第247話 打ち上げ
「つーわけで!!」
「皆様!!」
「「「お疲れ様っしたあああああああああーーーーー!!!」」」
グレイスウィルに帰還した翌日の土曜日、カーセラムにて。
エリスとアーサーその友人八名大集結。先んじてグラスとグラスがぶつかり合う、心地良い音が響く。
それから数秒程ごくごくと飲み下していき――
「あ゛あ゛~うんめぇ~。バブリーオレンジジュースクソうめ~~~」
「麦酒に見えるわよね、これ」
「は??? バブリーオレンジジュースだけど???」
「もういいわかったわ黙りなさい」
乾杯を待ち兼ねたかのように、頼んだ料理が続々届く。
「へいお待ちどう! まずは山盛りフライドポテトでごぜーます!!」
「あいよー!!」
「続いてこちらがチョコレイト・フォンデュでございます!! チョコレイトが大変お熱くなっていますので、よーく気を付けてくださいませー!!」
「お待たせしましたこちらミートドリアー!!」
「わわっ、机に入らない……!!」
机を占領していた鞄を、全員揃って慌ててソファーに置く。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか!!」
「以上でよろしいです!!」
「はい!! ではこちらに伝票置いておきますんで、食い逃げすんじゃねーぞこんにゃろー!!」
店員が騒々しく立ち去った後、伝票を覗いてみる。
「……!!」
「エリス? 大丈夫?」
「……う、ううん。ちょっと眩暈がしたけど、これ、割り勘だから……」
「なんぼになったん?」
「六千ヴォンド」
「じゃあ十で割って六百だな!! 安い!!」
「ううーーーん……」
「悩ましい顔しないでリーシャ……」
「何ならこのイザーク様が奢って差し上げましょうかあ~~~!!!」
「いい。何かムカつくから」
「ひょーーーー!!! 何も聞こえねえぜ!!!」
「誰よコイツに酒与えたの」
「バブリーオレンジジュースによる想像泥酔?」
「パンダかよ」
「白黒可愛いまんまるおめめ系男子イザークちゃぐえええええええええ!!」
ハンスにホットサンドを乱暴に突っ込まれ、ようやく収まるイザーク。
「……ぼくとしてはこんなくそみたいな店来たくなかったんだけど」
「ハンス、ペペロ、食べる。美味しい」
「ああ、ペペロンチーノね……」
「から~。でも、美味しい。おれ、好き」
「……」
ハンスがパスタをちまちま食べる横で、フォンデュしまくる女子五人。ナイトメアも呼び出しお口にチョコレイト。
「うおおおおおお!! 食うぜー!!」
「やると思った。クラリア、これはチョコレイトフォンデュなんだから、チョコをつけろチョコを。そのまま食べるな」
「うおおおおおお!! フォンデュしたヴァ・ナーナうめええええええ!!」
「これほどまでに質の高いヴァ・ナーナを……」
「南の熱帯でしか育たないから、アルブリアまで持ってくる間で腐っちゃうんだっけ」
「そうでございます、お嬢様。やはりここのおやっさんとやらは只者ではございませんなあ」
「なんかねー、ヒルメ先輩が言ってた。ポテトチップを浸しても美味しいんだってー」
「まったまた~。エリスちゃんったらご冗談を」
「だったら実験してみようよ」
「俺を見るな俺を」
「いちご煮食べられたんだからいけるいける!」
エリスは数枚のポテトチップを浸した後――
小皿に取り分けてヴィクトールに渡す。
「……」
「無理ならオレが代わるか?」
「任せる」
「むー、つまんないの」
「何故そうなるんだ」
「だってアーサーって何でもやるじゃん。恐る恐る食べてるのが楽しいのに」
「……はぁ」
程よく冷め、チョコでコーティングされたポテトチップを一枚。
「ん……確かに、いい味わいだ」
「え、ほんとに?」
「チョコの甘みがポテトチップの塩で中和されているんだ。対極な味が一度に味わえて、深みが堪能できる」
「なっるほど~。それなら私もやってみよっと!」
「スノウもたべたいのです!」
ソファーからぴょんぴょん飛び跳ね、足をぱたぱたさせる。そんなスノウを見てハンスが直ぐに給仕に入る。
「ほらよ雪だるま。さっさと食いやがれってんだ」
「ありがとうなのでーす!」
「……ひやあ!?」
熱々のポテトチップを口にした瞬間、彼女は驚いてぴょいと飛び退き、そのまま床下にまで落ちていった。
「ぎゃはははははは!! びびってやんの!! おっもしれー!!」
「ちょっと、ハンスったら酷いよ~。スノウが熱いの苦手ってこと、わかっててやったでしょ!」
「てめえはぼくのご機嫌を取れたんだぞ? それだけでも有難いと思いやがれ」
「ねーねーハンスこれ食べて!」
「何だよくそ茶髪キモいなあ」
毒を吐きながら、それなりに気分がよかったハンスは、躊躇いなくフライドポテトを口に一本入れる。
「ああああああああああ!!! ぎゃあああああああ!!!」
「うっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!! 愉快愉快!!!」
「ヘルブレイズチリパウダー……」
「何でこんなに辛いの頼んだんだよてめえ!!!」
「面白いもんがあったら頼むのが常!!! そしてたっぷりかけまくった後魔術で隠しておいたんですうっええええええい!!!」
「てめえ許さねえ!!! あ゛あ゛!!! がらい゛!!!」
「ハンス、水」
「魔術の使い方を間違っているな……」
賑やかに食べていくこと一時間――
「さて、あらかた腹も膨れてきたところでぇ」
「今回の感想を言い合いましょー!!」
イザークとリーシャに続いて、他の全員も拍手喝采。
「じゃあアーサーからどうぞ」
「オレか……」
「時間かかる?」
「いや……もう決まった。言わせてもらおう」
手を組んで机に置いた後。
「今回、オレは皆と戦えて嬉しかったし、楽しかったし、為にもなった。本当に、感謝している」
そしてテーブルのぎりぎりまで、深々と頭を下げる。
「……」
「……~~~~!!」
「こいつ……痙攣しながら照れてやがる……」
「あひぃ恥ずかしいよぉ!!」
「じゃあイザークはスルーでいっか」
「待って!! 言う!! 言うから!! ほらこの通りビンビンしてる!!」
「やる気があるなら態度で示せ。ソファーに足を乗せるな」
「ハイ」
ヴィクトールの腕が振り下ろされる前に、しゅんと縮まるイザーク。
「え~……まあね! めっちゃ疲れたけど、めっちゃ頑張った! たまにはこんなのもありなんじゃないかって思ったわ! うん!」
「今回の経験を次に活かせるようにな」
「それはわっかんない!」
「……」
呆れた溜息をつきながら、ヴィクトールはルシュドに視線を向ける。
「貴様の番だぞ」
「お、おれか。えっと、強いの、いっぱい。訓練、いっぱい。ご飯、美味しい、いっぱい。天幕。全部、楽しい。かった。です。おしまい」
「ルシュドは心の底から楽しんでいるようだったよね~」
「へへ……」
「やだぁ可愛いっ。あ、次クラリアね」
「んあ? 呼んだか?」
「今の今までフォンデュに夢中だったぞ」
「対抗戦の感想を簡単にどうぞー!」
「わかったぜ! 父さんや兄貴達、レイチェルさんにも久しぶりに会えたし、普段とは違う環境での戦闘は楽しかったぜー!」
「はーいありがとー。お礼にパンどうぞ」
「いただくぜー!!」
すかさず受け取りチョコに浸す。
「で、敢えて最後にしてあげたわけだけど」
「ああ……」
ごほんと咳ばらいをしてから、ヴィクトールの番。
「えー……貴様等。この度は武術戦、誠にご苦労だったな。貴様らの尽力が無ければ、このような結果は残せなかったと思う。その……」
「……俺のくだらん意地に付き合わせてもらって、悪かったな」
罰が悪そうに顔を俯ける。
「……いいって今更そんなことー!!!」
「アタシも悔しかったから結果オーライだぜ!!!」
「あいつ、いない。でも、おれ、頑張る、する。それだけ」
「……まあそうだな。お前も学んだことはあるだろうしな」
照れ隠しにそれぞれ料理をつまみながら、武術戦の功労者達は言う。
「……」
「そうだな……ごほん」
「……次は十月。今回戦わなかった、貴様等の番だ」
視線が奥の方、エリス達に向けられる。
「ん?」
「どしたのリーシャ」
「今気付いたんだけど……魔術戦や総合戦でもあいつに会うんじゃないの? 生徒会長なんだし」
「あ……言われれば確かに」
「何か今回で雌雄を決するみたいな勢いでいたけど」
「それについてはどう考えてやがるんだよ」
目を丸くするヴィクトール。
数十秒待った後に彼は続けた。
「……貴様等もわかっているとは思うが。彼奴は一片の傷すらも許さない、高潔な奴だ」
「それに黒星を叩き付けてやれたことは……非常に大きいと思っている。そ、それに、その……」
ここ一番の俯き加減で。ここ数ヶ月一番の、照れ模様で。
「俺は……ケルヴィンにいた頃は、彼奴に勝てたことが一度もなくてな……」
肩を震わせる。
その次に、肩がガクガクと揺らされる――
「……ぬおっ!?」
「な、ん、だよぉ~~~~!!! オマエ、そういうことはもーっと早く言えよな~~~~!!!」
「ぐぬぅ……!!」
「嬉しいんだろ!? 今までどうしても勝てなかったヤツに勝てて、めっちゃ叫び回りたい気分なんだろ!?!?」
「……」
「だったら叫ぼうぜ~~~!!! ボクが叫ぶから、オマエもその後に続けろよな!!!」
「イザーク、もうそれぐらいに……」
「はいよっ!!!」
ぱっと手を放す。身体が放り出され、隣にいたアーサーに寄りかかった。
「ぐっ……大丈夫か?」
「……少し揺さぶられたな。水をくれ」
「すみませーん!! ライムの果実水一リッター追加でー!!」
「何故そうなる!?」
「オマエも一緒に騒ぎ立てるためだよっ!!」
「ついでにフォンデュのお代わりも頼んじゃおうか~」
「うおおおおお!! 賛成だぜ!!」
各々がメニューを引っ張り出し、開こうとする。
「……あ、待って。業務連絡」
俗に言う二次会が始まろうとした所で、ここまで黙々と食事をしていたサラが右手を小さく上げ、視線を集結させた。
「ん? 何すかサラ先生?」
「いや、思い出したんだけど……例の島、一ヶ月ぐらい放置してたわよね」
「……あ」
「……え、それって大丈夫?」
「ワタシ達が来る前から環境が整っていた様子だったから心配ない。筈だったんだけどね」
「何その言い方」
「ワタシ達が来て、手を加えた今はどうなってるかわからないってことよ。まあ問題ないとは思うけど……それで、よかったらこの後見に行かない?」
「んー……」
鳥の絵が施された、壁掛け時計を見遣る。
「今は午後二時。まだ時間はあるね」
「どうせぼちぼち行くんだから、今行っても大差ねえな! 皆で行こうぜ!」
「ぼくは別に……」
「おれ、行く」
「行ってもいいよ!!! ふん!!!」
「アタシも混ぜやがれー!」
「あたしも……断らない理由がないし」
「私もカタリナに同じぃ!」
「わたしも勿論行くよ。アーサーもいいよね?」
「無論だ」
「……俺も行かないと駄目か」
「駄目に決まってるでしょうが」
こうして、この後の予定も決まった後――
追加の注文を行い、結果一万にまで跳ね上がった会計に卒倒する面々なのであった。
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