第12話 呪われた一族

   □


「スレールが『500年生きた賢者』の子孫?」


 ウィルはスレールの素性に驚いた。そして泉に向かう途中でスレールから聞いた「呪われた一族」という言葉の意味を理解した。


「そうだ。『500年生きた賢者』の祖先にあたる人物は女神から直接魔力を与えられた初めての人間。それが起因かは不明だが、その子孫である『500年生きた賢者』は突然変異を起こして先の特異体質と特殊能力を手に入れた……。そしてそれらは末裔であるスレールまで脈々と受け継がれている」


「スレールの両親が殺された理由は賢者の子孫だから」


 ウィルはスレールが一人にならざるを得なかった理由が祖先賢者の犯した過去の罪にあることを知り、胸中に重く冷たいものがのしかかった。


「賢者の血縁であるスレールの父親は自身に何も罪はないとこの町に留まることを決意した。人当たりが良く、快活な性格の父親は、忌み嫌われた賢者の子孫でありながら一部の町民に愛されていた。スレールの母もその一人だった。しかし、父親を殺したのは彼の仲間だった。裏切ったきっかけは不明だが、彼の血縁が関係していることは間違いない」


「祖先の罪を子孫が清算する義務はない。ましてや被害者の祖先を持つ、今を生きるやつらが断罪する権利もない。スレールは何もしてないんだ。ただ生きていただけ。それなのにスレールから幸せ両親を奪った」


 ウィルは町の理不尽な行為とその結果に、怒りと悲しみが入り混じった感情を抱き、苦悩した。


 スレールは顔も知らない祖先のせいで町の人々から嫌われ、両親を亡くし、一人で生きていかなければならなくなった。

 それでも前向きに生きようとしている。

 両親が遺した言葉を信じて。

 年端のいかない少女が、だ。

 幾度も挫けそうな時はあっただろう。

 それでも信じ続けられたのはグラムの存在があったからなのかもしれない。

 互いに支え合う一人ぼっち同士。

 グラムが寝たきりになった時、どうしようもない不安が襲いかかったに違いない。

 私が助けないと––––。

 スレールはその一心でグラムを看病してきたのだろう。

 最悪の結果が訪れないことを祈りながら。


 ウィルはスレールのためにグラムの問題を解決することに尽力する決意を改めて固めた。


「あの子は……スレールは強い子だ。私と出会わなかったとしても一人で生きてきただろう」


 グラムはウィルの心情を読み取ると自身の中にある答えを示し、遠い目をした。


「……私とスレールが出会った日。スレールは一人ぼっちの私に微笑みかけてくれたのだ。その日、スレールは両親を殺されたというのに。私に手を差し伸べてくれたのだ」

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