第24話 動き出す
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背後にある小屋から大きな物音が聞こえた。
交戦中のウィルとガルムは互いに手を止め小屋の方へ目を向けると、巨大化したフェイが小屋の窓から外へ飛び出す瞬間だった。高く飛び上がったフェイはその場でさらに五メートルほどに大きくなり、スレールとグラムを自分の背に乗せて雑木林の方へ飛んでいった。
「あの魔獣の上に『グラム』がある!」
フェイが飛び出したのと同じ窓からニーズヘッグが顔を出した。ガルムは瞬時にフェイを追いかけ、雑木林の中へ入っていく。
ウィルはその後を追おうとしたが、ニーズヘッグに行く手を阻まれてしまった。
「少年の相手は俺だ」
ニーズヘッグは不敵な笑みを浮かべた。
ウィルは彼の背後に広がる雑木林を一瞥してから、これまでの出来事とこれから自身がすべきことを思案した。
ニーズヘッグとガルムは【ノルニル】の一つであるグラムを手に入れるためここに来た。
小屋の中でニーズヘッグと対峙したグラムとフェイは彼らの目的を知り、グラムを彼らの手の届かない上空へ連れ出した。
スレールが一緒だったのは小屋の中で彼女の身に危険が及んだためだろう。
ガルムが風を操る魔術––––〈
百パーセントではないが、現時点でグラムがガルムに奪われる心配はない。
となれば自分がやるべきことは、フェイが彼らに見つからないよう隠れるまでの時間を稼ぐこと。
そのためにはやはりガルムを追い、足を止めなくてはならない。
(そうするにはこの男と戦い、隙を作る必要がある……)
正直、ニーズヘッグに勝てる可能性は低い。先程のガルムとの戦闘において実力差を思い知った。ニーズヘッグもガルムと同等の力を持っているだろう。
(勝つ必要はない。一瞬の隙でいい。林の中に入ることができれば身を隠しながらあの女を追える)
ウィルは戦闘態勢を取った。
「やる気があってよろしい。でもな、俺には勝てないぜ。お前もすでに理解してるはずだ」
ニーズヘッグは構えることもせず、じっとウィルを見つめた。
「やってみないと分からないだろ?」
ウィルは意図を悟られないよう、本気で戦う意思を見せた。
「俺は強いぞ。悪魔に懐柔された『
「悪魔に懐柔された覚えはない。俺は俺の意思であいつといるんだ」
「ぷっ。変わり者だな」
ニーズヘッグは肩を竦めながら呆れたように溜息をつくと口元から笑みを消し、真剣な目つきをした。
「ガルムと戦って立っていられるやつは少ない。お前は強いよ。殺すが惜しいくらいだ。でもな、仕方がない。次の人生で悔いなく生きろ!」
そう続けると、大きく口を開けて嬉しそうにウィルに向かって駆け出した。
ウィルは迎え撃つために身構えた。直後、ニーズヘッグの姿が消えた。一瞬のことに何が起きたのか思考した瞬間、姿勢を低くしたニーズヘッグが懐に入り込んでいるのが目に入った。そして腹部に重たい一撃を撃ち込まれた。
ウィルの体は勢いよく後方へ飛んでいき、そのまま泉に落ちていった。
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