第354話 魔改造をしよう・その二

 翌日。普通に平日で授業があるので、来れる人が集まって作業を進めていく。


 アーサー、イザーク、カタリナ、クラリア、ハンス、サラ、ヴィクトール。現在集まっているのはこの七名だ。






「……で、先ずはこれを見て頂戴」




 テーブルの上に地図を広げる。サラがぼちぼち作っていたという、この島の全体図だ。




「いつの間にこんなもん……」

「見知らぬ土地に来たんだもの、全貌を知りたいと思うのが普通でしょ。この土地をどう配分するか考えて頂戴」






 島を大きく分けると四つに分かれる。上空から見て、北西にあるのがいつも来訪している石柱群、北東が現在もいる森、南西がこことはまた異なる森、南東が緑広がる原っぱ。それを海岸線がぐるっと取り囲んでいる。



 北の海岸線は、漂着物が多く非常に歩きにくい。しかし南の海岸線は整然としており、水遊びをするにはうってつけである。こんな感じの環境で、総面積が学園の一階から三階を足したぐらいとのこと。



 総じて学生が暇を潰すには十分と言える土地を、どのように改造してやろうか。






「こっちの森は全く開拓されていないな」

「そうね。一応生えている植物はこっちと同じよ」

「なら問題はないな。ここを切り開いて訓練場にするのはどうだろう」

「大賛成だぜアーサー!!」

「待てクラリア、他にも使いたい人がいるかもしれないだろう。どうなんだ?」


「魔法陣の場所は大方決めている。石柱群から見て北西、森や平原との境目のこの辺りだ」

「それ以外は粗方決まってるようなものかしら。よしハンス、昼寝はこっちの方でして頂戴」

「んー、まあそれでいいよ」

「よしよし、場所は大方決まったわね……」






 話も纏まってきた所でリーシャが、袋を数個持ってやってくる。






「お待たせー!! いやー大分時間かかっちゃったなあ!!」

「何よそれ」

「装飾用のあれこれー! リボンとか旗とかスプレーとか! うえっくっし!!!」

「さっむ!! 風吹き込んでさっむ!! 早く扉も付けようぜ!!」

「確かに優先順位はあるわね。うーん……材料も検討しないといけないし、どうしていきましょう」


「道は最後の方になるかな。開拓とかが終わってからじゃないと、正確なのは作れないし」

「魔法陣の研究場は、そこまで凝ってなくても構わん。俺が指定する場所を確保してくれればそれで完成だ」

「並行してやれそうなのはやってしまおうぜ。つーわけでそうだな……ボクは泉見てくるよ!」

「イザーク、戻ったら必要な素材を具体的な数字を添えて提示すること。大きさとか数とかね」

「りょうかーい!」




 ここで全く発言をせず、暇そうにしていたハンスをぐいぐい引っ張るリーシャ。




「……は?」

「だってハンスー、空飛べるじゃん! 魔法使ってさ! 私も氷を重ねれば高くまで行けるけど、それって不安定だからさ~。手伝ってよ!」

「……飾り付けを?」

「私の指示に従ってくれればいいよ! それとも自分で付けてみる~?」

「それはいい……じゃあ任せる。指示を出してよ」


「はいよー!! というわけでエリスゥカタリナァー、一緒に装飾考えようよー!」

「わたし、扉の大きさ測るからー! そっち終わってからでもいいー!」

「全然だいじょうびぃー!」

「あたし、空とか飛べないけどー!」

「そんなの関係ぬぇー! 下の方だけやってもらえれば!」

「わかったー!」











 二日目。この日のサラは、魔力結晶を大量に買い込んでやってきた。






「いっちにーさんしー! ごーごーごーごー!」

「……ここまで魔力を供給しないといけないのか」

「二年生である程度魔法の訓練をしたとはいえ、まだまだ貧弱よワタシ達。道具でそれをカバーしなくっちゃ」




 魔法陣を描き終え、中央に持ってきた魔力結晶を全部置く。土属性を象徴する橙色をしていた。




「幾らかかった?」

「ざっと金貨二枚」

「……」


「どうせワタシの金の使い方なんてこんなもんよ。さあテメエら配置につけー」

「よっしゃー!!」

「ワンワーン!」





 クラリアとクラリス、アーサーとカヴァス、ヴィクトールとシャドウ、サラとサリアが八分割された魔法陣の中に入る。





「いい、こんなに魔力を使うってことは、凄い威力ってことよ。多分身体がズレそうな衝撃とかあると思うけど、踏ん張る努力をして頂戴。でないと中途半端に終わって中途半端な訓練場になるから」

「わかったぜー!」

「一体何が起こるというのだ……」




「じゃあ始めるわよ。田園曲と踊れ、ターシナス・寡黙たる土の神よアングリーク――悠然とカームリィ!」






 地面が揺れる。



 ごごご、と足元が割けていく音。激しく上下に揺れ、感覚を失い三半規管が故障しそうだ。



 土煙が飛び上がり、周囲はどうなってるのかギリギリ観察することができない。






「あ、あとどれぐらいだ……」

「この魔力結晶消費するまで。多分あと三十秒……」






 それから五十秒後に、振動が止まり砂煙が晴れる。






「ぬおおおおおおおおおおおおお!!!」

「……よくやったなあ」

「ああ……ここまでやるとは、正直」






 ここは南西にある森。その中でも開けている部分に魔法陣を描き、周囲にある木々を土魔法で根っこからすっぽ抜いた。






「因みに切り株とかは何処に行った?」

「風を操って海の方にすっ飛んでもらったわ。これで後は海に流されるだけよ」

「豪快に見えて結構考えていたのだな……」

「ワンワン……」


「さて……この後土を均したりとかあるんでしょうけど、今日は疲れたから終わりにしましょう。というか、アナタ達の方がそういうの詳しいでしょ」

「まーな! その辺はアタシに任せといてくれよ!」

「では私とクラリアでその辺りはやっておこう。いいかな?」

「ワンワン!」

「――」

「頼んだぞシャドウ。よし俺達は……休憩がてら洞に戻ろう。向こうの様子も気になるしな」








 戻ってくると、洞は見違えるように飾られていた。



 スプレー缶で模様が描かれ、旗が飾られ、寂れた枯れ木は何処いずこ。完全に趣味の建造物である。



 そして入り口の上に、でかでかと描かれた『ティンタジェル』の文字――








「……何でここが聖杯の遺跡になってんのよ」

「遺跡じゃないお城ー! ここは私達にとっての、ティンタジェルのお城!」

「けんらんごうかなおしろなのです!」

「わたしが提案したんだ……いつまでも洞って呼ぶのはつまんないから、いい感じの名前を付けようって」

「……」




 入り口から中を見ると、一年前に作った丸机が雑然として座している。




「……確か騎士王伝説の中で、騎士王と円卓の騎士達が集った城がティンタジェルだったか」

「そうそうアーサー! それから取った! いいと思わない!?」

「ああ、最高だと思うよ。何てったってここには円卓があるからな」

「理由そこかよ」






 その後ろから、魔力結晶とスコップを手にカタリナとセバスンが戻ってくる。






「皆お疲れ様。ヴィクトール、頼まれてた測量終わったよ」

「ご苦労だった」

「測量?」

「魔法陣研究場のだ。こちらに来い」








 島のほぼ中央、やや石柱群に近い辺り。そこに八メートル四方の線が描かれ、その中は綺麗に整備されていた。






「取り敢えず線だけ引いておいたけど、これでいいかな?」

「十分だ」

「ていうか魔法陣描くスペースなら、向こうの原っぱ使えばいいんじゃないの?」

「あそこは起伏がやや激しい。描いた所で上手く作動はしないだろう」

「言えてる」

「しかし、そうだな……」




 土を触りながら呟く。




「この地面を魔法陣が描きやすいように改造したいものだな。耕そう」

「じゃあ頑張りなさいね」

「……」


「あらぁ~女にそこまで任せるつもりなのぉ~?」

「シャドウ……ああ、彼奴は向こうに……」

      <みんなー!

      <おーい!






 エリスとリーシャが、コップの乗ったお盆を手にやってくる。






「差し入れだよ。はい飲み物」

「……何これ。結構果肉浮かんでるけど」

「ジュースメイカーなる魔法具を試してみました~。果物をじゅじゅじゅーってやると、美味しいジュースになるんだよ~」

「要は只の搾り器ではないか……」

「ちゃんと種も除いてくれるんだよ。すごいでしょ」


「その魔法具って何処に置いてあるのかしら。実物が気になってきたわ」

「洞、じゃなかったティンタジェルの中だよ」

「正式名称がもう馴染んでいる」

「お代わりだぜー!」






 お手製ジュースを飲んで今日の所は解散。








 翌日三日目は、資材店に向かう所から始まる。








「魔力カスタマイズ……」

「そうそう。防寒防暑通気性、お好みに合わせて木材に流れる魔力を操作できるぜ。それ相応の金は取るがな」

「うーむむむ……」




 メニュー表と金額を睨み付けながら、エリスは考える。店員が購入を促すようにあれやこれやと商品を薦めてくるのを、サラが軽くいなしていた。




「やっぱりここぞと思って奮発するべきかな……」

「ワタシはそれに賛成。今後支えてくれる扉だもの。一生ものだと考えれば大分得よ」

「そうだね……じゃあおじさん、これとこれとこれで!」

「はいよー」



 

 総額締めて金貨三枚。ちょっと懐が寂しくなってきた。




「そしてこれが寸法でーす」

「はいはい。んー……よし。この程度の木材なら明日までには仕上げられる」

「明日ですかぁ……」


「今は午後四時だ、こんな時間に即日ってのは無理だな。なぁに急ぎの用事じゃないんだろ?」

「そうですけどぉ」

「早く組み立てたい気持ちはわかるが、のんびり行こうぜ。でないと怪我にも繋がっちまう」

「ふぅ……はーい。それではまた明日来ますねー」

「あいよー。期待してて待ってなー」






 これでエリスとサラの用件は終了。続いて同じ店の中を探し回っている、もう片方に合流することに。






「ハンスー、イザークー、いいの見つかったー?」

「それがもうたんまりとございましたぜ!」




 合流した時、イザークはハンモックに寝っ転がり、それをハンスが無理矢理下ろしている所だった。




「てめえ……」

「え? 店のもんだから自重しろって!?」

「っ……」


「貴族特有のわかりやすさがあるんだよオマエは~!! つーわけで、これ買うから!」

「はーい承知。じゃあさっさと払ってきて頂戴。こっちはもう終わったから、あまり待たせるんじゃないわよ」

「おっしぇーい!!」








 一方の島にて。アーサー、ルシュド、クラリアの手により、訓練場の整備が着々と進んでいる。






「剣、籠手、斧……うん、十分だ」

「アーサーこれさ、もっとずらーっと並んでるやつにしなかったのかー?」

「頻繁にこの島に来ない以上、手入れも難しいだろう。だから数えられるぐらいでいいんだ」

「そっか! 確かに手入れができなくなって、錆びて壊れても困るな! その通りだぜクラリス!」

「一応軽く魔力結晶を振りかけて、防腐対策はしているけどな。地道な手入れに勝るものはない」

「ヴィル兄の言葉だぜー! アタシはよく知っているぜー!」



    <ふんふんふーん……

    <ワンワンワーン♪





 二人の後ろでは、ご機嫌なルシュドとカヴァスが案山子の作成を終えた所であった。





「お疲れ。手が大分荒れただろう、水で洗ってこい」

「うん。ありがとう」

「なーなーアタシあれが欲しいぜ。回復の泉!」

「無茶言うな。サラやヴィクトールに言えばできないこともないだろうが、それでも今の私達には無理だ。魔力が明らかに足りていない」

「だからこそ、魔力錬成の訓練を頑張らないとな」

「ぐぬぬ……その通りだぜ! うおおおお作ってやるぜー回復の泉ー!!」




 ふと石柱群の方を見遣ると、ぞろぞろと人影が。




「来たかあいつら」

「何かでっかい物しょってるぜ! 気になるぜー!」








「……よし。ここだ」

「良い立地だわ」

「とっとと取り付けろよ」

「ふーん」


「……手伝え。ぼくの作業を」

「妥協してあげましょう」






 サラが袋に手を付けた所で、訓練場からやってきたルシュドが合流。続けてアーサーとクラリアもやってくる。






「お疲れ。お前らも順調そうだな」

「アーサーもお疲れ~。顔真っ赤だよ。頑張ってたんだね」

「……」


「心なしかもっと顔が赤くなった気がしますねぇ!?」

「この泉に突き落としてもいいんだぞ」

「前言撤回!!!」




 うるせえよと悪態をつきながら、ハンスは購入したハンモックを粛々と取り付けている。すかさず手伝いに入るクラリアとクラリス。




「ここは冬なのに温かいな。これが木漏れ日か……」

「サイコーよねぇ。朗らかな光を浴びながら、ゆらゆらグースカ昼寝すんのよ。ここを選ぶセンスがエルフだわマジエルフ」

「ぼくを馬鹿にしているのか?」

「褒めてるんのよ、素直に受け取りなさい?」

「……くそがよ」




「ところで、釣りの整備は進んでいるのか」

「ああ、構想は決まったよ。釣りする用の椅子置いて、あとはベンチとテーブルでも置こうかと」

「その上で数歩歩くとこのハンモックか」

「憩いの泉って感じになってきたわねぇ」


「で、その椅子とかは木材から作るのか?」

「いやしねえよ!? 流石に労力がかかり過ぎる! 組み立てるタイプのやつ買ってきて、それを組み立てようと思っているよ」

「そうか……どれぐらい置くか知らんが、結構金が飛びそうだな」

「まあね~……」




 互いの人差し指を突き合わせながら、ちらちらとエリスの方を見る。




「……卑怯だぞ。オレだと絶対に断られるからって、エリスに懇願するとは!!」

「へ、何の話?」

「エリス様単刀直入に言います!! ボクに金貸して!!」






    \\\雪の積もった地面で土下座ばーん///






「あー……えー、どうしよー……」

「エリス、無理に応じなくてもいい。それか少しきつい程度の交換条件を提示するんだ」

「でも……それ以前に、金額にもよるかなーって」


「一枚!! 金貨一枚で先ずは!!」

「先ずはって、何度も借りる前提かい。それはちょっと……」

「待って、待って」




 寒さに震えるイザークを起こしながら、ルシュドはハンスを手招きする。




「……え? 何?」

「ハンス、言った。お金、使う、皆のため」

「……ああ、そうだね」

「今、その時。ハンス、貸す、お金、イザーク。解決!」



 満面の笑顔を浮かべるルシュド。その直後のイザークの舐めるような視線が気持ち悪かったが、



「……まあいいよ。どうせぼく金は余りあるし。貸すとは言わない、くれてやる」

「あざーーーーす!!! ぶえーーーーーくし!!!」

「イザーク、冷たい。おれ、あっためる」

「頼むーーーずずずっ!!」


「汚いぞ。ほら」

「金は貸してくれないけどちり紙はくださるアーサー様!!!」

「そもそも物を貰えるという前提が有難いと思え……全く」

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