第21話 闖入者
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フェイは小屋にある丸テーブルの上で目を覚ますと、視界の霞みを取るため目を擦った。
辺りを見回すとウィルの姿がないことに気付いた。
寝惚けた頭が徐々に覚醒を始める。
外の空気を吸おうと大きな欠伸をしながら窓を開けて愕然とした。
泉と雑木林の間に広がる、背の低い雑草が茂る緑の景色の所々で、掘削されたように地面が剥き出しになっていたのだ。
「なんだこりゃあ!?」
不意に完全覚醒したフェイは声を上げた。
すると視界の端にウィルの姿が入り込んできた。そしてウィルを追いかける女の姿があった。
女はウィルとの間合いを詰めると大きく拳を振り下ろした。そしてまた一つ掘削された跡ができる。
「何者だ、あの女……」
「そのまま小屋の中にいろ!」
呆気に取られているところにウィルの声が聞こえた。同時に女と目が合う。
女は狂気に満ちた笑みを湛え、一方的にウィルに攻撃し続けていた。
フェイは居ても立っても居られず、ウィルのもとへ飛んで行った。
「朝っぱらから何が起きてんだ!?」
「こいつらは『グラム』を狙ってここに来たんだ。だからお前は小屋に戻ってそのことを伝えろ。小屋から出なければ安全だ」
ウィルは女––––ガルムの攻撃を寸前で回避しながらフェイに告げた。
「グラムが許可しない者は中には入れないってやつか。わかったぜ!」
フェイは即座に理解して小屋に戻っていった。
□
ウィルとフェイのやりとりを遠目で見ていたニーズヘッグは、フェイが小屋に戻っていくのを確認すると、内部に【ノルニル】の一つグラムがあると推測した。
自身の勘の良さに笑みを溢すとズボンのポケットに両手を突っ込んで小屋に向かって歩き出した。そして殴るばかりの単調な攻撃をするガルムを一瞥して溜息を漏らした。
「ああはなりたくないな」
□
「大変だ!」
窓から小屋に戻ったフェイはそのままグラムの部屋に直行した。
グラムはすでに状況を把握しているようで、部屋の窓から外の様子を眺めていた。
「分かっている。お前の考える通りこの小屋にいれば安全だ」
グラムの言葉に胸を撫で下ろすフェイ。
「お前を狙ってここに来たってあいつは何者だ?」
「私にも分からない。もう少し近づいてくれれば頭の中を覗くことができるのだが……。それよりもスレールの様子は?」
「そうだった!」
フェイは慌てて隣のスレールの部屋に向かった。そして呆然とした様子で戻ってきた。
「すやすやと寝てたぜ……」
窓や入口のドアを開けない限り、ガルムの攻撃が生み出す轟音が小屋の中まで入ってくることはなく、スレールの睡眠が妨害されることもなかったようだ。
「この状況でスレールが起きないのは不幸中の幸いか」
グラムは安堵し、深く息を吐き出した。
しかし、その表情は一変した。
小屋の入口のドアが開いたのだ。
今、外にいて、そのドアを開けられる者はウィルのみだが、当人は依然ガルムと交戦している。
ドアを開けた者が中に入った瞬間、その者の心中を把握した。
「何者なんだ……」
男の正体が自分の知り得ない存在であると知り、困惑の色を強くしたグラムは、固唾を飲んで開きっぱなしの自室のドアに目を向けた。
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