第7話 秘密の部屋

   □


 ボロボロの小屋は近くで見ると一層酷い有様だということがよく分かった。


「おいおい……」


 あまりの状態にフェイは羽で目を塞いだ。

 小屋の正面を前にして左側。遠くで見た時に死角になっていたその部分が落雷の被害を受けたかのように黒く焦げ、屋根や壁面がほとんどなくなっていたのだ。


「入って入って」


 小屋の様子からスレールの身を案じる二人だが、当の本人は気にすることなく笑顔で二人を招き入れた。


「なんだよ……ここ」


 小屋に入るなりフェイは驚きの声を漏らした。隣にいるウィルも眼前の光景に絶句している。


 二人はスレールに招かれ、ボロボロの小屋に足を踏み入れた。出入口のドアはかろうじて形を保っていたが、開けようとすると歪な物音を立てた。

 小屋に入る前、壁に空いた穴から中を覗いてみると外壁と同じくらい内部も朽ちていた。人が住めるような場所だとは思えなかった。


 だからこそ二人は驚いたのだ。

 確かに小屋の内部は荒れ果てていた。


 ––––はずなのに。


 中に足を踏れた瞬間、真新しい木材が使用されたきれいな部屋が目の前に広がったのだ。


 入口の近くに丸いテーブルとイスが二脚、簡易的なキッチンとガラス窓が二つある。そして小屋の右手に通路があり、その奥に部屋が二つ並んでいた。

 外から見た小屋の大きさと内部の広さの辻褄が合わなかった。どう考えても小屋の外見と比べて内部の広さが二倍以上あった。


「どういうことだ?」


 ウィルは自然と警戒心を強めた。


(幻覚? スレールが見せているのか?)


 スレールに目を向ける。


(彼女は何者だ……)


 スレールの素性に懐疑心を抱き始めると、笑みを浮かべた彼女が口を開いた。


「びっくりしたでしょ! 私も初めはそうだったんだ!」


 そのあまりの無邪気さに狼狽するウィル。


「これはねグラムがやってくれたの! おかげで快適な暮らしよ。私と同じくらいなのにすごい魔術だよね」


 スレールは感心していた。

 ウィルとフェイは互いに顔を見合わせた。「魔術でできることではない」と理解していたからだ。

 とりあえずスレールに危険はないとウィルは警戒心を解いた。それから現状を把握するため入口近くのテーブルに手を乗せるとはっきりとした木の手触りがあった。


(幻覚じゃない。確かに存在している)


 入口の向かいにある窓から顔を出して外壁を見てみると、そこには外から見た時のような朽ち果てたボロボロの壁があった。左側に目を向けると落雷で空いた大きな穴もある。


「どうなってんだ? 本当にグラムってガキが魔術でやったことなのか?」


 困惑するフェイ。


「外から見たらボロ屋。中に入れば新築。しかもちゃんと実在している。……現実を書き変える魔術? 聞いたことがない」


 ウィルはそう推理しておいてとても現実的な考えとは思えなかった。


 外見はそのままで中身だけ作り変えられ、しかも空間が拡張された小屋。


 魔術を知らない者からしたら疑いを持たないのかもしれない。


「グラムって子に直接聞いてみるしかない」


 その時、奥の部屋のドアが開いた。

 短い黒髪に眼光鋭い切れ長の目。先ほどまで寝ていたのか白いパジャマを着た十歳くらいの少年が姿を現した。

 そしてウィルとフェイを一瞥する。


「ほう、『咎魔術師シンナー』に悪魔か」


 少年––––グラムは二人の正体を口にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る