第345話 ひとまず大団円!

<魔法学園対抗戦・魔術戦 二十七日目>






 まるで嵐のようだった試合にティンタジェルでの騒動。後者を知る生徒は殆どいないが、とにかくそんなことがあった為、保健室は朝から大盛況だった。


 面会を求める生徒、面会をしたはいいが騒がしさに追い出された生徒、色々赴くその様を、細目で瞻視していたのは――






「やっほーロシェ。ココアいるかい?」

「ん……ああ」

「ついでにダンベルクッキーもやるよ。武術部で余ってたんだ」

「あっそ……」




 リリアンとユージオから、それぞれココアとクッキーを受け取り、羽ペンを走らせる手を止める。




「何書いてたの?」

「メモ」

「はぁ?」

「メモだっつってんだろ、それ以上の意味はない」

「ふーん……」


「……おいリリアン、そのぶら下げてるストラップは何だ」

「ああこれー? ハスター先生に貰ったんだー。商人から買ったはいいけど、いらないからあげるって」




 星の形のストラップをちょいちょい弄るリリアン。その隙にユージオはロシェに耳打ち。




「……なあロシェ。ハスターの奴、今回の事件を結構気にしてるっぽいぞ」

「……どんな風に」

「何というか、カムランの動向を甚く気にしてた。あとウィリアムズの件についても、心を痛めてるとかどうとか」

「嘘こけ後者は絶対建前だぞ」

「俺に言われても困るわ……でもまあ、そんなことだよ」




 ユージオは顔を上げる瞬間に、ロシェの書いていたというメモをさり気なく一瞥。


 『『臍を出した女』の関与の可能性あり』と書かれた文章が目に入った。











<午後十一時 保健室 第五病棟>






「……んでだ」

「……」


「何か言うことあるよなあ?」

「……」


「そんなむっすりとした顔してんじゃねえよ」

「……」


「……自分達は悪くないってか?」



         こくりっ



「……はぁ。これだから思春期ってのはよ……」






 アーサー、イザーク、ルシュド、クラリア。怪我の治療をされた四人が、起こされ座らされローザから説教。ソラがどこ吹く風で口笛を吹く。


 この部屋には五人患者がいるが、うち一人は深く眠っており、当分目覚めそうにないので放っておいている。






「……お言葉ですが思春期とかそういうのは関係ないかと」

「僕が言おうとしてたことを~」

「まーでも悪いことしたとは思ってねーし。友達守ることの何が悪いんだ?」

「だから……ずっと言ってるだろうが。大人に一声かけてからにしろって、そういう所だぞ」

「時間、なかった。急ぐ、優先」

「ったく……」

「第一よー、アタシ達が割って入らなかったら、ローザさん達は間に合わなかったんじゃないのかー!?」

「ぐっ……」




 エリス達がいなくなっていることに気付いたのは、試合終了後五分前後。




 そこから探し回り、数分程度でティンタジェルに向かったという情報を、探知器を強奪して得てから移動するまで更に時間がかかり--




「その上で風が吹かなきゃ危なかったよねえ」

「風?」

「突風が吹いてさ~。それが僕達の背中をぐぐーっと押してくれて、それで加速できたんだ」

「お陰でギリギリ間に合った。まあ……うん……」


「ヘイユー認めちゃいなヨ!!! ボクらの協力もあったって認めちゃえヨォ!!!」

「うっせえよ!!!」

「あっぐぅー……」




 脇腹に響いたのか、その辺りを押さえて悶絶するイザーク。他の三人も苦しそうにしている。




「骨が折れた上に内蔵も損傷してるからな。そりゃあ響くわ」

「暫くは叫ばないようにしてね~」

「「マジかよ……」」


「お前らはきついだろうな……」

「気合、入れる、大声。武術、訓練、無理……しょぼん」

「勉強代だと思って受け入れろ。身の程を知らずに突っ込むとどうなるかってことのな」

「そーりゃってすぐ話を戻すぅー!! ああ……」

「言った側から繰り返すのやめろ。クソ野郎思い出す」

「それって、アル……「わーわーわー!!!」






 騒ぎたいのか静かにしたいのか、よくわからなくなってきた所に、



 扉が開く。






「……あ」

「おお……」

「……来たか!」

「……」






 もうすっかり見慣れた、赤い髪に緑の瞳の生徒。


 果物が幾つか入った籠を持って、エリスがやってきたのだ。






「……」



「これ、お見舞い、だよ!」




 アーサー達に籠を見せた後、机の上に置く。


 その笑顔は眩しかった。




「何だこれ、どこで売ってたんだ?」

「商人さんが売ってたんです。丁度良かったので、買ってきました」

「うっわこれメロンじゃん。高かったんじゃない?」

「学生ということで値引きしてもらいました!」


「食おうぜ食おうぜー! アタシメロン食べたいぜー!!」

「こういうのは見舞いに来た人がいなくなってから食べるもんだぞ」

「別にいいよ? わたし、みんなに食べてもらいたいから!」

「おっしゃらー食おうぜー!!」

「ボクは葡萄でも貰おうかねー」

「おれ、林檎」

「オレは苺で」

「わかった!」






 予めカットされているので、渡してもらえばすぐに食べることができる。


 そうして全員配り終わった頃、図っていないが全員一緒に、ふふっと微笑む。






「……やっぱり、いいな! これが一番!」

「うん、おれも!」

「忘れかけてた感覚ってヤツ? でもこうじゃないとなー!」

「……ふん」


「照れるなやアーサー~」

「ローザさんうるさいです……」

「そうだ……うるさいぞ……」






 五人目の患者がもぞもぞと動き出す。




 彼にエリスは近付き、完全に目覚めるのを待った。






「ハンス……」

「ん……ああ、きみかあ」

「……」

「……何だよ」


「……わたしのせいで……」

「いや……あの状況は仕方ないだろ……」






 包帯を巻かれ、四肢もある程度固定された状態で、ハンスは安静にされている。目はじっと見開かれ、エリスやその後ろの面々をじっと視界に入れている。






「きみはきみ自身の善意から行動した。ぼくにはぼく自身の思惑があった。それだけだよ」

「……」


「……もうさ、いいだろ。今こうして生きてるんだから。それでいいじゃん」

「……ハンス」

「でもまあ、一つ聞かせてくれよ――」




 手を動かし、耳を近付けるように促す。それから小声で彼は話した。






「……きみはぼくのことを友人だと思っているから……行動したんだろ?」






「……」


「……そうだよ。ハンスはわたしの友達」






「……そうか」「まさかオマエの口からそんなことが聞けるなんてなー!!! それでいいとか何とかなー!!!」




「うるせえよ!!!」


「「あっくぅー……」」






 イザークとハンスが腹を押さえている中、エリスはローザに真剣な声色で話しかける。






「ローザさん……みんなのこと、あまり責めないでほしいんです」

「……」

「わたしが、急がないとって、みんなに言っちゃったから……それで、先に行こうって話になって……」

「……そうらしいな」


「だから! だから、悪いのはわたしなんです……わたしが、連絡を取っていれば……」

「もういい。もう責めるのはやめるんだ」




 ローザは優しくエリスを抱き締め、背中を叩く。




「ハンスも言っていた通りだ。お前はお前が正しいと思う行動をした。そうして今生きていられるんだから、それでいいんだよ」

「……はい」

「……とはいえ次からは気を付けてくれよ。今後似たような事態があったら、助かるとは限らないんだからな。今回は本当に、奇跡が起こったと言ってもいい」

「……」




 そのまま首だけを四人に向け、顔を顰める。




「てめえらも同じだからな、ちゃんと反省しろ」

「ちょっと、何でボクらだけ言葉がきついの!?」

「エリスは十分に反省している。だからてめえらもばっちり反省しろや」

「くぅ……」






 これで話も一段落、落ち着けるかと思いきや、




 新たな火種が投入。






「エリスゥ~~~~~ここに居やがったか~~~~~~あ~~~~~!!!」

「探したよエリス。何か色んな商人の所を行ったり来たりしてたって……もう。迷子になったかと思ったよ」


「こんのクソ馬鹿がくだばれハンス!!!」

「右に同じだ……!」






 リーシャ、カタリナ、サラ、ヴィクトールの四人。部屋に入るや否やバンバン騒がれ、患者五人は腹を押さえて悶える。






「……え。何この状況」

「腹がぁぁぁ痛いにょおおおおお……」

「骨や内臓が壊れているので結構響くんだ」

「詳細な説明は省いてやるから静かにしてやれ」

「りょーかっ!!!」

「だからさー!!!」




 ここでどっしんと椅子に腰かけるリーシャ。患者でもないのに偉そう。




「今ね、生徒会主催で祝勝会をやろうってことになってるの! 購買部とかもう準備してもらってるよー!」

「祝勝会? 戦績が確定すんの明日じゃね?」

「二年生の、だ。明日になってもそれはそれで催すだろうがな」

「ほんっとパーティとか好きよねコイツら」

「だって楽しいじゃん♪」

「同意!!! アッ!!!」


「どうやら監視をしないと駄目なようだな……」

「しょんにゃぁー!!! ウグッ!!!」

「まあというわけなの! よかったら来ないかなって!」

「行きまーす!!! ギャッ!!!」

「オレも同席しようか……イザークが不安で仕方ない」

「アタシも行くぜーぎゃー!」

「おれ、行く。ハンスは?」

「……」




 考えている最中、全員の視線が注がれ気難しそうにする。




「……行くよ。行けばいいんだろ行けば……」

「ていうかハンスは魔術戦出たでしょ? だから絶対出席だよ?」

「は?」

「何よー私達と戦った仲間じゃーん! 分かち合おうよーこの感情ー!」

「てめえ……」


「大勢に囲まれて胴上げとかされるといいわ。さぞかし内蔵に響くでしょうね」

「それは名案だ。提案してこよう」

「てめえらなあ!?」






    ~エリスは傍目に服の裾ちょいちょい~






「……ん?」

「あっ……もういいんだった。こんなことしなくても……」

「あはは……まあ癖になっちゃってるんだよね。すぐに抜くのは難しいよ」

「でも……恥ずかしいよぉ……」



 カタリナの服の裾を掴んだまま、エリスは顔を赤らめる。



「……可愛い」

「えっ」

「ふふ……エリスの声、可愛いなって。聞き慣れた声のはずなのにね」

「……」


「暫く聞いていないと、ここまで大切に思えてくるものなんだね……ってあれ?」

「カタリナのばかぁ~……」




 と言ってアーサーに向かって倒れ込む。




「待ってくれ? 何でオレなんだ!?」

「カタリナの顔見てると、恥ずかしいの……」

「オレも恥ずかしいんだが!?」

「きゃーきゃー!!!」「わーわー!!!」「ひゅーひゅー!!!」



「「「んがあっ!!!」」」



「……何でリーシャも腹支えてんだよ!!!」

「うわっマジだ!! 同調圧力怖っ!!」

「違うと思うけど微妙に合ってるのがじわじわ来るわね」








 十人で賑やかに語らう様を、大人のローザとソラは一歩引いて見つめる。






「……なあソラ」

「んー?」

「今回のハンスのような状況に、私が陥っていたら、お前は助けに行くか?」

「何言ってんの当然じゃん。僕はキミの友達だろ?」

「……そっかぁ」


「ロザリンだってそうする癖にぃ。友達なんてものはわかんないムーブしても無駄だよ?」

「けっ……全く、うっせーえよってなぁ!」








 この後ささやかな祝勝会が催され、それに出席するエリス達。


 翌日も学園全体の優勝記念パーティに出席し、たらふく食べて満足しながら過ごしていったのだった。








「……ねえレベッカ!? 何でカイル君、急にうちのことぎゅーってしてきたのぉ……!?」

「ウェンディが望んだことでしょうが……何で動転してんの」

「多分あん時の記憶ほぼ抜け落ちてるで」

「え゛っ」


「ぷくくくく……然らばこのことは、秘密にしておきましょうかねぇ」

「ロイもチェスカもっ!? ちょっとーマジで何の話なのー!?!?」

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