第27話 グラムの選択

   □


「私、飛んでる!? フェイ、大きくなれるの!?」


 強引に小屋から連れ出されたスレールは、フェイの背に乗せられた辺りで完全に目を覚まし、今の状況に興奮した。


「空のお散歩?」


 隣に座るグラムに訊ねた。


「危ないから顔を出さないように」


 グラムは柔和に微笑んだ。そしてスレールに現状を勘付かせないよう「空のお散歩」を装った。

 フェイの真下には雑木林の中を駆けるガルムがいた。

 襲ってくる様子は今のところない。だからと言って悠長にしている場合でもなかった。


 グラムは小屋内部に創り出した空間を解除した。今後、戦いになった時のことを考え、空間創出に使用した力を自身に戻したのだ。

 そして泉の方に目を向け、【ウィアド神の力】を発動した。千里眼の力で木々などの障害物を透視し、ウィルの様子を視た。

 グラムは唖然とした。

 ウィルが手も足も出せず、一方的にやられている姿が飛び込んできたのだ。

 命の灯火が消えかかっている。


「グラム、どうしたの? 具合悪くなった?」


 明らかに動揺し、強張った表情のグラムにスレールは心配した。

 グラムはスレールを安心させようと即座に表情を明るくした。しかし大きな揺れが起こり、それは叶わなかった。体勢を崩したスレールが落ちないように姿勢を低くし彼女を抱きしめた。


「攻撃してきたぞ!」


 フェイはグラムに告げた。

 真下にいたガルムが木に登り、常人離れした跳躍でフェイの腹部に蹴りを入れたのだ。

 飛びつかれなかったのが不幸中の幸い。

 攻撃後、ガルムは落ちていった。


「攻撃? どういうこと?」


 不安そうな顔でスレールが訊ねた。


 グラムは悩んだ。


 このまま事態を隠し続けることは困難。対応の判断が遅れれば遅れるほどスレールに危険が及ぶ。それどころかウィルやフェイの命まで危うくなる。

 意を決したグラムはスレールの両肩を掴んで正対した。


   □


「スレール、こんな時にすまない。しかし私が動かねば皆が死ぬことになる」


「何を言ってるの? 私が動くってどういう……。それに『私』? いつものグラムじゃないみたい……」


 グラムの態度に不安が募るスレール。


「出会った時に言うべきだったのだ。私のことを。そして君と過ごす時間が期限付きだということを」


「期限……。グラム、どこかに行っちゃうの?」


 今にも泣きそうな顔をするスレール。

 グラムは彼女の様子を見ていられず目を伏せる。


「私は……」


 それでもグラムは自身の正体を明かそうとした。しかし言葉に詰まってしまった。苦悩に満ちた表情に額からは汗が浮き出てくる。


 その時、スレールがグラムの両手を取った。

 思わず顔を上げるグラム。

 先ほどまで泣きそうになっていたスレールの顔は穏やかで、優しい笑みを湛えていた。そっとグラムの手を自身の両手で包み込んだ。


「グラム、私は大丈夫だよ」


 スレールの言葉にグラムの目は見開いた。

 そしてスレールと出会った時のことを思い出した。

 一人ぼっちだった自分に手を差し伸べてくれた時のことを。


「ああっ……」


 グラムは静かに涙を流した。

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