第15話 別の方法

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 纏戟てんげきとは、魔力に反応する鉱物––––魔鉱石まこうせきで作られた武器のことである。魔術師が【魔術式】を通して自身の魔力を注ぐことで使用できる。

 【ノルニル】は神の纏戟と呼ばれ、構成されるすべての物質は、神の世界にのみ存在すると言われる特殊な魔鉱石。

 人間の世界にある物とは似て非なる物質のため、【ノルニル】の使用者が熟練の魔術師に限定される要因となっている。


 【ノルニル】は神の

 ウィルはそこに目をつけた。

 グラムから提示された『解決方法』では人間としてのグラムは消え、元気になったグラムと暮らしていきたいスレールの願いは叶わなくなる。それどころか彼女が一番望まない結末を迎えることになる。

 だからウィルは思案した。そして導き出したのだ。


「【ノルニル】のあなたになら魔術師は自分の魔力を付与できる。そうすれば失いつつあるあなたの魔力を補充できるってわけだ」


「なるほどな! お前天才だな、ウィル」


 フェイは感嘆の声を上げた。しかしすぐに渋い顔をした。


「でもよ、お前には無理じゃねえか。『咎魔術師シンナー』のお前には……」


 悪魔であるフェイと契約したウィルは纏戟を使えない。詳細に言えば魔鉱石に魔力を注ぐことができない。

 魔鉱石は神の世界から人間の世界に分け与えられたものであり、悪魔は嫌われているのである。


「だから事情を説明してここへ魔術師を連れてくる。『魔術協会』に属していない者を」


 ウィルはすぐに代替案を伝えた。


「あいつらに気付かれたらすぐに回収されちまうもんな」


 フェイはグラムを見た。

 『魔術協会』は【ノルニル】を探し、発見しては回収している。もしここに『魔術協会』の息がかかった者を連れてくれば、フェイの言う通りになることは必然だった。


「だから魔術師探しの移動にはお前を使う」


 ウィルの言葉に「ハッ!?」と羽を広げるフェイ。


「マジかよ!」


 フェイは露骨に嫌な顔をした。


「この町に魔術師はいないだろうから隣町で探すしかない。馬車の手配所もないから、馬車を使うには『魔術協会』の窓口を使うしかないが使うと勘繰られる可能性も出てくる。『グラム』が見つかるリスクは少しでも避けたいんだ」


「疲れるが、しょうがねえな」


 フェイは力んだ表情をして覚悟を決めた。


「話を遮るようで悪いが––––その方法には無理がある」


「何ぃ!? どういうことだよ」


 グラムの言葉にフェイは大仰に羽をばたつかせた。


「私の魔力の総量は一万人の魔術師が十年かけて補充しても溜まり切らないほど膨大だ。一人や二人の魔術師が私に魔力を注いでも現状と何も変わらない」


「それでいいんだ。現状、あなたはその姿とこの空間を維持している。その状態が続けばいい」 


 ウィルは言い切った。


「問題を先送りにしているだけだ」


 グラムは反論する。

 しかしウィルは動じなかった。


「ああ、そうさ。俺は、スレールがあなたと一緒にいる時間を少しでも長くすることを目的としている。あなたは【ノルニル】で、その役目も知ってる。だから俺にはスレールの願いを完全に叶えてやることはできない。それでも頼まれたんだ。だったら俺にできることをやるまでだ」


 グラムはじっとウィルの目を見つめた。それから静かに息を吐く。


「好きにしろ」


 そう言ってグラムは少しだけ口角を上げた。

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