第8話
「あんか。ソネ婆の孫?」
「はい」
「へえ、ソネ婆、孫いたんねえ」
男――渡良は目を細めて行火を見た。ソネを知っている。なら、やはり近所に住んでいるんだろう。
「越してきたん?」
「いや、夏休みの間だけ、こっちに」
「帰省?」
「まあ、そんなところです」
ふうん。茶色い犬の耳の後ろをかいてやりながら、渡良は返事をよこす。行火はすばやく二回、まばたきをする。メガネのレンズに音もなく起動画面が浮かび上がる。ブリッジに仕込まれた装着型カメラが渡良の顔を捉え、インターネット上から個人情報の収集を始める。
「行火、ここに来たの、いつ?」
ふいに訊ねられて、行火は思わずいじっていた端末を取り落としそうになった。
「え、っと、来たのですか?」
「おん。ついさっき?」
「五分くらい前ですかね」
質問の意図がわからずに、行火はあいまいに答える。男はまたふうん、と生返事をして黙り込んだ。なんだこいつ。疑念が胸に湧く。信用ランクの結果はまだ出ない。考えたくはないけれど、もしかして、悪いやつなんだろうか。
「なあ、行火。あの、いきなりな話で、あれなんっちゃけどな」
『簡易診断終了。姓:非公開、名前:ワタラ、性別:外見男性、年齢:非公開。心拍、体温、脳波パターン:HUMAN。ブラックリスト:一致無し。所属:該当なし』
渡良の声が耳に、端末AIからの報告文がレンズに届く。
「行火、おれのアンカーになっとくれんか?」
『信用ランク、相性:ともに不明。要注意人物です』
行火はそっと息を飲む。目の前の、要注意人物と診断された青年は、思いがけず真摯なまなざしで、行火の返事を待っていた。
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