第14話 いつか来る未来

   □


「少し話が逸れたな」


 グラムはそう言って目を伏せた。

 それから暫く沈黙が続いた。

 ウィルたちはグラムから発せられる重々しい雰囲気に口を開けずにいた。


「ウィリアム・レイマグナ。そしてフェルニル」


 グラムはゆっくりと顔を上げると二人のフルネームを口にした。

 不意に破られた沈黙と名前を呼ばれたことに動揺する二人。


「ここまでの話を通してお前たちの心の動きを見てきた。お前たちが私の物語を引き継げるかどうかを確かめるためにな」


 ウィルは緊張した。自分たちがグラムを救う器たりうるかどうかの結論を、グラムが出そうとしているのが分かったからだ。


「お前たちにならスレールを託せよう」


「どういうことだ?」


 ウィルはグラムの言葉をどう捉えていいのか分からず訊ねた。


「混乱させて悪いが、これが私から提示できる『解決方法』だ。お前たちはスレールに頼まれ、私を助けようと考えているが、私が助かること……すなわち快復することは不可能だ」


「はあ?」


 疑問の声を上げるフェイ。しかしグラムは気にせず続けた。


「私はこれより自らの意思でエネルギー体へと還元する。力を失いつつある今、人の姿とこの空間を維持するのがやっと。いつ消えるかも分からない力を完全に失えば自動的にエネルギー体へと還元される。還元すれば力が戻るからな。代わりに二度と人の姿にはなれず自我も失うこととなる」


「スレールは元気になったあなたとこれからもずっと暮らしていきたいんだ。あなたが提示した解決方法ではスレールの望みは叶わない……」


 話を聞いて唖然としていたウィルだったが、すぐさまスレールの想いを代弁した。


「私は【ノルニル】。いずれは与えられた役目を果たすため、彼女のもとから離れなくてはならない。必然なのだ。それが遅いか早いかの違い。––––スレールを誰かに託す考えは二ヶ月前、弱体化した時点で決めていたことなのだ」


「決めていたこと? ふざけるな!」


 思わずウィルは感情を剥き出した。


「あんたはスレールと離れる日が来ることを承知で一緒にいることを決めたんじゃないのか? 孤独が寂しいことだって分かったからそうしたんだろ?」


「お前たちがいればスレールは孤独にならない」


「違う! あんた以外の誰といようとスレールから孤独は消えない。あんたとスレールは同じ時間を、感情を分かち合ってきたからだ。あんたがいなくなるってことはスレールがまた両親を失うことと同じなんだよ」


 捲し立てるウィルの呼吸は荒くなっていく。


「だがどうすることもできない。私が私の役目を放棄することを世界は望まない。それは私も同様のこと。私はスレールを守りたいのだ」


 グラムの真摯な表情に、ウィルは大きく深呼吸をして冷静になるよう努めた。


「結論が決まってたとしても、その期間を延ばすことはできる。それに、あんたは自分のことをスレールに話すべきだ。何も知らせないまま勝手に消えるなんて無責任にもほどがある」


 ウィルは落ち着いた口調のまま続けた。


「あと、あんたの提案は聞き入れない。俺はスレールの願いを叶えるためにここに来たんだ」


「ああ、そうだぜ!」


 今までウィルの迫力に気圧されていたフェイが勢いよく飛び上がり、ウィルの頭上に着地して言った。


「俺たちの依頼人はスレールだ。スレールの依頼を邪魔するお前は敵ってことだ……。でもこいつをどうにかしないといけないんだよな?」


 意気揚々と声を上げたフェイだったが、自分の発言に矛盾を見つけて混乱した。


「まあ解決方法ならまだあるさ」


 そう言うとウィルはグラムに目を合わせて微笑した。


「【ノルニル】は別名【神の纏戟てんげき】って呼ばれてるんだ」

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