第29話 白い閃光
□
元の姿に戻ったグラムには自我がまだ残っていた。
小屋内部を創造した力を自身に戻したことで、自我を失うまでの時間の猶予が生まれることをグラム自身は理解していた。
両刃の切先を前方に向けて空中を移動した。
白い光を放つグラムの軌跡には光の筋が残り、それは時間と共に拡散し消えていった。
その光景がスレールにとっては幻想的で神秘的だった。
「グラム、がんばれー!」
思わず魅入ってしまったスレールはそこから目を離し、グラムに声援を送った。すでにその姿は見えなくなっていたが、精一杯の声を張り上げた。
スレールの声はグラムに届いていた。
グラムはその声に後押しされ、速度を上げると泉へと急いだ。
「!?」
頭上に白い光を捉えたガルムは足を止めた。そしてその光がグラムであると直感し、そのあとを追った。
□
ニーズヘッグは体が完治してすぐにウィルとの間合いを詰め、接近戦に持ち込んだ。ウィルに【魔術式】を形成する思考の時間を与えないように多くのフェイントを交えた。
思惑通り、ウィルの頭はニーズヘッグの攻撃を処理することに使われた。
ウィルはニーズヘッグとの距離を取りたかった。しかしいくらその場から離れても磁石のようにくっ付いてくる。
悪戦苦闘する中、ニーズヘッグが手加減しているのが分かった。本気であればすでに殺されているだろう。手加減されていてもすべての攻撃を回避、防御することはできずダメージが蓄積していった。
「少しスピードを上げる!」
ニーズヘッグは笑みを浮かべ、そう宣言するとウィルの腹部に鋭い蹴りを入れた。
ウィルはそのあまりの速さに反応できなかった。防御することもできず、もろに攻撃を受けてしまった。勢いよく吐血し、意識が飛びそうになる。
そこに再度、腹部に拳が入れられた。突き上げるように放たれた拳はウィルの体を宙へ飛ばした。
ニーズヘッグはウィルに向かってジャンプすると両手を組み、そのまま腕を振り上げた。そして空中で仰向けになるウィルの胸部へと振り下ろした。
ウィルは背中から地面に叩きつけられ、頭を強打すると多量の血が吹き出した。
「大したやつだ。ここまでやっても意識を保ったままとは」
華麗に着地したニーズヘッグは、必死に起き上がろうとするウィルのもとへ向かい感嘆の声を上げた。しかしすぐに訝しげな表情を見せた。
「それにしても少年、『
薄れゆく意識の中、ウィルはかろうじてその言葉を聞き取った。
「まさかとは思うが、悪魔からすべての力を貰ってないのか?」
「どういう……」
ウィルの声は少量で、ニーズヘッグには届かなかった。
「人間と一緒にいる物好きな悪魔だ。契約者に情が移ったのか……。それは優しさとも捉えられるが、そのせいで少年は死ぬ。彼が死ねば自分の欲しい物も手に入らない。本末転倒だな」
ニーズヘッグはしゃがみ込み、ウィルの首を掴んだ。強制的に起き上がらせるとそのまま持ち上げた。地面から足が離れたウィルの四肢は力なく垂れ下がっている。
「楽しかったよ」
ウィルの首をゆっくりと締めていく。
抵抗する力のないウィルは死を受け入れるしかなかった。
その時、一筋の光が二人の間を通過した。
ニーズヘッグは咄嗟にその閃光を回避したが、反動でウィルから手を離した。
その場に仰向けに倒れたウィルは光が放たれた先に目を向けた。
そこには白く輝く十字型の剣が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます