第9話 ノルニル

   □


「神の創造物……【ノルニル】だと?」


 ウィルは困惑していた。


 【ノルニル】。

 ウィルはその存在がどういうものかを知っていた。

 しかし眼前の少年が、そう名乗る理由が分からなかった。

 なぜならウィルの知るそれは人の形をしていないからだ。剣や盾といった武器の類。それが【ノルニル】であると認識していた。


 それでもこの話がグラムの虚言だとは思わなかった。

 思えなかった。

 グラムが創ったという小屋の内部。

 小屋の外から見た内部と異なる様相。

 現実を書き換えている?

 実在する窓や家具。

 空間を創り出している?

 無から有を生み出している?


 とにかく魔術とはかけ離れた、魔術以上の力が働いていることはこの小屋が証明している。

 さらに心を読めると明かしたグラムの口から「神」という言葉を聞いて、彼の言葉を、その存在を納得せざるを得なかった。


「困惑しているな。お前たち人間、特に『魔術協会』は我々を探しているから尚更だろう。お前の言うように【ノルニル】とは神によって創られた、神の力を宿す剣や盾といった武器の類。エネルギー体としての存在に武器という器を与えられた––––それが我々ノルニルだ」


 グラムはウィルの心を読み、自身について説明した。


「私は神によって最後に創られた【ノルニル】。そこには神の意思が強く反映された。理由は分からん。だがその影響で私には自我が生まれた。そしてこの身を武器以外に変貌する力を得た。その力を使い、私は人の子を成している。人の形をし、自我を得た【ノルニル】––––それがグラムだ」


 そしてこの小屋についても言及する。


「この小屋は私に宿る神の力、無から有を生み出す業––––【ウィアド】を使い、創り出したものだ。スレールと出会い、彼女に不自由させないために設けたもの」


 スレールのため––––。

 そう聞いてウィルは意外に思った。

 人知を超えた存在であるグラム。

 正直、何を考えているか分かったものではない。

 次々と言葉を紡ぐグラムに気圧されっぱなしだったが、スレールへの想いを聞いた途端、彼を身近に感じた。

 神という不確かな存在というよりも、友達を想う一人の人間として。

 グラムを認識したのだ。


   □


 この世界に【ノルニル】は九つ存在する。

 それぞれに名があり、形がある。


 名は『スヴァリン』。形は盾。

 名は『グラム』。形は剣。

 名は『グングニル』。形は槍。

 名は『レーヴァンテン』。形は剣。

 名は『ミョルニル』。形は鎚。

 名は『ブリーシンガメン』。形は首輪。

 名は『グレイプニル』。形は紐。

 名は『ドラウプニル』。形は腕輪。

 名は『ギャラルホルン』。形は角笛。


 これらは人間の世界を創造した神の手により創られた。

 形のないエネルギーとして生まれ、武器という器を与えられた。

 器には魔力に反応する鉱物––––魔鉱石まこうせきが使用され、【ノルニル】自体に膨大な魔力が備わっている。

 そしてそれぞれが神の力の片鱗を有している。

 『グラム』以外に自我のあるモノはおらず、人の形を成すモノもいない。

 だから自己判断で力を使えない。

 力は使い手と判断された者のみが発揮できる。

 しかし実際に使える人間はほとんどいない。

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