第11話 特異体質と特殊能力
□
二ヶ月前のことだ。
嵐の夜だった。
その夜、スレールは暴風で小屋が吹き飛ばされてしまうのではないかと心配しながら食事をとっていた。
私が弱体化する以前までは、食事は無から有を生み出す力––––【
当然、スレールは食事もこの小屋の存在も魔術によるものだと認識していた。
私の素性や力の原理を知らないのだからな。
だからスレールは小屋の様子を心配した。
そして行動した。
私が目を離した隙に、ロープを持って外に出た。
小屋が飛ばないように近くの木に固定しようと考えたのだ。
小屋のことを案ずる必要はなかった。
この小屋の内部は外の世界とは異なる次元に存在しているため、外での出来事は中に影響しない。
スレールが知る由もないことだ。
初めにしっかりと教えておくべきだった。
私は二つの間違いを犯した。
一つ目が先述のこと。
二つ目はスレールの心を読まなかったことだ。
スレールとは一人の人間として知り合っていきたかったのだ。
愚かな考えだった。
そのせいで、事故は起きてしまったのだから––––。
□
お前たちも半壊した小屋の様を見ただろう。
落雷があったのだ。
しかもスレールが外に出たタイミングで。
雷は小屋の半分を焼き、スレールをも焼いた。
私は急いで彼女のもとへ向かった。
体のほとんどは焼け焦げていたが、かろうじて息をしていた。
助けることは容易だった。
【
しかしここで予想外の現象が起きた。
スレールを蘇生している只中のことだ。
蘇生に必要な量以上の私の魔力がスレールに吸収されていったのだ。
理解できなかった。
止めることすら叶わなかった。
この時、私は半ば無意識的にスレールの心の奥底に意識を向けた。
彼女が自覚し得ない魂の記憶に繋がったのだ。
そこで彼女の血統を知った。
同時にこの現象が起こるべくして起こったのだと納得した。
スレールはある特異体質と特殊能力の持ち主だった。
どちらも遺伝によるものだ。
家族を失った今、おそらく世界に彼女だけが持っているものだろう。
自身が保有できる魔力量の上限を持たないという––––特異体質。
自身が意図するしないに関わらず他人の魔力を吸収してしまう––––特殊能力。
私がスレールを蘇生するため魔力を注いだことがきっかけで特殊能力が暴走した。
結果、常人では保有できないほどの膨大な私の魔力をスレールに吸収されてしまった。必然、私の中の魔力はほとんど消失した。かろうじてこの小屋を維持することはできたが、一日中ベッドで休むことを余儀なくされた。
□
スレールに事故前後の記憶は残っていない。落雷のショックのためだ。
しかし弱体化した私の原因が自分にあると疑わなかった。
「私が呪われた一族の末裔だから」と––––。
彼女はしきりにそう言っていた。
だから私に災いが降りかかったのだと。
私は否定した。
否定したかったのだ。
スレールが呵責に苦しみ、心を痛まないように。
スレールの体質は彼女のせいではない。
血統によるものだ。
彼女の一族が町から忌み嫌われている理由もそこにある。
『500年生きた賢者』。
スレールと同じ特異体質と特殊能力を持ち、魔術にも長けた男。
160年前、魔術発祥の地であるこの町を破滅に追い込み、現在の状況にした張本人。
スレールはその男の子孫なのだ。
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