第8話 グラム

   □


 グラムに正体を言い当てられ、ウィルとフェイは動揺した。同時に彼の口調から子供らしからぬ物々しいプレッシャーを感じた。謎の魔術を使用する点においても少年を警戒する必要があった。


「お前、何者だ?」とウィルは訊ねようとした。しかしその前にスレールがグラムのもとへ駆け寄ったためタイミングを逃した。


「起きて大丈夫なの?」


「あぁ、少しは良くなったから大丈夫だよ、スレール。それで、彼らは?」


 グラムは柔和な口調で返した。ウィルたちに放ったプレッシャーは微塵も感じない。

 

「魔術師よ! 町でウィルと出会って、あなたの話をしたら助けてくれるって言ってくれたの。だから連れてきたのよ」


 スレールは無垢な笑みを向けるとグラムも柔らかな表情を見せる。


「ありがとう、スレール」


 そう言ってグラムは二人の方へ目を向けた。そしてすぐにスレールに向き直る。


「治療について、彼らとは僕の部屋で話をするよ」


「えっ? 私は一緒じゃダメなの?」


「あまり心配かけたくないんだ。治せるかどうかも分からないし、嫌な言葉を聞くかもしれない。だから結論が出るまで待っていてほしいんだ」


 グラムの言葉に納得し切れていない顔をするスレール。

 それから少しの沈黙が続いた。


「……分かったわ。でもすぐに教えてね」


 スレールはグラムの容体を心配する気持ちを押し殺して彼の提案を聞き入れた。


「ありがとう」


 グラムは終始柔和な表情をスレールに向けていた。


「こちらへ」


 それからグラムはウィルとフェイを自室へ招いた。その時の目つきはやはり鋭かった。


   □


 グラムは自室に入るとドアの向かいにある窓まで進んでいった。

 ウィルとフェイは彼と距離を取るためにドアの前で立ち止まった。グラムが二人に背を向け、窓から外を眺めているにも関わらず、そこに一分の隙も見られなかった。

 二人は警戒を続けていた。未知の相手が、スレールがいない状況でどんな行動に出るか判然としないからだ。フェイに至っては正体がすでにバレているのに、妙な緊張感のせいで一言も言葉を発せずにいた。


「私が何者か気になっているのだろう?」


 グラムは窓に向かったまま厳かな口調で言った。


「……ああ、そうだ」


 ウィルが答えると、グラムはゆっくりと振り返った。


「『咎魔術師シンナー』に悪魔––––。この世界においてどちらも受け入れ難い存在。忌むべき存在。しかしスレールが選んできた者たちでもある。それにお前たちからは敵意を感じない。正体不明の私への警戒心のみ。スレールの願いを叶えるためにここへ来たのも事実」


 二人は見事に心の内を言い当てるグラムに恐怖心を抱いた。


「怖がるのも無理はない。私は人の心が読めるのだ」


 グラムは微笑んだ。

 二人は一層緊張した。


「お前の考える通り、私は自身の状態を理解し、解決方法も知っている。お前は私からその方法を聞きたいのだろう?」


「そうだ。そうすればスレールの願いを早く叶えてやれる。だから教えてほしい」


 グラムの問いに、ウィルは額に嫌な汗をかきながらも平然なふりをして自分の要求を伝えた。

 対するグラムはウィルを見つめたまま黙っている。

 ウィルはその目に、すべてを見透かされているような気がして、さらに緊張した。


「私自身、この物語を進めようと決していた」


 暫く沈黙した後でグラムが口を開いた。


「お前たちがその器たりうるか、見させてもらおう」


 二人はグラムが何を言おうとしているのか理解できず狼狽した。

 グラムはその様子を気にせず、二人が知りたがる情報––––自身の素性について口にした。


「私は神の創造物。【ノルニル】の一つ。名を『グラム』と言う」

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