力不足を痛感しただけ。上には上がいるわ……」


「その報酬って、カタリナも貰ったの?」

「うん……これで布買って、リボンでも作ろうかなって」

「え~かわい~! カタリナなら絶対に似合う~!」

「あ……あたし用じゃないよ。その、後輩とかに作ってあげようかなって」

「え~やさし~! カタリナまじいい先輩~」

「えへへ……」


「ハンス、お金、貰った?」

「……一応」

「じゃあ、何する?」

「……決めてない」

「そっか」


「いや……何か皆の為になることに使おうかな。まだ決めてないけど」

「そっか。にこにこ」

「わ、笑うなよルシュド。もう……ふふん」








 そんなこんなで手が進み――




 持ってきた食料が三分の二程減った所で――








「じゃあやるか~。魔術戦の感想戦!」

「魔法ビシバシやって楽しかった~! 以上!」

「え、意外だ。もっと何か言うことあるかと思ってた」

「色々あり過ぎて冗長になるわっ!」




 べたーと丸机に突っ伏すリーシャ。どこか満足そうな表情を浮かべている。




「攻撃部隊だっけ。アナタ随分張り切ってたわよねぇ」

「見知った顔が山程いましたので! のでー!」

「そんなノリで臨めるってことが素晴らしいわね」

「何それ皮肉ーぅ? カッコワラだわカッコワラ」

「ねえオレンジジュースで人は酔えるのかしら」

「ボンボンショコラに入っていたかもしれんな」




 次はカタリナだ、と言わんばかりに全員の視線が向けられる。彼女は一瞬緊張したが、すぐに深呼吸をして持ち直した。




「えっと……今回の魔術戦を通じて、色んな人の魔法を見ることができたし、色んな訓練もできました。ここで得たことは、あたしの大きな力になると思います。本当にありがとうございました……」




 いそいそと頭を下げるカタリナに、温かい拍手が送られる。




「んじゃ次」

「は?」

「そのうち順番回ってくるんだから、今のうちに消化した方がいいでしょ」

「……けっ……」






 ハンスは頬杖をつき、何度か言葉を迷わせた後、






「……ありがとう。色々と」




 それだけ言って、ばっと立ち上がり外に出て行ってしまう。






「何だよ照れてんのかー!?」

「まあ奴は色々あっただろうからな」

「色々あってこれー?」

「それは奴の性格というものだ……」

「ああもう、こっちに視線向けんな。わかってるっつーの……」



 咳払いを一つ交えて、サラが続ける。



「そうね。思ってたより魔法を使って、暴れられたって印象かしら。後方支援だったけど」

「サラの回復魔法陣とか、回復魔法とか、助けられたって子いっぱいいたよ~。私もそう~」

「はっ、それはどうも」

「素直だな」

「感謝されるのは後方支援の一番の喜び。素直に受け取っとくもんなのよ」

「そういうもんかー。素直なサラも何かいいな!」

「クラリアに褒められるとくすぐったいわね……」




 くすぐったくなりながらヴィクトールに視線を向ける。




「ほい、ワタシの番終わり。次アナタの番」

「……まあ俺から言うことなんぞ一つだが」

「次は総合戦だから気を緩めるなーでしょ?」


「その通りだ。総合戦はこれまでの戦いと比べて、毛色が異なる」

「はいはいしつもーん。総合戦への出場って、良い成績収めた上位でしょ? ボクみたいな奴は出なくていいんでしょ?」

「他の連中の目には、貴様は良好な成績を上げたと映っていたようだ」




 イザークはうげえええと嗚咽を零しながらアーサーに寄りかかった。




「……まあ、訓練頑張ろうな。オレも手伝うよ」

「お手柔らかにオネガイシマス……」

「恐らくここにいる全員総合戦は確定だと思うぞ」

「……わたしも?」




 恐る恐る手を挙げるエリス。






「ああ……貴様は特にな。本来出場する予定の魔術戦を欠場したんだ、不本意だったとは言え成績に関わる。故に先生方も出場してほしいと思っているようだ」

「そうなんだ……うん」

「言っても補給部隊とかそんな感じでしょー? だってエリスは……ねえ」




 リーシャが言葉を切ると、続けて全員が複雑な表情を浮かべる。




「……うん。そうだね。わたしが一番わかってる……」











 声は戻った。薬の効果もだんだん薄れてきた。



 こうして身体の機能は回復しているのに、魔法だけは回復していない。



 未だに魔力が上手く変換できず、魔法が使えないのだ――











「……でも、無理だと思ったら切り捨てていいから。そこまでして出場して、足を引っ張るのもやだな……」




 顔を俯ける。




 そのタイミングで、外に出ていたハンスが戻ってきた。






「……何でこんな暗い雰囲気になってんの」

「まあ……暗い話題が出たから?」

「はいはい、折角のパーティーなんだろ。明るくやった方がいいんじゃないのか? ん?」

「いやまあ……そうだわ、うん。話題を変えよう、何かある?」




 イザークが強引に振り切った所、



 エリスがばっと顔を上げる。




「そうだ……わたし、みんなに伝えたいことがあるんだ」

「えっ、何々?」

「これを見てほしいんだけど……」



 エリスはずっと膝に置いていた物体を見せる。


 それは療養期間中に使っていた、ホワイトボードだった。



「おおー、それは文字が繰り返して書けるって魔法具ですな」

「でも声が出るようになったんだからいらなくね?」

「そうだよ。だけどこれを使ったいいこと思いついたの。試作品だから貰っても大丈夫だって、ローザさんも言ってた」

「つまりそれは今エリスの所有物ってわけだ。んでんで、そのいいことって何よぉ?」

「えっとね……」






 エリスは立ち上がり、入り口近くに向かい、ホワイトボードを掲げる。






「ここにぶら下げておいて、伝言板にしたいなって。手頃な大きさじゃない?」

「あー! 確かに、それは言えてるー! 私さんせー!」

「ぶら下げる紐とその紐を引っかける釘とかね。まあ、小遣いで買えるアイテムでできると思うわ」

「ん、ありがと~。それでね、これは今考えたんだけど……」




「二年生になって、対抗戦もあって、色々勉強してきたわけじゃん。それを活かして、この島を改造してみない?」






 しーんと一瞬だけ静まり返ったが、次々と声が上がる。






「賛成。ワタシはやるわ」

「ボクもー!」「私もー!」「アタシもやるぜー!!」


「ふむ……改造というのは、どのようにするのだ?」

「えっと……みんなの要望聞いて、一人ずつ欲しいものを作っていくの。これでいいかな?」

「それなら俺は欲しい物がある。乗ったぞ」




 貴様の為でもあるが、とアーサーを見ながら内心思う。






「おれ、やる。楽しそう」

「……ぼくもやりますよ。やればいいんだろやれば」

「オレは拒む理由がない」

「あたしも手伝うよ、当然」




 全員の意思を確認した後、満足気に頷くエリス。




「みんな、ありがと……じゃあ、早速話し合いしよう! 片付けておいて!」

「あいよー!!」

「さて、どうなることやらねえ……腕が鳴るわ、ふふふ……」

「サラは何でそんなに楽しそうなんだよ……」











 こうして話し合いが行われ、出てきた要望は次の通り。








「オレは訓練場を所望する。学園にあるような倉庫があって、案山子を数本設置して、的も配備して色々できるようなやつだ」

「おー、それいい。おれもそれで」

「アタシが言いたいこと全部言ってくれたぜー!!」


「俺は魔法陣の研究場だ。適度に平らな場所を取って、魔法陣を描く専用の場所にしてほしい」

「ワタシも右に同じ。他にも花壇とか畑とか色々あるけど、まあ規模を考えてこれで妥協してあげる」

「うーん、あたしはこれといってないけど……そうだ。島の整備、ここに来るまでの道が欲しいかな。こんな感じで」


「私はこの洞と木を装飾したいでーす! できる範囲で!」

「そうだな、昼寝できる場所。ぼくここで昼寝したい」

「前に泉あったの覚えてるか? そこで釣りができるように整備しようぜ! ボク釣りやるわ!」

「最後はわたしかな。んーと……伝言板設置できるってだけで十分なんだけど。そうだ、この入り口に扉を付けよう。わたしはそれで!」






 これらの要望に従って、改造を進めていくことになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る