第30話 天に届く七色の光

   □


 剣の姿になったグラムが泉に向かい、ガルムがそれを追ったことで逃げる必要のなくなったフェイはその場に留まり、泉に向かおうか思案していた。


 フェイの背に乗るスレールは泉の方角に目を向けていた。その目からは涙が流れ続けている。


「とりあえずここで様子を見るか。良いな、スレール」


 声を出さず静かに泣いていたスレールの状況がフェイには分からなかった。だから何も答えない彼女の態度に疑問を抱いた。


「連れてって」


 それから暫くして、ようやくスレールが口を開いた。


「私、グラムにちゃんとお礼を言ってない。もう手遅れかもしれないけど、それでもまだ間に合うなら『ありがとう』を言いたいの」


 スレールは涙を拭った。


 フェイは泉に向かいスレールに危険が及ぶことを危惧し、返答を躊躇った。そして彼女の様子を見るために自身の背に目を向ける。

 スレールと目が合った。

 涙で潤んだ彼女の目に、はっきりと意思が宿っているのが分かった。


「何があっても知らねえぞ!」


 フェイは勝ち目のない相手に、スレールの身を守るために立ち向かう覚悟を決め、そして彼女の意思を尊重することを選んだ。

 スレールは「ありがとう」とフェイの背を優しく撫でた。


   □


「まさかそっちから出向いてくれるとはな!」


 ニーズヘッグは頭上に浮かぶ白い光を帯びる剣を見て、笑みを溢した。足に力を入れて跳ぶ姿勢に入ろうとした瞬間、グラムから光線が放たれた。後方へ軽くジャンプして難なく回避したが、この攻撃でグラムに対して違和感を抱いた。


 グラムはニーズヘッグが後方へ下がったのを確認すると攻撃を止めた。そして剣身を上向きにしてウィルの傍までゆっくりと降下した。


「グラム……何故……」


 満身創痍のウィルは声を出すのもやっとだった。


(スレールを守るためだ。あのタイミングで動かなければ皆死んでいただろう)


 その問いかけにグラムは自分の意識をウィルの意識と結合し、直接語りかけた。


(心配するな。それよりも私を使い、やつを倒せ。この姿でも自由に動けるが小回りが効かない。先ほどのように回避されるのがオチだ)


(でも俺は『咎魔術師シンナー』だ。【ノルニル】は使えない)


 意識を結合したことでウィルもグラムの意識に直接話しかけることができた。


ノルニルには元から魔力が備わっている。そして私は私の意思で力を発動できる。だからお前は私をただの剣のように扱い、機動面をカバーするんだ)


 ウィルは煌々と輝くグラムを見て、自身の非力さを呪った。自分に敵を倒す力があれば違う未来が訪れていただろうと。


(今は余計なことを考えるな。なんのために私がここへ来たと思う)


 そうだ。

 グラムの言うように、ここで何もしなかったらそれこそ自分を許せなくなる。

 ウィルは余計な思考を止めた。そしてグラムの意思を受け取った。

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