第32話 最後の言葉
□
「間違いなく【ノルニル】!」
ウィルが持つ光り輝く剣を視認すると、ガルムは威勢よく放った。そして走る速度を上げた。
「やめろ」
背後からやってくるガルムに対してニーズヘッグは背を向けたまま右腕を伸ばして彼女の行動を制した。
ガルムはニーズヘッグの隣で急停止した。
「は? 寝言は寝て言え!」
「これを見ろ」
憤るガルムを無視して切り落とされた左腕を突き出した。
「【ノルニル】にやられたものだ。不死身であるはずの俺に傷を残した。これが【ノルニル】の力だ」
「てめえが弱いだけだろ!」
ガルムの態度に、ニーズヘッグは怒り心頭に発して睨みを利かせた。
「馬鹿も休み休み言え」
静かな口調から発せられた言葉には凄味があった。
流石のガルムも気圧され押し黙る。
「理由は分からないが『グラム』は俺たちを敵視している。そんな状況で手に入れるのは難しいだろう。だから撤退する」
多少の冷静さを取り戻したニーズヘッグが続けた。
ガルムは動揺したまま小さく「あぁ」と同意した。
それからニーズヘッグはウィルに向き直った。
「というわけで少年、俺たちはこれで失礼する」
そして明るい笑みを浮かべて手を振った。
「『グラム』はまた次の機会に貰い受ける。それまで預かっててくれ」
いつもの調子を取り戻したガルムは、ニーズヘッグの言葉に対して舌打ちした。そして右の拳を勢いよく地面に撃ちつけた。
辺りは地面が抉れる轟音と土煙に包まれた。
暫くして煙が晴れると二人の姿は無くなっていた。
□
ウィルはニーズヘッグとガルムが去ったのと同時に緊張の糸が切れて膝から崩れ落ちた。前に倒れそうになる体を両腕で支える。
手が離れた
疲労感で体がとても重い。
そのせいで四つん這いの体勢から動くことができない。
額から流れる大量の汗が地面に滴り落ちる。
徐々に荒くなる呼吸に、喉の渇きを感じた。
戦いに集中していたせいで、限界を迎えていたことに気付かなかったのか。
(私をただの剣として扱えと言っただろう)
グラムの声が脳内に響いた。
(だが、あの状況でコントロールしろというのは無理な話だったか……)
一体なんのことを話しているのか、ウィルは訊ねたかった。
しかし頭が働かない。
それどころか意識が遠のいていく。
(敵が去ったのは不幸中の幸い。お前はよくやった)
遂には腕の力もなくなり、その場にうつ伏せで倒れた。
横たわるグラムが目に入った。しかし視界が徐々に朧げになっていく。
(スレールを頼んだ)
その言葉が聞こえたのと同時に意識を失った。
それがグラムの最後の言葉だったと知るのは一週間後のことだった。
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