第248話 大惨事☆

「というわけでやってきました秘密の島あああああああああああああああ!?!?!?!?」

「出オチだとおおおおおおおおおおお!?!?!?」

「何だこれはああああ!!!」

「わあああああ!!!




 魔法陣を通り抜けた十人を迎えたのは。


 どう見ても森から伸びている葉と枝と蔓の山。




 というか一部の蔓に至っては、明確な意思を持って、こちらに向かって伸びてきた。




 そのままイザーク、リーシャ、クラリア、ルシュドを拘束して、何やら弄んでいる。残された六名、目が点になる。






「あーらまーこりゃーだいさんじねえー」

「酷い棒読みだな」

「サラー!! やっぱりあなたの差し金でしょー!!」

「差し金とは何よ人聞きの悪い。ちょっと想定外過ぎただけよ」

「だから何をしたんだよてめえは!?!?」


<うおおおおおお!! 楽しいぜー!!

<おおおおおおお!?

<いやー!! 海めっちゃ見えるー!!

<高ぇー!! 怖ぇー!!






「ハンス、風魔法でちょいと手伝いなさい」

「は?」

「はい、地面に手をつけてー。それを通してワタシに風属性の魔力送ってー。吸ってー吐いてー伸ばしてー己の罪を鑑みてー」

「何だてめえ……」




 とか何とか言いながら、結局ハンスは言われた通りにした。




「よーし行くわよー。田園曲と踊れ、ターシナス・寡黙たる土の神よアングリークー」




 サラが呪文を唱えた直後、蔓延していた植物はするすると森に戻っていく。




<えっ、ちょっ、これどこ行くんすかねぇー!?!?

<ぎゃー!!! 連れ去られるー!!

<ぬおおおおおおお!! がっちりと掴まれてるぜー!!

<おおおおおおお!!





 



「……」




「アイツらのこと考えてなかった」

「えっ、じゃあどうなっちゃうの!?」

「まあ暫く苦しんでもらうことになるわね。アナタ達、これから一仕事するからナイトメアの準備をなさい」











 森に入るとこれまた大惨事。




 木々の隙間に詰め込むようにして、枝は突き抜けるわ葉は繁茂するわ蔓以外にもよくわからないものが生えているわで、非常に密集している。




 このままだと悉く日光が遮断されるので、それこそ生態系に影響が出そうだ。






「取り敢えず邪魔なヤツは、片っ端から魔法とかで切っちゃって」

「は、はあ」


「だずげでよ゛お゛ア゛ーザーあ゛あ゛あ゛!!!」

「カヴァス、先陣を切れ」

「ワオン!」





 足に力を入れ、その拍子に一歩退く。


 その後飛び上がって、木々に突っ込む――




 瞬間に、真空の刃が飛び交う。






「……」




 あまりの恐怖に、すっかり蒼白になったイザークが、重力に引っ張られぼとりと落ちる。




「カヴァス、もっと静かにやってくれはしなかったのか」

「ヴァンッ!!」

「そうかそうか……よし。一応応急手当はしておこう」






 それを見ていた残りの四人も、杖を取り出したりして準備をする。






「おいクズ。さっさと終わらせるぞ」

「お? 珍しいね、シルフィに頼むんだ」

「殺すぞ」

「シャドウ、シルフィに変身しろ。効率を上げるぞ」

「……けっ」




祝歌を共に、クェンダム・奔放たる風の神よエルフォード――」




 カタリナが杖を向け呪文を唱えると、


 風が弾になって貫き、一本の道を作る。




「ふむ。中々上手ではないか、カタリナ」

「そ、そうかなあ……」

「この分なら魔術戦も期待できそうだな」




 続いてヴィクトールとシャドウが風を巻き起こす。



 これにて大分視界良好、と思いきや、






「何だこの蔓は……」

「道を塞いできたわねえ」

「こんなに生命力が溢れてるの始めてみたぞ」おおおおお……




「……ん?」

「何か動きが小さくなってきたね」

「……」ぐおおおおお……






「がああああああああっ!!!」






 こちらに襲いかかろうとする蔓は一変、




 赤い奔流に包まれ、瞬く間に塵と化した。








「ふーっ、ふーっ」

「ルシュド! いいねえよくやった!」

「……つかれた……」




 蔓から解き放たれ、そのまま地面にへたれ込むルシュド。口から残り火が零れ出た。




「じゃあルシュドには休んでもらおう。いつもの洞の中でいいかな?」

「あ、そっちが大丈夫か見てなかったよね……」

「そっちは心配いらないわ。中が風化しないようにちょっと結界を張っておいたの」

「案外器用なのだな、貴様」

「魔術戦に期待できちゃうでしょ?」

「ふん……」




 今度は森の方から、冷たくなった風がそよそよと。




 それは完全に冷え切っておらず、暑さと相まって背筋がぞわぞわする。






「んぎゃー! 上手くいかないーーー!!」

「るしゆどのまね、しっぱいなのでーす!!」

「はいはい、今行くからねー」




 エリスは蔓の一本に触れ、魔力を流し込むイメージを働かせる。




 すると触れていた所から徐々に火が付き――




 森全体を燃やさない程度に、蔓から渡って枝葉を燃やしていく。






「ふむ、貴様は杖がなくとも魔法が使えるのだな」

「実は杖持ってると逆に使いにくいんだよね」


「……魔法使いか」

「あはは、まあバレちゃうよね――隠すことでもないんだけどさ。一年も付き合ってるんだし」




 砕けた笑いを浮かべながら、エリスはリーシャをおぶる。




「まほーには自信があったんですけどぉ……」

「自信があるのなら、訓練を重ねて力にしていけばいいだけだ」


「……」

「……何だ貴様」

「……いや、励ますなんて珍しいなあと」

「悪いのか?」

「驚いただけだよ!」











 そんなこんなで駆除作業から一時間程度――


 それは完了させ、全員で洞の中に集合。











「いやあ、お疲れ様ねえアナタ達」

「思ってたより魔力を使ったぞ……」

「伐採した枝とか、放置したままでいいの?」

「土に還っていくだけだから全然平気よ」




 至急買ってきた紅茶と魔力水で喉を潤す面々。サラが言っていた通り、洞の中は殆ど汚れていなかった。




 足を伸ばし、時には寝っ転がって、久しぶりに木の中で時間を過ごす感触を堪能する。初夏の熱気が心地良い。






「それでだな……」

「結局てめえは何をしたんだよ……」

「んー……」



 荷物置き場から何やらまさぐり出すサラ。



「……あーあった。袋を残しておいたんだった。よくやったわ一ヶ月前のワタシ」



 そうして見せてきたのは、花や木々の絵が描かれてある袋。






「……肥料か」

「そうよ。しかもただの肥料じゃないの。エレナージュのある魔術師が開発した、とっておきの魔術肥料よ」

「ああ、噂の二十倍肥料……」

「一ヶ月も離れるもんだから、栄養不足を懸念して多めにぶち込んでおいたんだけど……きっとこの島に元々含まれていた魔力と反応したのね」

「その結果があれと……」

「もう……そういうことなら先に言ってよ~」

「別にアナタ達にとっても悪いことじゃないと思ってね。まあでも、流石にこれに懲りて、今後は説明責任を果たしていくとするわ」




 そこまで言った後、サラはクラリアがぼーっと外を眺めているのに気付いた。




「……どうしたの」

「ん。いや、あの枝とか葉とかでさ……焼き芋したらいいなって!」

「……へえ」


「ロズウェリにいた頃はよくやってたんだ! 兄貴や使用人の皆がそんじょそこらから刈り取ってきて、山にして火をつけた所に、紙で包んだ芋をぶち込むんだ!」

「うんうんわかるわかる! 私もイズエルトにいた頃はよくやってた!」

「アヴァロン村でもやってたなー。どこの地域でも見られる光景なんだね」


「とても名案に思えるわね。今がァッキンッホットな夏だという点を除いたらね」

「……そこは気合で何とかする!!」

「何とかできたら苦労はしねえ!!」




 憤慨して飛び起きるイザーク。突然のことに驚くアーサー。




「……でもいいな! 焼き芋! やりたいことリストの中にぶち込んどいておこうぜ!」

「いつの間にそんなものが……」

「今言っただけだしあったとしてもボクの脳内にあるだけだし!」

「……だったら今さ、ここでまとめちゃうのはどう?」



 エリスが手を叩いて切り返す。



「えっ、こんなノリから話が発展した!?」

「真面目な話さ、やりたいことがあってもこの島の面積って限られているわけじゃん。それに皆の間で利害が衝突することだってあると思うし。割と整理するのはありだと思うよ」

「じゃあ……やる?」

「とりあえず重要な話だから……みんな、この机に集まろうか」








 もぞもぞ




             もぞもぞ








「そういえばさ、これってどっちが一番上なんだ?」

「正円だからそんなのないわよ」

「じゃあ今アーサーが座っている所が上な」

「何故オレなんだ」

「いや、こん中だとオマエが一番王様って感じするじゃん?」



 そう言われ改めて、全体を見回してみる。


 こうして全員で卓を囲むという行為は、少々不思議な気分にさせてきた。



「……『円卓の騎士』の逸話か」

「そうそれ。皆で丸い机囲んで、話し合いはそれで行ったってやつ」

「騎士と騎士王の間には、身分も隔たりも存在しないという意味があり、それで有名な逸話だな」

「言われるともうそれにしか見えない……」

「まあ騎士王と名前が一致しているしねえ」

「……」




 僅かながらヴィクトールのことを意識するアーサー。


 武術戦が終わっても、その過程で得た情報はなくならない。


 彼は自分のことを今どう思っているのか――






「……議題の発案者はエリスだぞ」

「えっ、こっちに振るの? まあいいけど」

「進行も貴様がやった方がいいと思うが……できるか?」

「んー……流石にメモする人は別に任せたいかな。カタリナ、いいかな?」

「え、あ、あたしでいいの?」

「うん。だってカタリナって字綺麗だもん」

「……」




 いそいそとペンと紙を取り出すカタリナ。


 その準備ができたのを見て、エリスは手を叩いて喋り出す。




「じゃあ記念すべき第一回円卓会議を始めまーす」

「いえーいぱちぱち」

「さらっと命名してやがる」


「第一回の議題は『この島でやりたいことは何か』です。とりあえず、挙手して適当に言っちゃってくださーい……」






 この後の会議は、何事もなく進行。そして日が暮れた後、それぞれの部屋に戻っていったのだった。

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