第17話 夜の泉で

   □


 ヤルルの町で購入できた食料は二日分だった。一週間分を確保しようと考えていたのだが、想像以上に町には何もなかった。

 その夜、買ってきた食材を使ってスレールがシチューを作ってその日の食事とした。


   □


 スレールとフェイが寝静まった頃、ウィルは泉のほとりに座っていた。

 晴れた夜空に月が浮かんでいる。

 水面に月が映り込んでいるのをウィルは見つめていた。月明かりが辺りを青白く照らし、時折吹く風が木々の葉を揺らしカサカサと音が鳴った。

 目を閉じて自然が作り出す音に耳を傾ける。

 

 スレールに自身の過去を話した時から、不意に思考の中に過去の記憶が流れ込んできた。


 一人ぼっちになったのは今から八年前。

 凄惨な光景は今でも鮮明に思い出すことができる。

 しかし苦悩することはなかった。

 すでに過去の出来事と割り切ることができたからだ。

 過去を思い出す時、それが嫌な記憶だったとしても、無理やり楽しかった記憶に切り替える。

 そうすれば自然と自分の両親や友達のことを思い出す。

 彼らのことを思い出せば、彼らが生きていたことを再確認できた。


「ウィル?」


 ウィルが当時の楽しかった記憶に微笑んでいると背後からスレールの声が聞こえた。


「眠れないの?」


 スレールはウィルの隣に座った。


「月明かりがきれいだから眺めてたんだ」


 ウィルは昔のことを思い出して目が冴えたことを伏せておくことにした。


「確かにきれいだね」


 スレールは微笑みながら月を見上げた。しかしすぐに視線を落とすと浮かない顔をした。


「ごめんね」


「なんのことだ?」


 スレールが謝る理由に、ウィルは心当たりがなかった。


「お昼に復讐について話したでしょ。それでウィルが昔のことを思い出して眠れなくなっちゃったのかなって」


「そんなこと考えてたのか。そんなんじゃないから気にするな」


 ウィルはスレールの勘の良さに呆気に取られた。しかしスレールに無用な気を使わせるつもりはなかった。しかしスレールの顔は晴れなかった。


「私が町でウィルに声をかけたのは、私と同じ境遇だったからなの。お互い両親を亡くしてるから、変な親近感みたいのを持っちゃって。最低だよね。大切な人が死んだのに。それを理由にして……」


 スレールは膝を抱き抱えると顔を伏せた。

 普段は強気で無邪気な少女もその内はとても繊細だった。

 しかし、それは相手を思いやる気持ちがあるからこそ生まれる感情。

 両親を殺された経験から自暴自棄になっていたかもしれない。それでも彼女がまっすぐに育ったのは生前の両親の教育の賜物であり、彼女自身が持つ素質によるものだろう。


 ウィルはグラムが言うスレールの強さを少し理解したような気がした。


 ウィルは落ち込むスレールを元気付けようと彼女の頭に手を乗せるとそのまま髪の毛をくしゃくしゃにした。

 不意の出来事に悲鳴を上げるスレール。


「何するのよ!」


「どんな共通点だろうと俺たちが知り合うきっかけになったんだ。だから気にするな」


 スレールは静かに頷き微笑んだ。

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